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#5

 翌日。オレはランディ達の結婚パーティ会場に適した店を探し、街を彷徨った。


 オレはまず与信記章に対してプレミアム特典を設定している酒場やレストランを一通り回ったが、それらの店はのきなみ与信記章を持たない冒険者の受け入れに難色を示してきた。


 それもそうだろう。

 そういった店は基本的には高級店舗だ。


 与信記章を持つ上級冒険者ならカネを落とす見込み客として受け入れるが、底辺層でゴロツキ紛いの冒険者には入店すらして欲しくないという意識が透けて見えるのも致し方ないことだ。


「申し訳ございません。グレイディア商会さんのご紹介ということなので、本来であればお受けしたいのですが……」

「いえ、そちらの事情もわかりますので構いませんよ。また別の機会にお願いできますかね」

「ええ、新郎新婦と親しいご友人の二次会であれば、是非当店をご利用いただければ」


 つまるところ、そういうことだ。

 ランディとカミラは二人とも与信記章を持つ冒険者だし、その友人であれば同じように記章を持っている可能性は高い。

 客を選びたい店側としては、記章持ちの関係者なら歓迎……という訳だ。


 だがオレが今回結婚パーティを開催するのは与信枠を持っていない連中に成功者の姿を見せつけ、オレの(カモ)にするためだ。

 つまり与信記章を持った冒険者だけを対象にしていてはパーティを開く価値がないということになる。


「かといって安っぽい酒場でパーティを開いても成功者像は演出できない、か……」


 悩ましい所だ。

 底辺層とは言わないまでも、ある程度の冒険者を受け入れるだけの度量とキャパシティがあり、そして成功者としての出口像を演出できる会場。


 これが日本ならカネさえ積めば喜んで場所を貸すような、エセセレブ御用達の店はいくつでも心あたりがある。

 だが厳然たる身分制度のある、階級社会な異世界では身分をわきまえないセレブぶった振る舞いは御法度だとも聞く。


「なら、冒険者らしい場にセレブの装いを持ち込む、か」


 街中の店でパーティを開くことを諦めたオレは、冒険者達に一番お似合いな場所――要するに冒険者ギルドへと足を運んだ。



 昼を少し過ぎていたこともあり、ギルドカウンターの半分は閉鎖されていて、受付嬢も交代で昼休憩を取っていることが見て取れた。

 カウンターにいるのは名前も知らない馴染みの受付嬢が2人で、マールの姿はなかった。


 マードック商会のブースは半月ほど前に撤去され、今はグレイディア商会の与信窓口の横に残クレで購入可能な武器や魔導具のイラストと値段が掲示されている。


「あら、ヤクザ様じゃないですか。何かご依頼ですか?」

「依頼と言えば依頼、ですかね。こちらのギルドにある酒場を貸し切りで利用したいんですが……」

「酒場、ですか?えっと、それは直接酒場の方で声を掛けていただいた方が早いかと。もうお昼時は終わっていますから、多分手も開いているでしょうし」

「そうですか。では直接聞いてみます」


 そう。オレが目を付けたのは冒険者ギルドに併設された酒場だ。

 ここは冒険者連中が依頼前の打ち合わせや依頼達成後の打ち上げを行う場所で、昼間は近隣住民にも食堂として解放されている。

 つまり冒険者が利用する店としては最も適格な場所だと言える。


 オレもこの世界に飛ばされた当初は何度かここで飯を食い、酒を飲んだ事もあるが……正直なところ味は微妙だ。

 あくまでもここは冒険者向けの店で、連中が稼いだ日銭を使い、安酒でその日の疲労を洗い流す場所だと考えれば当然と言えば当然なんだが。


 ギルドホールから酒場へと続く扉を開くと、閑散とした店内が目に入った。

 食事をしている客は片手で数えられる程で、壁際の席にマールが一人で座り、食事をしている姿が見えた。


 マールもオレに気付いたのか、一瞬目を大きく見開くと慌ててこちらへと走ってきた。


「あ、あの……会頭、ごめんなさい……すぐに、仕事に戻りますから……」


 昨日事務所に顔を出した時と同じぐらいに疲れた表情のマールが、そんな事を言い出した。


 こいつはワーカーホリックなのかとオレは思わず内心で呆れる。

 コーディリアの奴は明日と明後日が休みだと言って今日は朝からテンションが高かったというのに、どうして休みを取らせたいマールがこんな疲れた表情をしてるんだ……。


「今は昼休み中だろう?ゆっくり食べていればいい。それよりここの責任者がどこにいるかわかるか?」

