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#2

 コーディリアとマールに与信とローン関連、そして与信記章の業務は任せ、オレは借金奴隷化した冒険者パーティがダンジョンから回収してきた品の分別を行う。

 オレは傘下のパーティに所属する魔法使い連中には鑑定魔法を教え込み、宝箱で手に入れたものは全て回収して鑑定を行わせた。


 もちろん、1日に鑑定出来るアイテムは2、3個どまりだから持ち帰った品は何日か掛けて鑑定することになる。

 だが数日の休養が必要な前衛とは違い、後衛の魔法使いは1日寝れば魔力がある程度回復するらしく、ダンジョンアタック後の休暇日に内職として鑑定を行うよう、連中には指示を行っている。


 大抵のアイテムは、かつてオレが拾ってきたアッシュメイカーやらウインドダンサーやらのような使い道の無いゴミのようなものだったが、中にはこれまで知られていなかった魔導具も発見された。

 連中はそれらのアイテムのうち、冒険に役立ちそうなものは自分達で使用し、使わない品についてはグレイディア商会へと納品することで借金返済の足しにして行った。


 予想通り……いや、それ以上のペースで持ち込まれる魔導具や消耗品の数々。グレイディア商会のキャッシュフローはいつしか金融部門よりもアイテム売買に軸足が移るほどになった。

 それはつまり、借金奴隷となった冒険者達の懐もそれなりに潤っている、ということなんだが。


「しかし……このペースで稼いでいるなら、普通に考えればとうの昔に返済が終わってるはずじゃないか?」

「まぁ、返すそばから信用払い(クレジット)で飲んでますからね……」


 コーディリアが呆れたようにそう言う。

 オレは傘下に入った冒険者に対して福利厚生の意味を込めて若干の与信枠を付けてやったのだが、連中はその枠を使って飲み食いし、折角返済した借金をまたすぐに貯めてしまっていたらしい。


 ダンジョンを介して稼ぎをもたらす連中を手元に置き続けられることは歓迎なんだが、一方で返済がいつまで経っても終わらないように見えると、それはそれで他の連中がローンを使わなくなるのではないかという危惧もある。

 そう考えたオレは、ダンジョンから帰った後に酒場で豪遊している連中の元へ出向き、注意喚起を行うことにした。


「お、ヤクザの旦那じゃないですか!こっちで一杯飲みましょうや!」

「ああ、『黄金の獅子』の……。貴方がた、自分達が今、借金返済中の身だと判って豪遊を?」

「ん、ああ。まぁ一応契約に縛られている身ではあるが、俺達だけでダンジョンへ潜ってたときよりも随分と楽だからな。攻略支援やら適正レベルの分析やらをしてもらったおかげで余計な怪我もしなくなったし、今の状態でも不満はないさ。これからも世話になるぜ、旦那!」

「……そうですか」


 どうやら連中はオレの傘下にいたままの方が有利だとでも考えているらしい。

 自営業で一山当てるよりも、サラリーマンとして指定された業務をこなしている方が安全……というような感覚なのかもしれないが……。

 オレとしては正規雇用の従業員として抱えるのは、コーディリアやマールのような優秀な人間だけにしたいんだが。



「ボス、今日冒険者から上納された魔導具ですが」

「ああ。何か珍しいモノでもあったか?」

「いいえ、新規アイテムはありませんでした。ですが例のブーツが2足ありましたよ」

「ほう……それは当たりだな」


 ブーツ形状の魔導具はこれまで価値が無いと捨てられていたものの筆頭格だ。

 実際、オレが拾ってきた「足跡が燃える」という意味不明なブーツは未だに使い道が無く塩漬けになったままだが、一月ほど前にそんな外れの中に思わぬ掘り出し物が発見された。


 トラベリングブーツ。


 それは履くと歩行時の疲労を軽減する、まさに徒歩旅のために作られた魔導具だ。


 冒険者の多くはダンジョンや依頼先へ徒歩で赴くことが多く、依頼中も一箇所に留まっている時間は少ない。

 つまり連中にとって冒険の大部分は本筋ではない装備品や消耗品を担いで移動する時間に他ならず、その移動による疲労が連中の戦力を低下させる要因となりうる訳だ。


 そういった状況を考えれば、このブーツは冒険者にとってパフォーマンスを劇的に改善する逸品という事になる。


 当初、歩行の疲労を軽減するという一見すると地味な効果をもつこのブーツは金貨20枚程度の価値しかないと判断された。

 換金アイテムとしては魅力の低い品であったため、多くの冒険者は発見したトラベリングブーツを自分達で使用し、結果としてその連中が口々にこれは良いものだと宣伝し始めたことでブーツの価格は高騰した。


