#19
その後、冒険者ギルドへ向かったオレを3人の冒険者が待ち構えていた。
いずれも顔見知り……ランディとルディ、そして3人目の女はカミラだったか。
俺の姿を見つけた女はこちらに向かい、深々と頭を下げてきた。
「アンタにお礼を言いたくてね。ジーンの事、ありがとうよ」
「なに、気にされることはありませんよ。怪我の方は……」
「アンタがくれた香典で治癒魔法を掛けて貰ってね。おかげさまでこの通りさ」
「では、また戦士として復帰されるんですか?」
オレの言葉に女は頭を振ると言った。
「いや、この前の事でアタシには戦士は向いてないと思ってね。治療がてら、神殿で人間鑑定をしてもらったんだ。そしたらアタシは戦士より盗賊に向いてるって言われちまってね」
……オレはその言葉に、初めてこの連中と出会った際に行った簡易鑑定の結果を思い出した。
ランディがレベル4、ルディと死んだジーンはレベル3。そしてこの女、カミラはレベル2だった。
つまり、適職ではないために、早々に成長上限に達して頭打ちになっていたのだろう。
何事も適材適所が重要ということだ。
「そうでしたか。それで今日はわざわざ挨拶に?」
「いや、ランディからアンタが冒険者の支援をしているって聞いてね。アタシも転職したし、装備やら盗賊用の道具やらを整え直す必要があるんだ。それで……もし良ければアタシにもローンってやつを使わせて貰えないかと思ってね」
そう言うとカミラはランディがローンで手に入れた魔剣に目をやった。
なるほど、つまりカミラはオレにとっての客になる訳だ。
「もちろん構いませんよ。ただ手続きは従業員に任せてましてね。先にギルドカウンターで信用スコアの算出を受けておいてもらえますかね?」
「ああ、わかったよ」
そう言うとカミラ達はギルドカウンターの方へ向かって言った。
ランディとルディは戦士と魔術士という偏った組み合わせのせいでパーティとしての与信枠は小さい。だが盗賊として成長が望めるカミラが加われば、「自己資産」の評価は向上するだろう。
……この連中に、神学校の生徒を同行させればさらに安定したパーティになるか?
ランディは才能の伸びしろこそ少ないが信用スコアは高く、既にオレの事業の広告塔的な立ち位置にある。
なら、神殿との提携に使う最初のテストケースには好都合か……。
オレが内心でそんな計算をしている間に、肩で息をしたコーディリアが冒険者ギルドへとやってきた。
「随分と遅かったな?」
「出がけに……腐れエルフに……つかまりまして……」
「エルフ?」
「いえ、その話は後でいいです。ボス、あの人達は与信審査希望、ですか?」
どうやら時間に遅れないよう、可能な限り急いできたのか、ぐったりした様子で杖に寄り掛かったコーディリアへ目線でブースを指す。
そこには信用スコアの算出が終わったカミラが待ち構えている。
「ああ、そうだ。コーディリア、あの連中をモデルケースにする」
「……承知しました、会頭」
仕事モードに切り替わったコーディリアはそう応えると、ブースの方へと向かって行った。
結果としてカミラの盗賊としての資質はそれなりに高かった。
人間鑑定の魔導具が映し出したカミラの素質は、
クラス:盗賊/戦士
レベル:1(上限:5)/2(上限:2)
と表示されていた。つまりこいつは1人前の盗賊になりうる才能と、駆け出し程度の戦士として才能を併せ持つ、それなりの逸材だったということか。
「カミラさんお一人の与信枠は金貨310枚ですね。ランディさん達の元々の与信枠はお一人金貨230枚でしたが、お三方でパーティを組む前提だと全員が一人当たり金貨450枚までの与信枠になります」
「俺達の枠も増えるのか?」
「はい。グレイディア商会の与信制度ではパーティ構成も査定の基準に含まれますので」
「……そうか……」
「この短剣、使いやすそうだね……。魔法の開錠道具も必要だし、アイテム収納量が増えるバッグ?そんな便利なものもあるなんて……。ああ、目移りしちまうよ」
よそ行きの愛想笑いを浮かべたコーディリアがランディ達に説明をしているのをよそに、カミラの方はといえば与信枠を確認した途端、隣にあるマードック商会のブースへ行き、武器や魔導具の物色を始めていた。
随分と気の早いことだ。
オレは傍らからカミラが目を付けていた品の価格を確認する。
魔法の短剣は金貨385枚。魔法の開錠道具は金貨550枚。収納袋には金貨1100枚の値が付いている。