「は、はい。呼んできます」


 おそらくオレがここにいるとマールも気が休まらないんだろう。そう考えたオレはさっさと用件を済ませることにして、酒場の主を知っているであろうマールに声を掛けた。


 するとマールは食堂の奥へと走って行った。

 場所だけ教えてくれればオレが出向いたんだが……。


 手持ち無沙汰になったオレは懐をまさぐり、手製のタバコに手をやる。

 だが喫煙という習慣の無い世界では、夜には酒場になるとはいえ公の場で喫煙するのは憚られる。そんな事を考えている間に、マールが中年の男を連れて戻ってきた。


「用事があるってのはあんたかい?」

「ええ。こちらを貸し切りにしてパーティをしたいんですがね。……と、その前に。マール、助かったぞ。だがお前は休憩中だから立ち会いの必要はない」

「で、でも……」

「なら業務命令だ。お前は昼飯を食べて、決められた時間休憩しろ。いいな?」

「……はい、会頭」


 うつむき加減だったマールは小さくそう応えると壁際の席へ戻ったが、時折こちらを見ている姿が視界の端に映る。

 事務所に来た際のマールは基本的にオレではなくコーディリアにのみ視線を向けていることが多いが、コーディリアのいない場所ならオレの事が多少は気になるのだろうか。


 だがランディの件はマールには直接関係のない話だ。

 特にマールに頼む仕事もない以上、落ち着いて飯を食って欲しいものだと思いながら、オレは酒場の主とパーティの開催について交渉を進めた。



 少し異例な形での貸し切りを提案したオレに酒場の主は難色を示したが、費用を告げると態度を一変させた。

 それもそうだろう。元々は高級な酒場やレストランで開催する予定だったパーティだ。予算額は冒険者ギルドに併設された安酒場のレートとは大きく違う。

 もっとも、予算の全額がここの酒場に落ちる訳ではないことを説明していると、食事を終えたマールがオレの横へとやってきた。


「……マール?どうした?」

「会頭、あの、私にできることは……」

「この件はお前に何かして貰う必要はない。暇なら明日と明後日、しっかり休めるように資料の整理をきっちりしておくといい。休みが明けた頃には新人も入るだろうからな」

「あ……あの……わかり、ました……」


 オレの言葉に小さくそう応じると、マールはギルドカウンターの方へ戻っていった。

 心なしか震えていた気がしたが……体調でも悪いのか?

 予定を前倒しにして明日と明後日を休暇にしたのは正解だったかもしれないな。


 一通り予約の手配を終えたオレは、夜の仕込みのために買い出しへ出るという主を呼び止め、果実水を4杯注文した。

 ラストオーダーは終わっていると文句を言いながらも手際良くジョッキを用意した店主にチップも含めて代金を支払う。

 もちろんこれはオレが一人で飲むものではない。


「皆さん、差し入れを……おや?」

「わぁ、ヤクザ様!差し入れ、嬉しいです!」


 さきほど顔を出した時にはカウンターに2人しかいなかったはずの受付嬢が3人に増えている。それも、口が軽く面倒くさい女――エミリアが。

 差し入れと聞いて騒ぐ受付嬢を余所に、マールはグレイディア商会のブースに座って早速書類仕事を始めているようだ。


 数が1つ足りなくなったが、エミリアが増えた分はオレの分を回せば良いか。

 そう思ってオレはカウンターにいる3人にジョッキを渡し、最後に残った1つをマールのもとへと運ぶ。


「与信の受付ですか……あ、会頭」

「まだ休憩時間だろう?ほら、差し入れだ」

「あ、ありがとうございます……。……あれ?でも、会頭のは……」

「エミリアが生えてきたせいでオレのは無しだ」

「ちょ、ヤクザ様!?聞こえてますよ!?」


 カウンターの方でエミリアが騒いでいるが無視だ。

 オレはマールにジョッキを渡そうとするが、マールは何故か受け取ろうとしない。


「果実水は嫌いか?」

「……い、いえ。でも、私が会頭の分をとるなんて……そんなの、駄目だから……」

「これは差し入れであって、オレ用じゃない。気にせず飲め」

「……あの……はい……」


 そう言うとマールはおずおずと手を伸ばし、ジョッキを受け取った。

 これがコーディリアなら「ワインじゃないとは気が利かない」とか文句を言いながら受け取るところだ。

 まったくマールは差し入れ1つ渡すのにも手間が掛かると思いながら、オレは冒険者ギルドを後にした。


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