#4
連中をマードック商会へと案内した。
その後聞いた話では売却利益の取り分は四等分ではなく、ランディとカミラが金貨3,000枚ずつの合計6,000枚。ルディとテリオンはそれぞれ2,000枚ずつを受け取り、残金でローン返済を行ったあとの端数はマファーメラ神殿へ寄付することにしたらしい。
ランディ達は宿屋を経営すると言っていたので、ルディとテリオンが拠出した金貨500枚はさしずめ事業への先行投資ということなのだろう。
「……ボス、それは純粋にご祝儀じゃないですか?」
「祝儀に金貨500枚は多すぎるだろう」
「変なところでケチ臭いですよね、ボス……」
オレが語った推測にコーディリアが余計な口を挟んできたが、まぁそれはどうでもいい。
ルディは分配されたカネで魔導書を買うと言っていたし、テリオンはさらなる修行に備えて自前の装備を購入すると言っていた。
つまり残りの二人は冒険者としてはある意味「まっとうな」金の使い方をすることになる。
なら、こちらの二人も広告塔として利用させて貰うことにしよう。
「……そう言えばソロの自称勇者が余っていたな?」
「パーティから追放された人ですね」
「あいつは使えそうか?」
「そうですね……剣の腕だけなら」
「ならルディ達が仲間を探すようならあいつをアサインできるように冒険者ギルドへ……いや、マールに連絡しておけ」
「承知しました、会頭」
よそ行きの表情でそう言うコーディリアに、オレは一瞬何かを忘れているような気になった。
だが今は広告塔のプロモーションが大事だと、浮かびかけた疑念を振り払った。
その日の夕刻、マールは事務所に姿を見せなかった。
代わりに訪れた冒険者ギルドの受付嬢――確かエミリアという名の口の軽い女――がマールに使いを頼まれたと言って紙を届けに来た。
物珍しげに事務所の中を見回すエミリアを早々に追い払い、届けられた紙を見る。
そこには本日分の事業報告が小さな字で几帳面に記されており、末尾に「実家の用事があるので今日は報告に行けません」という謝罪が一言添えてあった。
「コーディリア、どう思う?」
「例の与信記章納品が遅れるという件でしょうか?昨日は特にそんなことは言ってなかったと思いますが」
「そう言えばマルレイン工房は体制が変わったと言っていたな?経営会議か家族会議の類いの可能性もあるか」
「あの子、実家の経営には手出しも口出しも出来ないと言ってた気もしますが……」
まぁ、実家の用事だと判っているのなら気にする必要はないだろう。
ただマールに自称勇者をアサインさせる件は少し先送りになりそうだ。もっともランディやカミラは即日引退という訳でもないようだし、急いで手配をさせる必要もないだろう。
ただマールの負荷は早めに軽減しておくべきだ。
そう考えたオレはコーディリアに状況を確認する。
「そう言えば休暇と人員補充の件はどうなってる?」
「人を採用してすぐに休みという訳にはいきませんから、先に与信審査待ちの処理を済ませて、その後に休暇。人を採用するのはさらにその後ですね」
「そうか。日程調整はお前に任せる」
「承知しました、ボス」
マールは翌日の夕刻、普段通りに事務所に顔を出した。
だが、その顔色はオレが見ても明らかに優れないことが一目でわかるほどの有り様だった。
そして普段なら業務報告後にコーディリアとどうでも良いおしゃべりをしてから帰ることを日課にしていた筈のマールは、何故かコーディリアではなくオレの前に立っている。
「どうかしたのか?」
「……いえ……あの……」
「顔色が悪そうだが、大丈夫か?」
「は、はい……私、ちゃんと働きますから!」
「いや、むしろオレとしては休んで欲しいんだが……。コーディリアから聞いていると思うが、人の手配も進めているからな」
「……あ……ありがとう……ござい、ます」
元々マールはオレに苦手意識を持っているのか、いつもオレと目を合わせて話そうとはしない。
だが今日はいつもよりもさらに酷く、完全に俯いた状態で小さな声を絞り出している。
これは前倒しをしてでも休暇を与えた方がいいだろうか。
「コーディリア、予定変更だ。現在の与信処理は一旦止めて構わない。明後日と明明後日、グレイディア商会の全業務を休みにしろ」
「え……はい、判りました。各所へは明日連絡を入れておきます」
「……ということだ。マール。明日だけがんばってくれれば、少しは楽になる」
「あ……はい……」
休暇が取れると聞いて少しは喜ぶかと思ったが、マールの反応は思ったより鈍い。
むしろ疲労している様子のないコーディリアの方が良い笑顔を浮かべている。
オレはコーディリアに嫌味の1つも言ってやろうと思い、口を開き掛けたが……その前にマールがオレの服の裾を掴むと、小さな声で言った。
「あの、会頭……」
「なんだ?」
「その、最初に……雇って頂いた日の……お話、ですけど……」
「雇った日……何かあったか?」
「その、愛人……契約の、お話……。私、断って……でも、その……今からでも……大丈夫、でしょうか」
一瞬、マールが何を言っているのかわからなかった。
だがよく考えればマールの採用を決めたあの日、コーディリアが半ば冗談めかしてこいつに愛人契約を持ちかけていたことをオレは思い出した。
休暇の話のあとにその話題を蒸し返してくるということは……そうか、給料のことを気にしているのか。
そう言えばマールは冒険者ギルドの仕事も、グレイディア商会の仕事も、当初の予定以上によく働いていると言っていた。
なら、愛人手当て目当てに余計なことを考えさせるよりも、普通に昇給してやればいいだろう。
「マール、オレは別に愛人は必要としていない。一応、こいつで足りるからな」
「ボス?人を一応呼ばわりするのはどうかと思いますけど」
「ただ、お前の言いたい事は判った。仕事が予想以上に忙しいことはオレも把握している。愛人手当のような面倒な話ではなく、普通に昇給してやる。だからコーディリアのような頭のおかしい交渉はしなくていいぞ」
「ちょ、ボス!?私、頭おかしくありませんよ!?」
コーディリアが何か言っているが、自分から歩合制度で給料の支払いを求め、さらに歩合では足りないからと愛人契約を持ちかけてくる女の頭がまともである筈がない。
マールにはそんないかれたコーディリアを見習わせる必要はないだろう。
「……えっと……その……」
「マール、ボスがこう言ってるんですから、気にせず貰っておくといいですよ。あとボス、ついでに私も昇給してください」
「お前はそもそも歩合制だろうが。働けば働いた分だけ稼ぎが増えるぞ?」
「うう……それはそうですけど……」
「まぁ、そういうことだ。とりあえず明日を凌げば少し楽になる。よろしく頼むぞ、マール」
オレの言葉にマールは無言で頷くと、そのまま黙って事務所を出て行った。




