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#12

 結局アーノルドのパーティは聖女候補のシェリルが加わったことで一人当たり金貨4,500枚の与信枠を得ることになった。

 通常、神学生を加えたパーティでも与信枠でローンを利用できるのは神官以外の者達、という暗黙のルールが設けられている。

 それはパーティに加わる神官達がまだ学生であるという、オレの判断によるものだ。


 だが今回勇者パーティに加わった女司祭、シェリルは自立した大人であると判断し、こいつにもローンの使用が認められることになった。


 オレが案内したマードック商会では当然の様に会頭がアーノルドを出迎え、揉み手をせんがばかりの勢いで勇者に数々の魔導具を紹介した。


 シェリルはさも当然だと言わんばかりに加入したばかりのパーティ枠を利用し、個人の与信枠を越えた額の装備を調達しているようだ。

 その様子にミリーが渋い顔をしているが、一方で当のミリーも冒険に役立つ魔導具をいくつも手に取り、装備が一通り整っているアーノルドは実用的とは思えない高価な護符に興味を示している。


 そして一番不審な動きをしているのはバルタザールだ。

 奴は何故か魔導具ではなく装飾具の類いに目を向けている。


「失礼、賢者様。そちらは魔導具ではありませんよ?」

「ええ、もちろん承知しておりますぞ。ですがこれらは我が付与魔法の素材として有用でしてな。守護の魔法を込めることで強力な魔導具に変ずるのです」

「ほう……そうなんですね。さすが賢者様、勉強になりました」


 オレの言葉にバルタザールは笑みを浮かべるが、その目は笑っていない。

 おそらく、オレがこいつのことを怪しんでいることに気付いているのだろう。


 レベル2のこいつがそんな高度な魔法を使いこなすとは到底思えないが、ろくに魔法を使えないオレはバルタザールの言葉を否定するだけの材料を持ち合わせていない。


 おそらくバルタザールは残クレで手に入れた品を何らかの方法で詐取し、換金しようとでも考えているのだろう。


 だがローン契約はエルフローラの契約書によって交わされるもので、支払いが完了していない物品の持ち去りや、ローンを踏み倒しての逃走、そして債権者であるオレを殺して契約を無効化するような反抗を不可能とする文言を織り込んである。

 詐欺師であるこいつがどういう手を使うつもりなのかは判らないが、ここはお手並み拝見という所だろう。



 オレは勇者一行が装備を整えた後、冒険者ギルドで何らかの依頼を受けるか、あるいはダンジョンへ出向くのだと思っていた。

 俗物とはいえ聖女候補が仲間に入ったんだ。普通に考えれば遊ばせておくのは無駄でしかない。


 だがアーノルド達はラーゼンの街で一番の高級宿に泊まり、毎夜酒場でどんちゃん騒ぎを行うばかりで冒険に出る気配は欠片も見せない。

 それどころか「黄金の獅子」のような、オレの傘下にいる連中も巻き込んで宴会を開いている有り様だ。


 もちろん、連中が宿泊や飲食に使っているのは与信枠……つまり信用払い(クレジット決済)だ。

 頭の弱いアーノルドはともかくとしてミリーやバルタザールが借金を膨らませながら放蕩三昧をしている事に気付いていないとは思えないが……。


 無論、連中には残クレだけでなくリボルビング払いも提案し、アーノルドとシェリルは初週からリボ払いを選択している。

 もしかすると支払額が少なく見えることで慎重派のミリーやバルタザールが油断をしているのだろうか?


 いや、ミリーは結局、与信枠を使わず自分の枠をシェリルに貸し与えるだけに留めていたようだった。

 一方のバルタザールは、最初の数日はミリー同様に与信枠を使おうとしなかったが、数日経ってからこっそりと宝飾品を買い入れたと聞いている。


 二人が慎重に状況を見極めているように見えるところから推測すれば、連中もリボ払いが宣伝文句ほどクリーンで安全なものではない事に気付いていてもおかしくはない。


 契約書に仕掛けた文言があればオレは勇者パーティと聖女候補を債務の罠に絡め取り、傘下に収めることが出来るが……あまりにも物事が上手く進みすぎている。


 これがアーノルドだけなら、愚かな事だとほくそ笑むことができるが……バルタザールは不確定要素だ。



 オレが少し探りを入れようかと考えている間に、アーノルド達が重い腰を上げ、冒険に向かうという噂が飛び込んできた。


 どうやらアーノルドは周囲に、長旅の疲れを癒すための休息を取っていたと話していたらしく、10日近く豪遊して満足したのか手近なダンジョンへ「ちょっと小銭を稼ぎに」行くらしい。


 オレはその話を聞いて安堵した。

 勇者一行を債務の罠に掛けるにしても、ラーゼンに到着して2、3週で連中を破綻させてしまってはオレのビジネスが阿漕だと悪評が立ってしまう。

 連中には最低でも半年ほどはまともに活動して貰い、その後に「やむを得ない理由」で破綻してもらう必要がある。


 そういう意味ではダンジョンアタックで多少繰り上げ返済が可能な程度に収入を得てもらい、マードック商会でローンを使い勇者らしい派手な散財をして貰えれば万々歳なのだが。


「ボス、あの勇者……本当に勇者っぽくないですよね」

「それはそうだろう。あいつは魔法剣士であって勇者じゃないからな」

「ボスは判ってて利用しているんですか?」

「もちろんだ。だが……少々気になることもある」

「なんですか?」

「あのバルタザールという男だ。詐欺師だとは思うが……どうも尻尾が掴めない」


 オレの言葉にコーディリアは少し考えてから口を開く。


「犯罪者絡みなら盗賊ギルドに繋ぎを取るのもありですが、相手が勇者パーティの賢者様ですから……」

「奴は宝飾品に興味を示していた。その手の買取で妙な動きがあれば商業ギルドで拾えそうか?」

「そうですね。国内の取引なら間違いなく。ただ隣国だと情報を取り寄せるのに伝書鳥を使っても数日は掛かりますし、調査と合わせると2週間ぐらいは掛かると思いますけど」

「さすがにすぐに調べがつく訳でもない、か。ただ手は打っておくにこしたことはないな。コーディリア、明日にでも手配を頼む」

「ええ、もちろん。私はボスの右腕ですから」


 そう言うとコーディリアはオレに抱きついてくる。

 そしてマールのことがあってからしばらくの間「業務報告」は口頭で行っていたが、今日は久しぶりにこいつの方から「報告」をしたいと言ってきた。


 コーディリアは女にしてはドライな性格だが、それでもやはり自分の部下であったマールの死には思うところがあったのだろう。

 直接的ではないにせよ、自分にも遠因があると思っているならなおさらだ。


 こいつが精神的にタフであることは知っていたが、それでもオレはこいつの前ではマールの名を出さないようにしていた。

 その甲斐があって、こいつも平常心を取り戻したのだろう。


 ……いくら心の奥底に後悔がわだかまっていたとしても、死んだ者は帰っては来ない。


 なら、忘れるのが一番だ。

 そう考え、オレは……身を寄せてきたコーディリアを強く抱きしめた。


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