#11
「ここがラーゼンの街か!思ったよりも栄えたところじゃないか!」
「そうだね。でもここの人達は勇者を必要としてるんだろ?」
「ミリー殿、アーノルド殿、まずは冒険者ギルドへ参りますぞ。我らの後援を申し出たなんとかという商会に繋ぎを取りませぬと」
それなりに立派な鎧を身につけた20代半ばとおぼしき金髪の男。
同年代とおぼしき革鎧に双剣を持つ女。
40代後半に見える、ローブ姿の男。
冒険者ギルドから呼び出され、ギルドホールでオレが対面した「勇者」一行はそんな連中だった。
「それで、貴殿が我らの後援を行うと申し出た……」
「ええ、グレイディア商会の会頭、ヤクザとお呼び下さい」
「名前はどうでもいい!それで、どんな武具を提供してくれるんだ?魔導具も使い放題、酒も食事も無償で提供されると聞いたぞ!」
「いえ、無償で提供させていただくというお話ではなく……」
「アーノルド殿、確かにこちらの商会からの手紙は勇者に相応しい者には民からの信用と、それに見合う与信枠を提供する……となっておりましたぞ」
アーノルドという名の自称勇者はオレが送った手紙の内容をろくに読まず、ただ支援が得られると思ってラーゼンへ来たらしい。
隣にいたミリーという女盗賊も似たり寄ったりの理解なのか、オレがパトロンとして無償提供をする訳ではないと告げると露骨に不満げな表情になった。
だが最後の一人、賢者だと名乗った男……バルタザールはオレが手紙にしたためた内容を理解しているのか、信用と与信枠という言葉を口にした。
どうやらこの連中の中でまともに話が通じるのはバルタザールという男だけらしい。
オレはこの勇者をランディ達に次ぐ広告塔として利用するつもりだが、その前にこの連中が前評判通り使える人材であるかを確認する必要がある。
与信に際して鏡型の魔導具を使った詳細鑑定を行う事になるが、オレは事前審査としてサングラス型の魔導具で3人に簡易人間鑑定を試みる。
『レベル6:魔法剣士』
『レベル4:盗賊/レベル3:戦士』
『レベル2:魔道士』
アーノルドの魔法剣士というのは初めて見るクラスだが、以前マードックの会頭が言っていた剣と魔法を使いこなすという前評判からすれば納得のいくクラスだろうか。
ミリーの方も盗賊でありながらそれなりのレベルの戦士であり、総合力はかなり高そうだ。
だが……バルタザールという男の表記はなんだ?
年齢的に伸びしろがあるようには思えない上に、賢者という名乗りとレベルが合致していないように思える。
どこかきな臭いものを感じながらも、オレは簡易人間鑑定の結果は心に留めたまま、三人に与信の仕組みを説明し、詳細鑑定を受けるよう促した。
アーノルドとミリーはさして気負った様子もなく詳細鑑定を受けた。
やはりどちらの表示も「勇者」の文字は無かったが、アーノルドの上限レベルは7、ミリーの上限レベルは盗賊が6、戦士が3と常人よりも高いスペックを示している。
他の冒険者の数字を見慣れている冒険者ギルドの受付嬢達はアーノルド達の能力に歓声を上げているが……問題はバルタザールだ。
「魔道士は力をつまびらかにすることを好みませんのでな。我は魔術士協会からの認定状をもって代えさせていただきます」
そう言って奴が差し出した、何処とも知れぬ国の、聞いたこともない組織が認定した認定状には「レベル5:賢者」という資質が記されていた。
それを見たオレは、この男の正体を理解した。
理由を付けて人間鑑定を拒み、もっともらしい権威を語って自らを偽る。
こいつは……おそらくオレの同業だ。
勇者に同行し、旨い汁を吸おうとしている詐欺師。それがバルタザールの正体なのだろう。
与信契約書の文言を舐めるように読み、薄く笑みを浮かべたバルタザールが何かを企んでいることは間違いない。
だが、オレはこの男を糾弾するつもりはない。
オレが欲しているのは真の勇者ではなく、勇者という名の広告塔に過ぎない。
なら、レベル2の詐欺師てあっても、レベル5の賢者を上手く演じることが出来さえすれば、それで構わない。
「おお、さすが勇者様ご一行ですね。この素晴らしい資質と現在のパーティ構成ですと、お一人当たり金貨2,500枚の与信枠を設定させていただくことが可能です」
「金貨2,500枚?思ったより少ないな……」
「アーノルド、一人当たりって言ってるよ?」
