09
「私を婚約者ですって?ふざけないで!誰がアンタみたいな変態と婚約するもんですかっ!ミザリーにお金と引き換えに私と婚約させると言われたんでしょ!?どうなの!?」
私にちょん切ると言われ股間を押さえるように蹲ったバーナピーは、消えそうな声で「はい…、そうです…」と答えた。
「アンタ…っ」裏切られたミザリーは、ギリギリ奥歯を噛みしめた。
これでめでたく三発目も決まったわ。
「この先、また女の子を拐って同じことをしたら許さないわ。もうしないと言うなら“私は”何も言わない。いいわね?」
バーナピーは何も言えず、何度も頷くだけだった。
「さて、トビー?あの人誰だか知ってる?」
バーナピーの後ろで、顔を青くして立っている男の人を指した。
「いいえ?どなたですか…?」トビーは首を傾げ、真っ直ぐ男の人を見つめた。
「トビー?もしかしてトヴァイアスなのか…?」男の人はトビーの横に来て、膝を着いた。
トビーの手を取り「大きくなって…」と目から涙をこぼした。
口を開けて戸惑うトビーを見て私は「トビーの本当のお父さんよ」と教えてやる。
ちょっとしたサプライズだ。
「僕の父上!?本当に!?」驚くトビーを、名をトーマスさんと言う父親は優しく抱きしめた。
このトーマスさんは、バーナピー家で侍従見習いをしていた。20代半ばで見習い。どんな扱いを受けていたのか、分かるってものよね。
トビーのお父さんがバーナピー家にいるのは分かっていた。誰かまでは書いてなかったから、ジェロームに調べてもらったの。
「ああ、そうだ。私がトヴァイアスの父だ。ずっと探していた。やっとこの手に抱くことが出来た」二人を並べるとそっくりだ。
「顔が良く似ている。間違い無いようだ」とお祖父様が言ってくれた。私もそう思う。
「ありがとうございます。あの女に騙されていたのですね…」トーマスさんがミザリーを睨む。
ミザリーの方は、トーマスさんを見ようともしなかった。
「何があったの?」私が聞くと「いいえ、もう良いのです。こうして息子に会えただけで…」と、トビーを抱きしめたまま離そうとしない。
トビーも嬉しそうだから、良いか。
◆◇◆◇◆◇
「バーナピー卿、あなたにはミザリーと結婚してもらうわね?おめでとう」
ミザリーが私に食って掛かる。「なんで私がこんなヤツと!絶対イヤよ!」
あれ、もう麻痺が切れちゃった。
「あ゙?あんたに拒否権なんか有るわけ無いでしょ?どの口が言ってんのよ。アンタ達、クズ同士でお似合いよ」
冷めた目でミザリーを見ると「この…ルイ!こいつを殺しなさい!」
壁際に立っていた騎士が一人、剣を抜いて私に斬り掛かった。
それをお祖父様が腰の短剣で弾き、一歩前に出てルイの鳩尾に「フンッ」と拳をめり込ませた。
「ウッ……」とお腹を押さえながら床に沈んだルイ。
「ヒューイ、弛み過ぎではないのか?」ギロッとお祖父様に睨まれたヒューイは飛び上がり、ヒュッと空気を喉から漏らす。
「つ、連れて行けっ!」ヒューイの一声で、他の騎士達がルイの体を拘束した。
「ミザリー…」ルイが助けを求めるが、自分は関係ないとでも言うように、ミザリーはそっぽを向いた。
どこまで行っても情けない女だ。
これで子飼いも始末できたわね。
◆◇◆◇◆◇
「トビー、包帯を全部取ってくれる?」トーマスさんと抱き合っている所に申し訳ないが、手を貸してもらう。
全ての包帯を外し、ドレス姿で立ち上がって見せる。
「あっ…あんた、ケガは?」ミザリーが私に話し掛けてくるが、私は無視した。
胸に下げている三日月のペンダントを、全員に見えるように掲げた。
「公爵家次期当主として告げます。バーナピー卿とミザリーの婚姻を認める。そして、ミザリーの借金白金貨3枚分を、バーナピー卿に肩代わりしてもらいます。出来るわよね?闇奴隷商を“あなたが”営んでいるんだから。お金ならたっぷり有るでしょ?」
「なぜ…それを…」まさに顔面蒼白。
あー面白い。
「商売も畳んでもらう。また始めたら容赦しない。言う事を全て聞くなら“私は”黙る。どうする?」
たかだか8才の娘に凄まれて、ガタガタ怯える三十路男。
バーナピーは「分かりました。全て言う通りに致します。どうかお許しを…」やっと観念したのか項垂れた。
「じゃあ、そのゴミ持って帰って。あ、ミザリー。盗んだ母の私物は全て返してもらいます。それと、私を殺そうとした事は、ここにいる全員が見ていた。もし逃げたり、また私の命を狙うようなマネをしたら、命で償ってもらう。忘れないでね」
すると、手に持っていた三日月がポワンと輝き、一粒の光がミザリーの額に着いた。
額のド真ん中にでっかいホクロのような、丸くて真っ黒の円が描かれた。
ピコンッ《鑑定:呪縛の一種 他人に悪意を持つと鋭い痛みが走る 反省するまで痛みは続く》と出た。
「呪いを付けたわ。他人に悪意を持つと痛みが走るって。良く反省しなさいね?」
教えてやる必要は無いけど、罰があった方が良いもんね。
ふふん、ざまぁみろ。




