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#20

 オレがカミラに説明した金融商品はこうだ。


 ダンジョンからの戦利品という、不安定な収入に依存する冒険者にとって、固定費用となる毎回の返済額が大きくなることは死活問題に繋がりかねない。

 ルディが警告しているのはまさにそこだ。


 なのでオレは「毎回の支払額は1人当たり金貨10枚に固定」し「戦利品が多く手に入った週には割増しで返済する」という契約を提案した。


 もちろん、オレが行っているのは慈善事業ではないから、繰り延べられた支払いに対して別途手数料や利息が上乗せされることを説明した上で。


「えっと……どういうことだい?つまり、毎週金貨10枚を払うだけでいいってことかい?」

「基本はそうですね。ただそのままだと長期間支払いが続きますから、一山当てた際には纏めて支払っていただく方が賢明だと思いますが」

「おい、ルディ。この人の言っていることは本当か?」

「……うん。契約書に書いてある通り」

「確かに1人当たり金貨10枚なら、今の魔剣の支払いとそう変わらないか……」

「ランディ、ルディ、アタシはこの話に乗っていいと思ってる。ヤクザさんにはジーンの件で世話になったし、アタシ達を欺すような人なら香典なんて出しやしないよ!」

「確かに、結構大きな額を貰ったからな……」


 オレとランディ達との会話は当然周囲にいる冒険者達の耳にも入っている。

 魔術士がいるパーティは頭脳労働担当である魔術士に俺の話に裏がないか、確認しているのが聞こえてくる。


 だが、どれだけ契約書を精査してもオレの提示した契約内容に瑕疵は存在しない。

 

 何せオレが提案したこの支払い方法は詐欺でも何でなく、法治国家である日本において、大手の金融会社が合法的に運用していた「輪転する欲望(リボルビング払い)」そのものなのだから。



 結局カミラに押し切られる形でルディはリボ払いの契約を結ぶ事認めたが、オレはその申し出を一時保留にした。


 なにせ現時点での連中の与信枠はリボ払いを使うまでもない小さな枠であり、リボ払いが必要になる……そしてオレの養分になるのは、神官がパーティに加わった後のことだ。


 なのでオレは先にこの連中が信用スコアの高い推薦者であるという書面を作製し、3人にマファーメラ神殿へ行って派遣適合者かどうかの判定面談を受けてくるよう伝えた。


「面談……って何を聞かれるんだ?」

「そこまではオレにも判りませんが、神殿の方々は勇者の再臨を望んでいるような口ぶりでしたよ」

「アタシ達が勇者なんて、笑っちまうね」

「ああ。だが……なんとなく方向性は判ったよ。人のために戦う、善意の冒険者たれ……ってことだな?」

「オレはあくまでも公平な立場ですので、入れ知恵はできません」


 真顔でそう言ってやると、3人は笑顔を見せ、そしてマファーメラ神殿へと出向いていった。


 おそらく神殿側も最初の派遣をモデルケースとして位置づけ、冒険者を慎重に見極めようとするだろう。

 あの3人は中堅パーティだが、人当たりもそれなりに良い。

 オレは推薦状に3人を「平均的な、そして善性のパーティである」と記しておいた。


 その言葉の意味を神殿側が理解すれば……おそらく、戻ってきたパーティは4人編成になっていることだろう。



 その後、ランディ達の話を聞いていた冒険者達が数組、与信審査を求めてきた。

 ここ数日で連中もどういう基準で与信が行われるのかを知ったらしく、パーティのメンバー構成がこれまでの戦士や魔術士に偏ったものではなく、盗賊や薬師、錬金術師を加えたものに変化しつつあるようだ。


「しかし、盗賊はともかくとして錬金術師や薬師は冒険に出れるのか?」

「審査の時に聞いた話だと、ダンジョンアタックではなく通常の依頼を主に受けているパーティのようでしたよ。薬師や錬金術師がいれば採取した薬草をその場でポーションに出来るそうです」

「なるほど、その場で治療するという意味では神官と同程度に役立つ訳か。その連中の与信評価はどうしている?」

「治癒と補助の魔法を使える神官を1として、錬金術師は0.8、薬師は0.6の係数を掛けています」

「ふむ。根拠はあとで聞かせて貰う」


 コーディリアは人間鑑定の魔導具を使って与信希望者の能力を見極めているから、こいつの言う基準にはある程度の妥当性があるのだろう。

 少なくとも錬金術と聞いて胡散臭い詐欺師のイメージしか思い浮かべられないオレよりは、客観的に評価をしているはずだ。


 一通り与信希望者の処理が終わった後、オレはコーディリアを伴って事務所へ戻った。


 と、事務所の前に、以前見た記憶がある不審人物の姿があった。

 ……何とかというエルフだろうか?


