表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/70

#7

「おかえりなさい、ボス」

「ああ。問題は無かったか?」

「もちろんです」


 相変わらず仏頂面でそう言うコーディリアにオレは軽く頷いて事務所の奥へと向かう。

 と、奥のダイニングから良い匂いが漂ってきた。


「おい、コーディリア」

「昼過ぎにナタリーが来ましたので、早速雇用して働かせました。雇用契約書と同意書はこちらに」

「ずいぶんと手回しのいいことだな?」

「はい。すぐにでも働いて貰わないと食事が取れませんし、私の部屋も大変なことになっていましたから」


 債務が焦げ付いた元メイドのナタリーをグレイディア商会のメイドとして雇用する話は昼前にも聞いていた。

 だが、コーディリアが言う即日雇用、即日勤務させる理由には何か不穏なものを感じる。


「……待て。食事は判るが、部屋が大変というのはどういうことだ?」

「いえ、洗濯や片付けなどが……」

「お前、昨日引っ越しきたところだろうが。どうして一日でメイドの世話が必要なレベルで散らかるんだ?」

「……ボスが何を言っているのか良くわかりませんが……。ともあれ、本日の業務は終了ですので、お先に失礼します」


 そう言うとコーディリアは杖を突いて自室の方へ戻っていった。

 確かにあいつは貴族令嬢で、自分の身の回りのことは他人任せなのかも知れないが……。そう言うどうでも良いところだけ令嬢らしいというのは、どういうことなんだ。


 その後、ダイニングに現れたコーディリアは昨夜の中途半端に扇情的な格好ではなく、オレが昼間に開襟シャツと一緒に買い与えた安物のドレスを着ていた。

 どうやら着る服が無いと言っていたのは本当だったようだ。


「なにかコメントがあっても良くないですか?」

「そうだな。馬子にも衣装……いや、令嬢にも衣装か」

「それ、褒めてませんよね?」


 こいつも素材は良さそうなのだから、化粧をして着飾ればそれなりに見えるようになるだろうに。

 まぁオレには関係のないことだが。


「ボスも似合っていますよ、その眼鏡。悪漢らしさが増した気がします」

「そうか、褒め言葉として受け止めておく」


 そう答えながらも、オレは自分がただのサングラスを掛けていたのではないことを思い出した。眼鏡のツルに手をやると、曇りガラスに小さな文字が表示される。


『レベル2:貴族/魔法使い』


「……ずいぶんあっさりしたものだな」

「私に褒め言葉を求めないでください」

「いや、お前に言ったんじゃない」


 ジト目でこちらを睨みながらそういうコーディリアをいなしながら、このサングラスは価格ほどの価値があるのかは微妙だと内心で評価する。

 それもそうか。これが有益なアイテムなら不良在庫化しているはずもない。


 もともと何かを期待して買ったわけでもないし、何かの際に役に立てば御の字だと考えるべきだろう。



「それで、私は業務に勤しみましたが、ボスは何かお仕事をされましたか?」

「ああ。新しい与信の仕組みを考えているところだ」

「与信……ですか?」

「そうだ。お前が言っていた融資判断……たしか信用見だったか?それに当たるものだ」

「現状の信用見に何か問題が?」

「問題があるというよりも、不十分なのでな」

「……?」


 コーディリアが有能であることは疑いようはないが、こいつの有能さはあくまでもこのマーネイという国の枠組み内での優秀さだ。

 商業ギルドが革新を起こす組織ではない以上、そこで長年に渡って働いていたコーディリアが不勉強という訳ではないが……。


「コーディリア、現在の融資判断ではどのように信用を見極めている?」

「本人の持つ財産と保証人の有無。あとは職業や家柄によって判断を行いますが、私はそこに本人の持つ技能を加味しています。何か問題でもありますか?」

「いや、今の仕組みの中でならそれが正解だ。だが、その与信ではカバーできない者がいることは判るか?」

「……そうですね。後ろ盾も財産も実績もない、若者。しかし将来開化する資質を秘めている者、でしょうか」


 やはりこの女は聡い。現状の融資でこぼれ落ちる、有望投資株の存在に気付いていた。


「ですがボス、誰がそのような資質を秘めているのかなんて、誰にもわかりませんよ?パン屋が商売繁盛するかどうか、商人が旨く利益を上げられるかどうかなんて……」