 現在、オレのところでは金貨150枚での引き取りになっているし、マードック商会が残クレ市場に放出しているものには金貨330枚の値が付いている。

 冒険者にとっては魔法の武具に匹敵するレベルで生存性を左右するアイテムがこれまで捨てられていたことは呆れる他ないが、おそらく今後もこういった未知の掘り出し物が発見されていくことだろう。


「……そう言えばお前も一度使っていたな?どうだった?」

「確かに疲労は軽減しましたし、少しだけ速く歩けるようになりましたよ?」

「良かったじゃないか。なら、そのブーツを履いて毎日マールに会いに行ってやると喜ぶんじゃないか?」

「嫌です。お断りです。そんなことをしたら私、他の仕事が出来なくなります」


 杖を突いて歩くコーディリアの負担を少しでも軽減してやろうと思い、オレはトラベリングブーツのうちの1足をこいつに与えていた。

 だが、こいつが履いているのは足の傷を隠すための、いつもの長ブーツだ。


 そのことに気づいたとき、俺は身の回りにはあまり気を使わない女ながらも、歩行能力より傷を隠す方を優先しているのだろうと思っていたんだが……。


「あのブーツを履くと確かに歩くのが速くなりますし、足の疲労も減りますよ?ですが上半身と腰の負担が余計に大きくなって、腕の筋肉痛でペンも持てなくなるんです」

「……なるほど、足の負担が軽くなるだけということか」

「ええ、歩行の負担という看板には偽りありです」


 コーディリアはそう言うが、杖を突いて歩くこいつが例外なだけで普通の冒険者相手なら歩行の負担でも、足の負担でもそう違いはない。


「いつか全身の負担を軽減する魔導具が見つかったら優先的に支給してやる」

「いえ、むしろ事務所で引きこもって仕事が出来る環境を用意して頂ければ、それで十分ですので」

「また腹に贅肉が付くぞ?」

「……大丈夫です。たぶん」


 視線を泳がせながらコーディリアはそう言うが、毎週の「業務報告」を通じ、最近また少しずつこいつの腹に肉が付いてきていることをオレは知っている。



「ところでボス、マールの件なんですが」

「何かあったか?」

「いえ、マールが……というよりも、冒険者ギルド全般の話なんですが」


 コーディリアはいつも通り週に一度、監査を兼ねて冒険者ギルドへ出向くことを続けている。

 で、今日はその監査日であり「業務報告」の日でもある訳だが、コーディリアはベッドの中でマールの話を持ち出してきた。


 オレはてっきり先日話が出たマルレイン工房絡みの話だと思ったが、どうやらそれとはまた別件らしい。


「実は冒険者ギルドの受付がパンク状態になっているようで。マールはそちらの業務と与信業務を両方こなしているのでかなりオーバーワーク気味に見えました」

「ギルマスにはうちの業務の合間にギルドカウンターを手伝うと伝えてあったはずだが?」

「ええ、ギルドから強制されている訳ではなく、マールが自発的に働いているようです。ギルドカウンターから溢れた冒険者がマールのいるブースに流れてきている……というのもあるみたいですけど」


 マールが常駐している場所はギルドカウンターの横にあるグレイディア商会のブースだ。

 普通であればカウンターが行列していても、うちのブースへ依頼の件で冒険者が並ぶとは考えづらいが……。


「監査に出向いたお前の所には並ばないのか?」

「はい。なので提案です。グレイディア商会の制服を作りましょう」

「制服……?」


 そう言えばコーディリアを雇用した初日に、こいつが商業ギルドの制服を着たままだという事を指摘したことがあった。

 結局コーディリアは今も特徴的な商業ギルドのベストはそのまま着用し、インナーだけを開襟シャツに替えている。

 一方でマールはと言えば……。


「そうか、マールはまだ冒険者ギルドの制服を着ているんだったか」

「はい。なのでグレイディア商会の事を良く知らない流れの冒険者がマールの所へ依頼の話をしに来ていますし、マールが生真面目に対応するので臨時カウンターのようになっています」

「なるほどな」


 コーディリアの言う事はもっともだ。

 だが、制服を変えるだけではおそらくマールの行動は変わらないだろう。

 そう考えたオレは制服の件を承認した上で、従業員を増やすようコーディリアに告げた。


「従業員、ですか?これ以上ギルドから引き抜くのは……」

「いや、マールの補助をする純然たるうちの従業員だ。与信判定やギルドとの橋渡しはマールでないと無理だが、書類作成や条文読み上げのような雑用なら他の奴にでも任せられる。商業ギルドで人手を手配しろ」

「承知しました。もちろん、住み込みではない従業員ですよね?」

「当たり前だ」


 オレの言葉にコーディリアは頷くと、制服の件と併せて手配すると言った。

 同僚……いや、アシスタントが増えることは早めにマールにも教えておいた方がいいだろう。


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