ランディ達が元々持っていた与信枠は二人で金貨460枚だったが、既に魔剣のローンで金貨330枚分を使っている。
しかし盗賊であるカミラが加入したことでパーティとしての与信枠は金貨450枚×3人で金貨1,350に増額される。
とは言え既にランディかま金貨330枚分の枠を使っているため、カミラが欲しがっているアイテム全てを手に入れることは出来ない。
「ああ、この装備や魔導具があればダンジョン攻略も進むだろうに……口惜しいよ!」
「まぁ魔剣の支払いもあるしな。最初は開錠道具ぐらいで我慢しておくべきじゃないか?」
物欲しそうなカミラに対してランディは堅実なことを言っている。
本来であればここはランディの言うように、身の丈のあった支出に留めるのが賢明だ。
だがオレとしてはこの連中を神学生導入のモデルケースに使いたい。
なら、オレがする事は決まっている。
「皆さん、少しご提案があるのですが」
「うん、なんだい?」
「実はグレイディア商会ではマファーメラ神殿と協定を結ぶことに成功しましてね。有望な冒険者パーティにはマファーメラの神官様に同行していただけることになったんですよ」
「なんだって?あの冒険者嫌いの神殿が?」
オレの言葉に、周囲にいた冒険者達も驚きを隠せない様子だ。
「ああ、もちろん希望すれば誰にでもという訳じゃありません。神殿の側は人々のためになる活動をされている冒険者を支援したいとの事でして。なので信用スコアの高い方が候補になるんですよ」
「おい、俺達の信用スコアってどうなってる!?」
「……なんだ……じゃあオレは無理か……」
オレの言葉に、冒険者達のざわめきが大きくなる。
一方でオレの目の前にいるランディは、自分達のスコアが高いことを既に知っているので、話の続きを黙って待っているようだ。
「ランディさん達であれば、オレも自信を持ってマファーメラ神殿に推挙できます。もし神殿の側が神官の派遣を認めて下されば、皆さんの与信枠は大きく拡大できますよ。……コーディリア?」
「はい。そうですね……レベル2以上の神官が加われば生還率が大幅に増加しますから、与信枠は少なく見積もってもお1人当たり金貨1,000枚になるでしょうね」
「今回、神殿にお願いしているのは神学生の方の修行を兼ねた派遣でしてね。戦闘はできませんし、いくつかの制限は加わりますが……。与信枠の件は別としても、その場で傷の治療できる神官はメンバーに加える価値は大きいと思います」
オレはそう言うと、チラリとカミラに視線を向けた。
ランディも、オレがカミラを見たことを……要するに、ジーンがダンジョンで死んだことを思い出せと示唆していることに気付いたのか、一瞬表情を曇らせる。
「アンタの言うとおりだな。オレ達がマファーメラ神殿に認められるかどうかは判らんが、推挙して貰えるなら喜んでその申し出を受けよう」
「もし神官サマが加わったら収納袋も手に入るのかい!?」
「カミラ、全部ローンにしたら……たぶん週あたりの支払いが合計金貨56枚ぐらいになる。よね?」
パーティの中で最も頭の良いルディはカミラが見ていた品物の値段を元に、利率と分割払いの計算を暗算で済ませたらしい。
確かにこいつが言うように、既に手にしている魔剣のローンに3つの品を追加すると、週あたりの支払金額は金貨56枚強になる。
カミラは与信枠が増えることをまるで自分の財産が増えたように考えている。
与信枠を算出する信頼は財産と言えなくもないが……それでも、現実的に見れば与信枠は借金が可能な枠の大きさでしかない。
そして聡いルディはそのことに気付き、毎週の支払額という現実的な数字でカミラを諫めようとしている。
消費者として見れば、圧倒的にルディが賢明だ。
だが、オレが用意した、冒険者を相手にしたビジネススキームに乗せやすいのはカミラの方だ。
「さすがルディさん。週あたりにお支払いいただく金額の合計はおよそ金貨56枚で間違いありません」
「あー、それはさすがにちょっと払えないかな。残念だよ」
「いえ、実はこういうときのために別契約も用意しておりますよ。必要でしたら説明しますが?」
「……カミラ」
「いいじゃん、聞くだけ聞いてみようよ」
オレの言葉にルディは警告を発するが、マードック商会の展示品が気になって仕方の無い様子のカミラは俺の話に食いついた。
この時、オレの耳には……輪転する欲望が回り始めた音が、確かに聞こえた。




