06
本によると、私達の誕生パーティーに30才になる伯爵家当主の男が来て、金と引き換えに8才の私を婚約者として連れ帰る。花嫁修業をさせると言って。
ふざけんな!ロリコン野郎!!
五年程伯爵の所で酷使され、13才になると王立学院に通うためと婚約を破棄されたため公爵家に戻るのだが、ミザリーに「あなたは本当に役に立たないわね」と、また嫌がらせの毎日が始まるのだ。
「ごめんなさい、お義母様…」と俯いたまま微笑む。
って、微笑んでんじゃねーよっ!戦えよっ!!
まぁいい。今はまだそこまで時間がある。あの二人と共に伯爵も撃退してみせましょう!
「パーティーの中止は、招待客全員に知らせたのよね?」
「うん。ジェロームが招待状の手配をしたから、送った人全員に姉上の体調不良で中止にしますって知らせてたよ?ほとんどの人がお大事にとか、来年は盛大にやりましょう、とか言ってたみたい。数人、どうしても伺いたいって言ってるのがいるって。もしかしたらそれがバーナピー伯爵の事かも?」
そうだ、バーナピーだ!ヘンな名前〜と思ったんだった。
そこへジェロームが果物と、レターセットを持って戻って来た。
「お嬢様、こちらを」
「ありがとうジェローム。これからの作戦を話すわね」
私は明後日の誕生日に、何をするつもりなのかを二人に詳しく説明した。
殺すつもりは無い。
ただ、容赦はしないわよ。
私はお祖父様に“すぐ来て欲しい。誕生日だから会いたい”と書いて手紙を出した。
多分、馬を飛ばして一人で来るだろう。それなら半日で着く。お祖母様はまた今度ね。
トビーとジェロームに用意して欲しい物を頼み、当日までじっくりと作戦を練った。
そして私の誕生日が決戦の時だ!
◆◇◆◇◆◇
私の8才の誕生日当日。
身内だけの、ささやかなパーティーを開くと屋敷内に知らせた。
昼食時に簡単にやろうと“私が”指示を出した。
あの二人にも話は届いたことだろう。
トビーは私の部屋で、仕度を手伝ってくれている。
そして、側に大柄な男の人が立っている。
お祖父様だ。
名前はゲルハルト。恰幅が良くイケメン。堂々とした立ち居振る舞いは、さすが元公爵家当主だ。
私の手紙を読み、すぐさま孫の危機を感じ取って護衛を蹴散らし、昨晩遅くに王都まで来てくれたのだ。
護衛の皆さん、ごめんなさい。
「アイツらは軟弱過ぎだ。帰ったらまた一からシゴかなければな」お祖父様はガハハと笑っていた。
今だに現役の騎士に負けない程強いんだ。カッコイイ。
お祖父様とはフリージアの葬式以来、会えていなかった。
手紙のやり取りも無かった。
それはもちろん、ミザリーが妨害していたからだ。
「お前に何度も手紙を送っていたのだよ?何故一通も返事をくれなかったのだ?」優しい目をしながらも、今だに最愛の娘を亡くした痛みから抜け出せないようだ。
私から拒絶されたと思っていたのだろう。
「お祖父様聞いてちょうだい。今まで何があったのか全て話すわ」
私とお祖父様の真夜中の会談は、こうして始まった。
明け方近くまで話をし、お祖父様に私の考えを伝えた。
「ごめんなさい。公爵家を継ぐことは出来かねます。一人の女性として、自由に生きて行きたいの…」私はお祖父様に頭を下げた。
許されないのは分かってる。もう二度、お祖父様と顔を合わせる事は叶わないかもしれない。
「はぁ〜…。孫がそんな目にあっていたとは。俺も今となっては何故ここまで公爵と言う地位に固執していたのか…。そんな事に拘らなければ、フリージアはまだ生きていたのかもしれん。だがそうなると、アゼリアに出会えなかったと言う事になる。それはそれで、とても寂しく思うよ…」私の頭を撫でながら、お祖父様は悲し気だ。
「お祖父様、過去は変えられないわ。今はまず、過去の清算をしましょう?どちらが役立たずか思い知らせてやるわ!」
ニヤリと笑う私を見て、お祖父様が顔を引きつらせる。
「アゼリア…ずい分元気になったな?」
ずっと大人しく、感情をあまり外に出さなかったからね。不思議に思うでしょうとも。
「トビーに階段から突き落とされて、目が覚めたのよ。黙ってても良いことなんか無いって。私はこれから、言いたいことは何でも言うわ。口にしなければ伝わらないもの」
トビーの身の上も話し、これからも私と共に生活する事を許してもらった。
「実の子になんてことを…」ミザリーの仕打ちにお祖父様が頭を抱えた。
お祖父様とミザリーは、顔を合わせた事が無い。
パーティーが楽しみね。
◆◇◆◇◆◇
昼になり、私の準備も整った。
私はお祖父様に抱き上げられ、食堂へと赴く。
今、私の全身は包帯でグルグル巻きになっている。ケガが治っていないフリをしているのだ。
コの字型に並べたテーブルの真ん中に、私は座らせてもらう。
右にお祖父様、左はトビーに立っていてもらった。
そしてお祖父様には「いきなりミザリーに切り掛からないでね?」と、お願いしておいた。
あの二人、どんな顔をして来るかしら。
もう、アンタ達の好きにはさせないわ。