「サブル・カムル!この詐欺師!貴方には融資しないと言いましたよね!」

「まってくれ、麗しき乙女よ。こちらの商会長に合わせて貰えないだろうか。そうすればきっと私の開発した魔導具の素晴らしさを理解して貰えるはずなのだ……!」

「……コーディリア?」

「今日、私が冒険者ギルドへ到着するのが遅れた理由です」


 そう言えばコーディリアは出がけに腐れエルフに捕まったと言っていた気がする。それがサブル・カムルだったということか。


 数日前に出会ったこのエルフはあの後事務所に一向に姿を現さなかった。

 なのでオレはこいつが融資の話は諦めたものだと思っていたのだが……今の様子を見る限りでは諦める気は皆無のように見える。


 コーディリアはこのエルフの事を蛇蝎のごとく嫌っているようだが、オレの本業はカネ貸しだ。カネの匂いがする魔導技師相手なら、話ぐらいは聞いてやってもいいだろう。


「サブルさん、でしたか?オレがこのグレイディア商会の会頭、ヤクザです」

「おお、貴方は先日の見知らぬ親切な方ではないですか!なんと、貴方がこちらの会頭……おや?」

「先日はご挨拶ができず申し訳ありませんでした。とりあえず中で話を伺いますよ」

「……ボス!?」

「コーディリア、今は仕事の時間だ」

「……承知しました、会頭」


 エルフをいつもより数倍険のあるジト目で見つめてから、コーディリアは不承不承といった様子で事務所の扉を開き、サブルを招き入れた。



「それで、融資をご希望との事ですが……。サブルさんは魔導具の開発を行われているとか?」

「ええ、そうです。私は今、伝令板(オーダリーボード)という、この世界の常識を根底から覆す発明を行っているのです。ですが……その、商業ギルドから融資を打ち切られまして……」


 サブルはそう言うと、オレの隣に座ってこのエルフを睨み付けているコーディリアに視線をやった。


「コーディリア?もしかして前職からの知り合いか?」

「……はい。私がこの腐れエルフの融資を担当しました。そしてこの腐れエルフのせいで、私の業績評価は二段階も下がりました!」


 忌々しげにそう言う姿から察するに、どうやらこのエルフが持ち込んだ案件はとんでもない不良債権になる可能性が高そうだ。

 とは言え、どのような研究を行っているのか興味が無いと言えば嘘になる。

 オレは興奮するコーディリアを手で制し、サブルに向かって問うた。


「その伝令板(オーダリーボード)というのはどういう魔導具なのですか?」

「よくぞ聞いて下さいました!この魔導具は情報伝達の仕組みを根本から変えるものなのです。これまで遠距離に情報を伝えるためには念話や遠話の魔法を使える魔道士を配置するか、伝令を走らせるしかありませんでした。ですが魔道士の数は少なく、国の各所に配置することは難しい。そして伝令では時間が掛かってしまう」

「……まぁ、それはそうでしょうね」


 オレとしてはスマホやネットで通信するのが当たり前という意識だが、そういった技術の無いこの世界では情報伝達にはかなりのコストが掛かるというのは理解できる。

 そしてそういう前振りと、伝令板(オーダリーボード)と言う名から察するに……サブルの開発した魔導具は遠距離通信を可能とするものなのだろう。


「そこで我が伝令板(オーダリーボード)の出番です!この魔導具は10リーグ(約45Km)先まで文章を速やかに、正確に伝達することが出来るのです!」


 そう言うとサブルは脇に置いていたずだ袋から板状のものと、箱を取り出して見せた。

 その二つを見たコーディリアの鼻息が荒くなるのが判った。


「会頭。発言を許していただけますか?」

「少し待て。で、サブルさん。これはどのように使うものですかね?」

「こちらの送信板にメッセージを記します。するとこちらの受信箱へ記されたメッセージが表示されるのです!」


 そう言うとサブルは手元の送信板に「融資希望額、金貨3000枚」と記した。

 オレが受信箱と呼ばれたものに視線をやると、確かにそこにはサブルが手元に書いたメッセージと同じものが表示されている。


「なるほど、どういったものかは判りました。それで、コーディリア?」

「これは!失敗作です!このサンプルは5ヤード(約4.5m)先までしか文字を送れません!そして商業ギルドが金貨3000枚を融資して『完成』したものは、500ヤード(約450m)先に、○か×かを伝えることしか出来なかったんです!」

「なるほどな。それで商業ギルドはこの債権をどうした?」

「係官を派遣して差し押さえを試みましたが、この腐れエルフは私財の全てを研究費に換えていたんです!おかげで商業ギルドは評価額金貨5枚の失敗作しか回収できませんでした!」


 コーディリアがここまで感情を露わにするのは珍しいが、金貨3000枚を投じて金貨5枚の失敗作しか回収できなければ、それは確かに融資審査を行ったこいつの責任問題にもなるだろう。


「もしかしてお前が商業ギルドに居づらくなったと言っていたのは?」

「契約期間が満了していたのは事実ですけど、この件ももちろん影響しています!」


 なるほど、それでこの剣幕という訳か。

 しかしサブルの方も、よりによって融資を求めに来た街金に元商業ギルドの担当者がいるとは思ってもみなかったのだろう。

 それでもなお諦めずに融資を求めているということは……それだけ切羽詰まっているということか。


「ではサブルさん。この伝令板(オーダリーボード)の仕様や問題点について細かく説明していただけますか?コーディリア、お前は説明に誤りがあると思ったら指摘を」

「……話を聞くこと自体が誤ってると思います!」

「それは無しだ。サブルさん?」

「ええ、もちろんですとも、賢き金貸しのお方。まずこの伝令板(オーダリーボード)は――」


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