08
「お前は婚姻制度も理解しておらぬのか。何と間抜けな女だ」お祖父様が呆れて、言葉を吐き捨てた。
「アーチーとあなたが婚姻を結ぶには、アーチーがフリーランド家から離籍しなければ無理なのよ?だって、ただの入り婿なんだから。公爵籍は持っていないのよ?」
今まで何度も“アゼリアが”ミザリーに説明しているのだ。「お父様との婚姻は出来ないのです」と。
キーキー喚くだけで理解しなかったけど。
「赤の他人が我が家の資産を好きに使った。これは立派な窃盗です。あなた達が使ったお金を返却するならば許しましょう。返せないのであれば、王宮に通報するまでです。どうしますか?」
私が目だけを動かしてミザリーを見ると、悔しそうに口唇を噛んでいる。
「私の…お…金を…使ってな…にが…悪…い…の…よっ」ミザリーの言葉に、その場にいる全員が目を剥いた。
「あなたはどこまで愚かなんだ…」ヒューイが呆れて言った。
「領収書は全部揃えたかしら?」と、家令のケイブに聞く。
「はい、お嬢様。全てこちらに」と、紙束がテーブルに乗った。
この中に、ミザリーが実家に送った分も入っているだろう。
すんごい厚み。よくもまぁこんなに…。
「合計金額は?」
「旦那様がこの4年で白金貨2枚。ミザリー様が白金貨3枚です…」
「なっ…、何だとぉーーっ!」お祖父様、落ち着いて?
ちなみに白金貨1枚で一億円ぐらいよ。
「ケイブ。あなた、それをずっと黙って支払っていたのよね?どうしてなの?」私の質問にケイブは、床に額を擦り付け「申し訳ありませんっ。いつの間にか領収書が回って来て、支払わない理由にはいかず…。誰にも相談出来ませんでした…ウッウッ」
はぁ〜…、と私は深いため息を吐いた。
ケイブは、フリージアが亡くなった後に雇った人だ。要は経験が浅くて、ミザリーの言いなりだったのだろう。
子飼いじゃなかったのね。
「分かった。あなたの処分は後よ。それで?二人はこのお金、どうやって返してくれるの?明確にできるのなら、今、話を聞くけど?」
二人は金額の大きさに焦ったのか、ここから逃げられないと悟ったのか、冷や汗を大量に掻きながら俯いた。
おかげで、ミザリーの化粧もドロドロに落ちたよ。ププッ。
「そう、案は無いのね。ならば借金と見なし、全額きっちり返して頂きます。アーチーは離籍後、北方の鉱山に送りなさい。ミザリーは…やっぱり娼館かしら?生きているうちに全額、返せるかしら?」部屋の中の全員が首を横に振った。
だよね~。う〜ん、どうしよう?
とそこへ、客が来たと知らせが届き、ジェロームが玄関に向かった。
多分アイツだろうな?あっ、そうだ!
◆◇◆◇◆◇
食堂の扉が開き、入って来た男が二人。
「やあ、これはこれは、皆様お揃いで。アゼリア嬢、誕生日おめでとう!」と、満面の笑みで花束を抱え、テーブルの真ん中に座る私に近寄って来た。
この、胡散臭い顔をした男がバーナピー伯爵か。
「どちら様ですか?」冷静に問い掛ける私に、おや?とバーナピーが目を見開いた。
「あなたの婚約者のホイス・バーナピー伯爵ですよ!もっと早くお会いしたかった!私を待っていたのでしょう?さぁ、パーティーを始めましょう!」両手を天井に高々と上げて、悦に浸っているけど…
皆から白い目で見られているのに、気付かないマヌケ男。
ミザリーだけは、味方が現れたと思って喜んでいる。動かない体をガタガタ揺らし、存在をアピールしているけど、バーナピーの目には入らないようだ。
「トビー、顔の包帯を取ってくれる?」
トビーは無言で頷き、丁寧に包帯を外し、髪まで整えてくれた。
「ありがとう、トビー」私の、傷が一切無い顔を見てミザリーが息を飲んだ。
「ど…う…し…て…」
ミザリーを無視して、バーナピーに向き合う。
私の顔を見て、デレデレと目尻を下げているバーナピー。キモい。
「さてバーナピー卿?私の知っているバーナピー伯爵は、幼い女の子が大好きで、貧しい村や街の中でむりやり拐い、別荘に閉じ込めて身の回りの世話をさせている男のことだけど?一緒にお風呂に入り、体中を舐め回すそうよ?13才ぐらいになると急に興味を無くして、わずかなお金を持たせて、森の中に放り出すそうね?そうでしょ?バーナピー伯爵?」
私の鋭い睨みと、使用人達の驚愕の目線と、青ざめるバーナピーの比較が面白い。
使用人達は怒りで震え、バーナピーは誰にも知られていないハズの秘密を、他人に知られた衝撃で震えている。
「ハハ…何のことでしょう?私は何もしておりませんよ?」
ふ〜ん、しらを切るか。
「そお?ロッテ、カリーヌ、ジャスミン。まだ言った方が良いかしら?」
これは王妃となったアゼリアが、夜会で酔っ払ったバーナピーが、ベラベラと自慢気に話しているのを聞いてしまい「そんな…なんて事を…。女の子達が幸せに暮らせていれば良いわね」と、外に向かって静かに祈るのだ。
イヤ、祈ってんじゃねーよ!変態を断罪しろって!
「こっんの変態!ロリコン!気持ち悪いんだよ!お前の大事な所、ちょん切ってやろーかっ!!」
いきなり怒鳴った私に、全員の視線が刺さる。




