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『慈愛の王妃 アゼリア物語』 〜なんで本の主人公に!?こんな本、ぶっ壊してやるっ!〜  作者: てちてち


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02  



「ねぇ?その水は誰が用意してくれたのかな?知ってる?」優しく問う事を心掛け、男の子に聞いてみた。


「えっ?母上が起きたら飲ませなさいと言って、毎日持って来ていたんです。ただのお水ですよ?」


 えーっと。ただのお水じゃ無いんだけどな。


 この子に飲ませようか?イヤ、さすがにソレはマズいな。


 この母上って、何となく“私の”では無い気がする。


「あの〜、悪いんだけど、新しい水にしてくれる?この部屋に蛇口あるのかな?」


「えっ?ジャグチ?それ何ですか?」


「えっ?」 「えっ?」二人して頭の上に?を掲げていた。



「その水に睡眠薬と麻痺薬が入っているんだよね。飲みたくないから新しい、ただのお水が飲みたいの。替えてくれる?」


 男の子は疑問に思いつつも、私の言う事を聞いてくれた。


 新しいコップを持って来て、手の平をコップの上からかざすと水が落ちてきた。


「ええぇぇ〜〜!?何ソレぇーー!」


「えっ…。何ソレって生活魔法ですよ?姉上も出来るじゃないですか」


 そぉ〜〜〜なの〜〜〜!?


 ふぅ~ふぅ~。落ち着け、私。今は水を飲むのだ。


「ゆっくり飲んで下さい」男の子が私の口元にコップを持って来て、水を飲ませてくれた。


 コクコクと、二口三口と水を飲んだ。


「ほぁ〜、ありがとう。美味しいお水だね」男の子から出た水だけど、どこかの湧き水のように美味しかった。


「姉上が僕の水を飲んでくれた……っ」また顔を真っ赤にして悶えている。


 大丈夫か?この子。




◆◇◆◇◆◇



「ねぇ、君の名前は?」少しだけ首を傾け上目遣いに聞いてみる。


「本当に忘れちゃったんですね…」目に涙を溜めて俯いてしまった。


 鼻をズズッとすすって顔を上げると「僕の名前はアーノルドです。姉上の名前はアゼリア。母上がミザリーで父上がアーチーです」


 うん?どっかで聞いた名前だな?


「君、アーノルドって名前じゃないよね?」ふと、自分の口からそんな言葉を吐いた。


「それに、私に弟はいないよ?何で姉上って呼ぶの?母親の名前も違うよ?確かフリージアって……」そこまで話して急に思い出した!


「あー!思い出した!あなたトヴァイアスでしょ?母親とここに乗り込んで来て居座った不埒者!お父様の子じゃ無いのに実子と偽っているのよね?私とあなたは誕生月が違うのに、同い年だからって双子と称しているのよね!?そう決めたのはミザリーよね!?」


 私が捲し立てるように話すものだから、トヴァイアスは息を飲み口を挟めないでいる。


「あ……、ゴメン…」


 この幼い男の子が悪いんじゃない。


 全部ミザリーと私の父が悪いのだ。


 名前をアーノルドに変えさせたのもミザリーだ。


 ここがどこだかやっと分かった。


 ここは『慈愛の王妃 アゼリア物語』の中だ!!




◆◇◆◇◆◇



 私は小学生の時、母親の仕事が終わるまで毎日学校の図書室で時間を潰していた。


 その図書室にアゼリア物語があった事を思い出した。


 あらすじはこうだ。


 小さい頃に産みの母を亡くし、後妻に来たのは父の愛人。継母の執拗な嫌がらせにもめげず、毎日明るく慈愛の心で周囲を癒やすアゼリアは、13才で王太子と婚約し、後に王妃となる。


 ただし!とにかく周囲の人間達がポンコツだらけなのだ。


 父親は明らかに似ていないトヴァイアスをミザリーに「あなたの子です」と押し切られて認めてしまい、二人は家に居座ってしまう。


 ミザリーの度重なる虐めに父親は見て見ぬフリ。


 アゼリアの母親の遺品を盗み「元から自分の物だ」とミザリーは嘘を吐く。


 アゼリアは悲しそうな顔で「お義母様の方がお似合いですわ」と言う。


 バカか。


 私はいつもこんな事を言って許してしまうアゼリアが大嫌いだった。


 王太子は女遊びが激しくいつも執務をサボっていて、婚約者であるアゼリアに執務を丸投げ。


 父親である国王は「仕方の無いヤツだ」と、王太子を叱りもしない。


 そして、大人しく王太子に代わり仕事をこなすアゼリア。


「いつか心を入れ替えて、真面目になって下さいますわ」と微笑む。


 アホか。


 史実だったのか創作だったのか覚えていないが、小学生に読ませる物語じゃないよなぁ〜、と思っていた。


 それなのに忘れた頃にまた読んで、毎回毎回同じ所で腹を立て、二度と読むかっ!と思いつつまた、忘れた頃に私は本を手に取っていた。


 自分の行動にも呆れるが、何かが私の中で引っかかったのだろう。


 私は絶対こんな大人にならない!と心の中で固く誓って、いつしか本の存在も忘れてしまった。




◆◇◆◇◆◇



 今、私が本の主人公のアゼリアになってしまったのは天罰なんだろうか?


 私は現代日本で、そんなに酷い何かをしていたのだろうか?


 まさかあの“バカ甥っ子”の事か?


 私、アイツに殺されているんだけど。天罰ならもう受けてんじゃん!何でこんな目に合ってんのよっ!


 と、誰に向けて良いのか分からない怒りを、心の中に溜め込んだ。


「姉上…?どうしたの?体が痛いの?」また涙を溜めて私の顔を覗くトヴァイアス。


 この子は母親に“やれ”と言われて私に嫌がらせをして来た…ハズ。


 ヨシッ。この腹に溜まる怒りを是非ともミザリーにぶつけてやりましょう。


 くくく、決めたわ。まずはトヴァイアスを私の味方にしなければ。




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