03
「ありがとうトヴァイアス。心配してくれるのね、嬉しいわ」アゼリアの得意技“ニッコリ微笑んで首を傾げる”。手を頬に当てる事もあるけど、大抵この描写だったな。
「姉上、本当にごめんなさい。こんなに酷いケガをさせるつもりは無かったんです。母上が、姉上に大事なドレスをハサミで切られたと泣きながら言うので、僕は頭に来てあんな事をしてしまいました。どんな罰でも受けます…ウッウッ…」やっぱりトヴァイアスは良い子だ。
「ねぇトヴァイアス?私が本当にそんな事をしたと思う?」
彼は手で乱暴に涙を拭いながら「いいえ。姉上は絶対にそんな野蛮な事はしません。僕は分かっているのに、あの時は怒りを抑えられませんでした…」
ふ〜ん?まさか操られたかな?
『慈愛の王妃 アゼリア物語』に魔法の描写は無かった。
ただ、奇跡が起きたかのような描写があったな。枯れた作物が一晩で元に戻ったり、枯れた井戸に水が戻ったり…?
アゼリアが「可哀想に…」と涙を流すと奇跡が起きてた。
アレは魔法だったのかな?
今の私にも魔法が使えるようだから、きっとあの本と内容が変わってる…と言うより、ぶっ壊せる!
今日、今から『慈愛の王妃 アゼリア物語』は消滅するのよっ!
◆◇◆◇◆◇
「ねぇトビー?あ、トビーでいいよね?」
トヴァイアスは目をパチクリさせて頬を指で掻くと、フフッと笑い頷いた。
「トビー、いくつかお願いがあるの。聞いてくれる?」
トヴァイアスは覚悟を決めるように、身だしなみを整え椅子に座り直した。
「まず、ジェロームを呼んで欲しいの。彼だけよ?メイド長とか、他の者にも知られないように連れて来てくれる?出来るかな?」ジェロームとはこの家の執事の名前だ。
この家はフリーランド公爵と言い、フリージアは前公爵の一人娘だった。
フリージアは亡くなっているが、祖父母は健在。馬車で一日ぐらいの領地で元気にしている…ハズ。
そしてジェロームは、この家に忠誠を誓っている。だから、私の味方でいるのよね。
少し顔を暗くしたトヴァイアスは、ジェロームを呼びに行ってくれた。
多分、怒られると思っているんだろうけど、大丈夫。ちゃんと守ってあげるからね。
しばらくして二人が部屋に入って来た。
「アゼリアお嬢様、お加減はいかがですか?何かご用意いたしましょうか?」初老のジェロームは、私を本当の孫のように可愛がってくれる。
ありがたいよね。
「大丈夫よ、ありがとう。実は大事な話があるんだけど聞いてくれる?トビーもよ?」
名を呼ばれたトヴァイアスは、ジェロームと私の顔を交互に見ながら、手をギュッと握りしめた。
「お嬢様、トビーとは…?」ジェロームにトビーの本当の名前を教えた。
もちろん、ミザリーに命令されてやらかしている事も。
「だから、トビーを怒らないで欲しいの。母親に操られていたと思って。全てにおいてミザリーが元凶なのよ」
ジェロームは静かに怒っていた。口元をキツく引き締めて、下を向いてしまった。
ジェロームは一つ大きく息を吐くと「承知しました。トヴァイアス坊ちゃまはお守りしましょう」そう言うと、トビーを優しく見つめた。
「ありがとう!ジェロームなら分かってくれると思ってたわ!」私は体の痛みも忘れて、少しはしゃいでしまった。
◆◇◆◇◆◇
「お嬢様…?少し雰囲気が変わられましたね?」
おっと。素の私が出てしまった。でも良いの。
「二人に聞いて欲しいの。私はアゼリアだけど、今までのアゼリアとは違うの。前世の記憶があるのよ」
二人は目を大きく見開き、口をパクパクさせて言葉が出ないみたい。
ふふふ、ちょっと面白い。
二人を眺めながら、大人だったこと、働いていたこと、そして殺されたこと。
トビーに突き落とされた時、前世を思い出したこと。
本の中とは言わなかったけど、この先の自分の人生に何が起きるかも話した。
「でもね?私は王妃になるつもりは無いし、黙って微笑むだけの人間になりたくないの。嫌なことは嫌って言うし、怒る時は怒る。相手が誰であろうと間違ってる時はちゃんと言う。我がままと捉えられてもいい。ちゃんと一人の人間として、自分の人生を歩みたいの。構わないかな?」
「お嬢様がずっと我慢なさっていた事は、気付いておりました。私共は、そんなお嬢様に甘えていたのですね…。申し訳ございませんでした…」
ジェロームったら、真面目なんだから。
「ううん、いいの。ただ、ヘタしたらこの家を潰してしまうかもしれない。許してくれる?」私はジェロームと見つめ合い、決意の固さを感じてもらうしか無い。
「それは…、何故なのかお聞きしても?」
「うん。あのね?この国は男尊女卑でしょ?本来、公爵を継げるのは血筋の男のみ。でもウチは、お母様しかいなかったから婿を取った。なのに、公爵の仕事をしていたのはお母様よ?おかしいと思わない?女だから仕事をしても、公爵家当主を名乗れないなんて。これじゃあ無給で働かされているのと変わらないわ。私はこの理不尽に抗うつもりよ」




