05
「トビー、ジェロームを呼んで来てくれる?」
「うん、食事と薬を持って来てもらうね」
私が微笑んで頷くと、トビーは飛ぶように部屋を出て行った。
三日月を握りしめ(早く体を治さなきゃ)と思っていたら、体から淡い光が放った。
「うぇっ?」光が徐々に消えていくと、私のケガはすっかり治っていた。
「うわぁ~、どこも痛くないっ」思わずベッドから降りて、姿見の前に行き全身を眺めた。
腰まであるまっすぐな金髪。瞳の色は青紫色。目はクリッとして口唇はプニプニの桃色。
こりゃ美少女だ。
トビーと姉弟に見える…か?皆よく信じたね。ちょっと呆れる。
鏡の前で考え事をしていると、トビーとジェロームが部屋に入って来た。
「姉上!もう動いて大丈夫なの?まだ寝てなきゃ…っ」私は慌ててベッドに戻った。
どこで誰が聞き耳を立てているか、分からないからね。
私は二人に向かって「シーッ」と言い、手で側まで来るように誘う。
「あの二人はどうしてる?」
「はい。パーティーの中止と買った物を全て返品。部屋にあった金目の物も全て取り上げ、閉じ込めております。部屋の中で何やら喚いておりますが、使用人全員に従わないよう申し付けてあります。食事はパンと水のみ。部屋に運んで一歩も外に出られなくしています」さすがジェローム。
「あのメイド達は?」
「騎士を連れ部屋を捜索。三人共にアクセサリーが出ました。自分のだと言い張っていましたが、私の目に狂いはございません。全てフリージア様の物でした」
ジェロームの内ポケットからイヤリング、指輪、ブローチ、ネックレスにブレスレットがハンカチに包まれて私に渡された。
「三人にはクビを言い渡しました。紹介状も付けませんでしたので、元いた子爵家に戻るしかないでしょうな」顎のヒゲを触りながら、ジェロームが楽しそうに言った。
ざまぁないわね。
子爵家とはミザリーの実家ね。没落しかけていたから、ミザリーがウチからお金を引っ張っているのよ。それも取り返さなくちゃ。
「やるわねジェローム。大満足よ」
ミザリーが連れて来たメイドの三人は、私に嫌がらせをしてきたヤツらだ。
服やベッドに針を仕込み、お気に入りのドレスをズタズタに引き裂き、食事の配膳中にワザと落として「申し訳ありません。本日のご用意はこれしか…」と涙ぐんで見せる。
本のアゼリアは「あなた達はとても不器用なのね」と悲しそうに微笑む。それだけ。
ちょっとは怒りなさいよっ!私は黙らないわ、絶対に!
と、小学生ながら信念を持った。
“今”の私も本と同じように、悲しく微笑んで終わっていた。
もっと早く前世を思い出したかったわ。
ふぅ~。
◆◇◆◇◆◇
「では次に、この家の財政を詳しく教えてちょうだい。あの二人が何にお金を使っていたのかもね?そして、お祖父様に手紙を書くわ。王都の家まで来て下さいって」
「大旦那様を?」
「うん。あの二人を追い出すのよ」
私はニヤリと笑ってジェロームを見た。私の変わりように驚いているだろう。
ジェロームは何度か頷き「承知しました。レターセットをご用意致します」と下がって行った。
トビーと二人きりになったので、軽食を食べながら話をする。
辛いことを聞かなければ。
「トビー?この家にいたい?それともミザリーと一緒にいたい?」
卑怯な聞き方だと思う。ここにいれば多少は良い暮らしができるだろうけど、ミザリーに付いて行けば地獄しか待っていない。
正直、本には無かった展開だ。私にも何が起こるか分からないけど、もう止まる事は出来ないのだ。
「僕…、ずっと姉上と仲良くしたかった。許されるのなら、姉上と一緒にいたい…」
「本当に良いの?もしかしたら二度とお母さんに会えなくなるかも知れないのよ?」
トビーはまだ7才だ。母親が恋しいだろうに…
「母上は僕の事なんか気にして無いよ。何でも言う事を聞く奴隷としか思っていないよ…」
実の子にこんな事を言わせるなんてっ…。
マジ、ムカつく!!
「分かったわ。トビーの事は私が責任を持って守るから。安心してね?」前世アラサーだった頃を思い出し、思わず頭を撫でてしまった。
トビーはへへへと笑い恥ずかしがったが、撫でられて嬉しそうだ。これからも時々撫でてあげよう。
トビーは将来、王太子の側近になるハズなんだけど…。私は王太子に近づくつもりは無いから、側近になりたかったら自分でがんばってもらうしか無いわね。
◆◇◆◇◆◇
「姉上、体の方はどうなの?さっき立ち上がってたでしょ?大丈夫?」
「うん。なんか治っちゃったのよ、ホラ」とベッドから降りて歩いてみせた。
「すごい!もう治っちゃった!あのキラキラのおかげかなぁ?」
本当は三日月のペンダントのおかげだと思うけど、今はそう言う事にしておこう。
「うん、そうよ!きっとあのキラキラのおかげよ!」
トビーの両手を取り、二人でクルクル回って喜びを分かち合った。
「でも、この事は内緒よ?私の体はまだケガをしている事にしておいてね?ジェロームには話すけど」
「どうして?」
「まだミザリーの子飼いがいるからよ。私を売る話は無くなっていないの。誕生日の当日まで私は部屋から出られないわ。その分、トビーに色々お願いするからよろしくね?」
トビーはキリッとした顔をして「分かった。何でもするからね」と、口元を引き締めた。
私の誕生日は明後日だ。




