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#7

 結婚パーティの予告を休暇前に張り出していたこともあり、当日は多数の冒険者達がギルドホールと併設の酒場に集まった。

 もちろん場所が冒険者ギルド内なのでマールをはじめとした受付嬢達やその他の職員、それにギルマスもパーティには参加している。


 純粋にランディ達を祝福しているのはギルド関係者と一部の顔見知りぐらいのもので、冒険者連中はただ酒ただ飯にありつこうと考えている奴らばかりだ。


 だがそんな連中にも与信枠(クレジット)を持つことに対するインセンティブを与える必要がある。

 もちろんランディとカミラの成功という広告塔も必要だが、一攫千金は誰にでも訪れるものではないことは冒険者達も肌身にしみて知っているだろう。

 ならどうするか?


 その答えが……VIPエリアの設置だ。


 オレはギルドホールと酒場の一部を一般参加者向けに解放し、そこでは普段ギルド酒場で提供されている酒や料理よりも少しばかり高級なものを提供した。


 そして酒場の奥に設けたVIPエリアでは高級店で供されている料理をケータリングで取り寄せ、酒も高級なものを用意し、そのエリアへ立ち入るためには与信記章(クレジットカード)の認証を必須とした。


 これまでも冒険者達は与信記章(クレジットカード)を持てば人々からの信頼や、店舗での優遇を受けることが出来るということは風の噂で知っていただろう。

 だが、目の前で明らかに格差を付けられれば……与信枠(クレジット)の持つ価値は噂ではなく、可視化された現実のものとなる。


「……相変わらずやることがエグいですよね、ボス」

「どうした、欲情したか?」

「……否定はしませんけど」


 パーティが始まり、ランディが集まった冒険者達に感謝の言葉を述べている姿を遠目で見ながら、コーディリアは小声でオレに声を掛けてきた。


 このパーティの費用はグレイディア商会が全て負担しているんだ。

 ランディとカミラが結婚し、引退することはオレにとってはマイナス要素でしかない以上、ここでコストを掛けてリターンを取りに行くのは当然の事だろう。


「ですがボス、これだけ派手に宣伝すると……懸念していたことが起きる可能性が高まりますよ?」

「懸念というと……お前の実家であるアルスマン子爵家に目を付けられるっていうあの話か」

「はい。既に他の街からラーゼンへ冒険者が集まり始めていますし、勇者を招聘すればその動きは王家や枢機卿達にも確実に伝わるでしょうから」

「ふん……まぁ、遠からずそうなることは覚悟していたさ」


 一つの街で冒険者を相手に小さな商いをしている間は貴族や王族からの横やりを受ける可能性は低い。だが、派手に動き出すと財務卿の副官である財務官、アルスマン子爵……つまりコーディリアの叔父が動くという話は以前にも聞いていた。


 オレはその話を最初に聞いた際、ある解決策を考えていたのだが、丁度良い機会なのでコーディリアにその可否を確認してみることにする。


「コーディリア、お前は一応まだ貴族籍はあるんだろう?」

「ええ、生きていますから籍はありますよ」

「なら、お前が子爵になれば財務官とやらになれるんじゃないのか?」


 オレの言葉にコーディリアは眉をひそめ、ため息をつくとそれはいくつかの理由で無理だと言った。


「いくつも理由があるだと?」

「ええ、まず1つ目は私がデビュタントボールを経験していないことです」

「……なんだ、それは?」

「貴族の子女は成人する年の誕生日に社交界へのお披露目を兼ねた誕生会を開催してもらうんです。デビュタントを経て、初めて正式な貴族社会の一員になれると言っても過言ではありません」