オレが告げた与信枠にアーノルドは不満げだ。
ミリーが小声で言った内容も漏れ聞こえてきたが、その言葉からオレはアーノルドが頭の回転はイマイチなのだと推測した。
なにせ奴の知力は13と平均より高かったにもかかわらず、判断力は9と平均以下だったからだ。つまりアーノルドはそれなりにお勉強はできるが騙しやすいタイプということなのだろう。
「お二方、それ以前に気にすべきところがございますぞ。先ほど会頭は現在のパーティ構成とおっしゃいました。そして我々を呼び寄せる手紙には神官殿と縁を結ぶお手伝いをしていただけるとも。それが意味することは……」
「なるほど、アタシ達に神官の仲間が出来ればもっと増額してくれるってことだね」
「……そうなのか?」
賢者を自称するだけあってバルタザールはやはり抜け目ない。
そしてバルタザールの言葉からオレが言外に示した条件を理解したミリーも、それなりに賢明ということか。
なら、オレが籠絡すべきはやはりアーノルドということになる。
「お二人のおっしゃる通りです。オレの方でマファーメラ神殿への推薦状を書かせていただきますので、是非神殿で優秀な神官様をご紹介いただき、パーティを編成していただければ。おそらく皆様でしたらお一人当たり金貨4,000枚の与信枠になりますよ」
「4人になると16,000枚か……ミリー、バルタザール!早速マファーメラ神殿へ向かうぞ!」
「アーノルド、まだ推薦状貰ってないよ!?」
オレが告げた金貨4,000枚という与信枠に冒険者ギルドにいた野次馬達はどよめいた。アーノルドは周囲の様子に少し得意げな表情を浮かべると、そのままギルドを出て行こうとする。
どうやらこの勇者サマ、さっそく広告塔として役立ってくれているようだが……どうもその言動には不安が残る。
いや、こういう奴だからこそ、バルタザールのような詐欺師がきっちりと食いついているのだろうが。
その後、オレが書いた「勇者としての資質あり」という推薦状を持ってマファーメラ神殿へ向かったアーノルド達は意気揚々と冒険者ギルドへ戻ってきた。
アーノルド、ミリー、バルタザール。
そして……もう1人、金髪の若い女性。
テリオンが着ていた簡素な神学生の服とは様相の違う、儀礼的な衣装を身に纏っているところを見ると、学生ではなく司祭か何かだろうか?
「テリオンさん、あの方は?」
「シェリル様ですね。神学校の教師の中では一番お若い、優秀な司祭様です」
「……学生ではなく、教員が来ていると?」
「アーノルド様は勇者様なのでしょう?なら高司祭様も勇者に随行する聖女候補としてシェリル様を選ばれたのではないかと」
ランディ達が引退し、パーティメンバーのアサインがまだ完了していないため、ルディと2人、冒険者ギルドで臨時編成のパーティと打ち合わせをしていたテリオンは女司祭を見てそう言った。
確かにアーノルドが連れている神官は慈愛の笑みを浮かべた聖女然とした女で、広告塔には使いやすい。だが、本物の聖女をビジネスに巻き込むと面倒な事になるかもしれない。
オレがそう思っていると、聖女候補の視線がこちらを向いた。
何か用事でもあるのかと思ったが、奴が見ているのはオレではなく隣にいるテリオンのようだ。
「勇者様、神学校の学生があのような良い装備を身につけているのですから、私にもそれなりの装備を用意していただきたく思います」
「しかし貴女は前線に出ないのでは?そう高価な装備は必要ないだろう?」
「ですがこれまで冒険者に同行している彼がああいう装備をしているのです。なら私はそれと同じか、それ以上の物を身につける必要がありますわ」
聖女候補が言っている必要性というのは十中八九実用性の話ではなく、見栄や外聞に関わる話だろう。
見たところアイツは聖女然とした外見とは異なり、かなりプライドが高そうに見える。
学生の身分であるテリオンが高価な魔法の装備を身につけているのに、司祭である自分が店売りの装備というのは気に入らないということなのだろう。
「随分と俗っぽい聖女様じゃないですか」
「いえ……信仰心の強い、立派な司祭様なのですが……」
オレが小さく呟いた言葉に、テリオンは苦笑しながらそう言う。
あの女が司祭としては優秀ではあるが、人間性は聖女とはほど遠いことを、身内であるこいつも理解しているのだろう。




