#25
「……しかしお前、靴もボロボロだな」
「そうかな?まだ履けるよ!」
「いや、つま先が剥がれてるじゃないか」
よくもまぁ、こんな廃品を履いてうろついていたものだ。
だがさすがにコーディリアやマールの靴を融通する訳にもいかず、ルゥにはボロ靴を履かせたまま、冒険者ギルドへ向かうことになった。
冒険者ギルドでは見慣れたグレイディア商会のブースに、緊張した表情の見慣れない女が座っていた。
いや、よく見るとどこかで見たことのある顔にも思うが……。
「あの……与信希望の方でしょうか?」
「あ、会頭!ケイリナさん、その人はグレイディア商会の会頭です!」
「おう、マール。そちらは?」
「今日から私の補佐に入って貰っているケイリナさんです。あの……お姉様から聞いていませんか?」
そうか、どこかで見た顔だと思ったら……以前マールの代わりに採用した人手がこのタイミングでマールの補佐に入ったということか。
「話は聞いていたが初対面なんでね。初めまして、オレがグレイディア商会の会頭、ヤクザです」
「会頭様、この度は雇って頂きありがとうございました。ケイリナと申します」
ケイリナはそう言って頭を下げるが、オレの用事はこいつには関係がない。
ブースの番はケイリナに任せ、オレはマールを誘うとルゥを伴って人気のないギルドホールの片隅へと移動する。
マールはオレがルゥを伴っていることを何も言わない。ということは、やはり事務所にこいつを寄越したのはマールで間違いないだろう。
「それで、どういう意図でこいつを寄越したか説明してくれ」
「はい。ルージュさんはギルドへ登録するお金がないとのことでしたので、与信枠が設定できるか人間鑑定を行いました。そこで……その、2つ問題が」
ルゥとルージュ。名前の違いは気になるが……まぁ、本名がルージュで、ガキっぽい愛称がルゥなのだろう。
それよりも問題点とやらが気になる。
「2つ?なんだ」
「1つ目はルージュさんがまだ14歳でギルドに登録できないということです」
「ボクの村では13歳になったら成人なのに!友達は結婚してるし、もう子供だって産めるし!」
ルゥが抗議の声を上げるが、ルゥの話以前に日本人であるオレからすれば、16歳で成人として働いているマールも十分に未成年枠なんだが。
「で、もう1つは?」
「その……私では判断出来ないので、会頭に直接見て頂いた方がいいかと思って。私はケイリナさんの研修で手が離せなかったから、ルージュさんに会頭を呼びに行ってもらったんですけど」
そう言うとマールは服装が変わり、風呂に入って匂いもマシになったルゥの姿を見て怪訝げな表情を浮かべる。
それもそうだろう。使いに出した奴が呑気に風呂へ入り、飯まで食って帰ってきたらオレならどやしつけるところだ。
「……そのシャツ、見覚えがあるんですが」
「その話は後だ。で、判断出来ないっていうのはこいつのクラスについてか?」
「さすが会頭、既にご存じだったんですね。ですが念のため確認をお願いしたいです。ルージュさん、もう一度人間鑑定お願いできますか?」
「うん、いいよ!何書いてあるのかさっぱりだったけど!」
マールは休憩だといってケイリナをブースから追い払い、周囲に人がいないことを確認した上でルゥに人間鑑定の魔導具を使用させた。
鏡に浮かび上がった文字は……オレの想像を遥かに超えるものだった。
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名前:ルゥ(ザルム村のルージュ)
クラス:(勇者)
レベル:1(上限:13)
HP 20/28(上限:700)
MP 18/18(上限:350)
【筋 力/STR】13(上限:18)
【敏捷力/DEX】16(上限:18)
【耐久力/CON】18(上限:20)
【知 力/INT】08(上限:13)
【判断力/WIS】10(上限:13)
【魅 力/CHR】12(上限:20)
特殊能力
剣術 L1(上限:7)
格闘 L2(上限:5)
軽業 L1(上限:5)
神聖魔法 L0(上限:3)
戦神の加護
精神異常無効
(状態異常耐性)
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……勇者、だと!?
だが、オレが簡易鑑定を行った際には何も……。
そこまで考えたオレはある違和感に気が付いた。
こいつのクラス表記は「勇者」ではなく「(勇者)」となっている。
そして特殊能力の欄にも一つだけ括弧でくくられたものが混じっている。
なら、これは……将来獲得される予定の、未覚醒な能力ということか?
「おい、ルゥ。お前自分のステータスを知ってたのか?」
「え?何それ」
「今、ここに表示されてるだろうが」
「……えっと……あ、ここにボクの名前が書いてある!あとは1と……20と……28……」
「待て、お前もしかして字が読めないのか?」
「読めるよ!村に居たときに自分の名前は習ったし、数字だって読めるよ!」
それはオレの認識としてはほぼ文盲というんだが……。
だが、マールがルゥのクラスを訝しんでオレに伝えようとしたにも関わらず、当のルゥが自分のクラスを認識していない理由が分かった気がした。
「お前、冒険者に登録するときはどういうクラスを選ぶつもりだったんだ?」
「ボク?ボク、これでも村では一番強かったから!オババには戦士になれるって言われたよ!」
「そのオババは他に何か言ってなかったか?」
「んー。あ、そうだ!沢山お金を稼げたら村に食べ物を送れって!」
「……そうか」
どうやら故郷ではルゥのことは腕っ節の強い小娘、冒険者として出稼ぎにやる存在と認識しているのだろう。
なら……これはチャンスだ。
未覚醒とはいえ本物の勇者を傘下に加えることが出来たなら、偽勇者であるアーノルドを利用する必要はなくなるし、奴に対抗することも容易だ。
だが、どうやってこいつを手に入れればいい?
オレは与信の仕組みを冒険者限定としているが、ルゥは年齢的にまだ冒険者にはなれない。
つまりあと1年はこいつを債務の罠で絡め取ることは出来ないことになる。
その間にこいつが勇者であることが他人に知られれば、オレが利用できなくなってしまうが……。
「ね、おじさん。ボスさんだっけ?」
「ヤクザだ。……だがまぁ、好きに呼べばいい」
「うん!ね、ヤクザさん。ボクが冒険者になれるようになるまで、ヤクザさんのところで働かせて欲しいんだけど!」
「働く……だと?」
「うん。薪割りとか、荷物運びとか出来るよ?」
オレとしては願ってもない話だが、冒険者にもなれない未成年を雇用できるのか?
コーディリアを連れてこなかったのは失敗だったかと思いながら、オレは傍らにいたマールに視線を向けた。
「えっと、正規雇用は15歳からですけど、門弟や弟子みたいな見習いなら大丈夫です」
「そうか。マール、今回は良い判断だった。あとでボーナスを出してやる」
「本当ですか!?嬉しいです、会頭!」
こいつがオレに向かって笑顔を見せるのは珍しいが、今はルゥのことだ。
ヤクザの門弟や弟子というのはオレ的にはどうもしっくりとこない。
なら……。
「よし、ルゥ。ならお前は今日からオレの舎弟だ」
「しゃてい……?」
「弟……いや、お前の場合は妹分になるか。まぁオレがお前の面倒を見て、お前はオレの言う事を聞く。そう言う関係だ」
「うん、よくわからないけどボク、しゃていになる!」
シェラザード同様、契約で縛る形ではないことに若干の不安は感じるが、とりあえずこの場でルゥを逃がすようなヘマはせずに済んだようだ。