「……確かお前は成人前に商業ギルドへ放り込まれたんだったな?」

「ええ、そうです。ですから私は貴族籍を持ってはいますが、社交界では貴族の一員だとは認識されないんです」


 コーディリアの置かれた状況は、オレの知るヤクザ組織の感覚で言えば、さしずめ組幹部の子供ではあるが盃は交わしていない……というところか。

 もしそうなら組の人間……いや、貴族の一員として扱われないことも理解できる。


「そのデビュタントは今から出来るのか?」

「……ボス、私もう22歳ですよ?15歳で済ませるデビュタントをこの年でやったら、笑いものになります」


 心底うんざりした表情でコーディリアはそう言う。

 だが同時にデビュタントを行えないからこそ、自分は生かされているのだとも言った。


「どういうことだ?」

「ボスはこの国の王位や爵位の継承については……」

「知らん」

「……ですよね。まずこの国で爵位や王位を継げるのは男性だけです」

「なら、最初からお前には芽がないってことか?」

「私自身に限って言えばそうですね。ですが、私は爵位を夫に継がせることはできました」


 そう前置きしてから、コーディリアはこの国の継承権について説明した。

 細かい法律がどうこう言う部分を省略すると、要するにこの国での継承ルールはこうだ。


 継承権を持つのは成人、かつ男子のみ。

 嫡出子が女子の場合は、その配偶者が継承権を得る。

 継承順位は嫡男が最優先、次点が嫡出女子、直系嫡子がいない場合は継承者の弟、従兄弟へと継承権は流れてゆく。

 この継承権は生来の順位が維持される。


「なら、お前の場合は……」

「ええ、私が未成年だったので、叔父上が子爵位を継ぎました。そして私はデビュタントを経ずに成人になりましたが……もし私がデビュタントを経ていれば、私の結婚相手がアルスマン子爵になることが出来ます。まぁ、現子爵である叔父上が死ねば……ですが」

「なるほど。つまりもしお前がデビュタントを済ませていれば、子爵はお前を殺す必要があった訳か」

「まぁ、平たく言うとそうですね」


 コーディリアは肩をすくめてそう言った。

 思えばこいつを採用する話が出たときに、商業ギルドの職員が足に障害を持つこいつは貴族の嫁としては価値が低いと言っていた。


 だが、それはおそらく庶民の感覚だったのだろう。

 社交には使えなくとも、こいつには婚姻によって子爵位をもたらすという価値がある。

 つまり、次男や三男で自分に爵位が回ってこない貴族家のボンクラ共からみれば、例えダンスが踊れなくてもコーディリアは爵位をもたらす魅力的な器だった訳だ。


 そんな話をしていたオレの頭に、ふとある情報が思い起こされた。

 そう言えば……。


 今まさに壇上で祝福を受けているランディとカミラが大金を得る切っ掛けとなった魔導具、「ノクティルーチェ」。あれが寄贈される相手は三人の王女のうちの一人だとマードックは言っていた。


「コーディリア、もしかして今、この国の王位継承者は……」

「ああ、それは知ってるんですね?ええ、ボスの言うとおりです。国王陛下には嫡男はおられません。ですが三王女がおられますので……」

「嫡男が生まれない限り、王女を娶った者が次期国王、ということか」

「ええ。殿方には夢のある話でしょう?でもボス、第一王女アルメリア様と第二王女ルリシエラ様には既に婚約者がいますよ?公爵家のご令息と、隣国の第二王子です」

「ずいぶんとロイヤルなラインナップだな。オレには縁の無い世界だ」


 オレの言葉にコーディリアはまるでベッドの中にいるときのようにクスクスと笑う。


「ボスの事業がこれからもどんどん拡大していけば……右腕である私の事も、おそらくは貴族達に認識されることになると思います。そうしたら、デビュタントを経ていなくても私は……」

「貴族に目を付けられるということは、リスクとメリットがあるという訳か」

「ええ。なので……」


 コーディリアがそう言った瞬間、ランディの挨拶が終わり演出のためか室内に灯されていた魔法の灯りが消灯される。


 暗がりの中、周囲のざわめきが徐々に静まり、やがて辺りが静寂に包まれた。

 次の瞬間、再び灯りが点灯すると……ランディの横には白いドレスを身につけたカミラが並び立っていた。


 だが、オレの意識は壇上の2人ではなく、いつの間にかオレの正面に立っていたコーディリアに向いていた。


「ボス?」

「なんだ?」


 コーディリアはオレに顔を近づけると極上の笑みを浮かべて、言った。


「私と結婚して、子爵になりませんか?」


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