「それは確かにそうだ。だが、オレがカネを貸そうと考えているのは、街の連中じゃない。街の連中にカネを貸したところで得られる利息収入は知れている」

「しかし暴利を設定しても借り手が逃げるだけでは?」

「そうだな。普通にカネを貸すだけならそうだろう。だが……相手を選び、貸し方を選べば、より大きなビジネススキームが生まれる」


 コーディリアはオレの言葉を黙って聞いていたが、やがて笑みを浮かべると言った。


「ボスなら、何かそういう新しいことを考えると思っていました。これは思ったよりも早く歩合制の効果が出そうで嬉しいです」

「……なんだ、お前……笑えるのか」

「私、笑ってましたか?」

「ああ、良い笑顔だったぞ」

「そうですか?でもボスだって……とても邪悪な笑みを浮かべてましたよ」


 再び仏頂面でそう言うコーディリアの言葉に、オレは思わず苦笑した。



 翌朝。オレはマードック商会が開店するのを待って、護身用の魔導具を2つ買い求めた。


 1つは防御力を高めるという「護りの護符」。

 日本でなら胡散臭い宗教の霊感アイテム呼ばわりされそうなモノだが、魔法が実在するこの世界では本当に効果がある実用品だ。


 もう1つは「魔力の杖」。

 なんでも相手に向けて念じれば、魔法の矢を放つことが出来るらしい。

 オレとしては携行しづらい拳銃(チャカ)のような印象の道具で、なるべくならこの手の道具には頼りたくない。

 だがダンジョンに入るなら護身用としてなにか攻撃手段は持っておいた方が良いと考えた訳だ。


 護符の方は金貨350枚。消耗品である杖の方は金貨170枚とそれなりの値がしたが、オレの命を守る保険だと思えばそう高いものでもないだろう。



 2つの品を手に冒険者ギルドへ出向くと、オレが出した依頼を受けた冒険者が待っていた。

 人数は4人。

 戦士風の男が2人と女が1人。そしてローブ姿の若い男が1人。

 オレはサングラス(人間鑑定)の効果を発動させながら、その冒険者達に声を掛けた。


「みなさんがオレの依頼を受けてくれた方ですか?」

「ああ、そうだ。俺はランディ。こっちは弟のルディだ」


 一番年かさで唯一金属製の胸当てを身につけた男がそう言って、傍らのローブ姿の男を紹介する。


『レベル4:戦士』

『レベル3:魔道士』


 続けて軽装の革鎧を着けた女が、傍らにいる盾を持った無愛想な大男を肘で小突きながら言った。


「アタシはカミラ。こっちは相棒の……」

「ジーン」


『レベル2:戦士』

『レベル3:戦士』


 同じパーティの一員なら同レベルかと思ったのだが、どうやらレベル帯にばらつきがあるらしい。


 いや、それ以前に気になることがある。

 こいつらは4人組のパーティのはずだが、鎧の男はローブの男だけを紹介し、女は大男を相棒と呼んだ。

 それが意味する事は……。


「失礼ですが、あなた方は日常的に同じパーティとして活動を?それとも今回の依頼のために臨時編成されたパーティですか?」

「ん?ああ、ここ2月ほどは一緒に活動しているから、同じパーティだと思ってくれていいぜ」

「前は別々のパーティだったんだけどね。どっちもメンバーが死んじまってさ。かといって新入りを鍛える余裕なんてないから、アタシとルディで相談して組むことにしたのさ」

「なるほど。ではこのパーティのリーダーは……」


 俺の言葉に4人の間に微妙な空気が流れる。

 どうやら鎧の男と女のどちらが明確にリーダーなのかは決まっていないようだ。


 互いに命を預ける冒険者のパーティと言うものは基本的に編成が固定されているものだと思っていたが、欠員が出た場合の補充を考えるとこういう運用になるのか。


 ただ問題はこの連中がダンジョンアタックというプロジェクトに合わせて編成されているのかどうか、ということだ。

 オレから見ればこいつらは、各々の役割が明確に定められたエキスパート集団である「チーム」ではなく、人数あわせのために既存の人員を雑に集めただけの「グループ」に留まっているように思えてならなかった。


 おまけに指揮系統すら明確ではないとくれば……。

 いや、冒険者が基本的には底辺肉体労働者であることを考えれば、致し方ないことか。


「ところで私は標準的な構成のパーティをリクエストしていたのですが、皆さんの構成がダンジョンへ潜る際の標準構成ですか?」

「ん、ああ、そうだね。普通は3、4人だけど……3人の方が多いかもしれないね」

「そうなのですか?」

「俺達はギルド側から指名依頼を受けたんだか、依頼者が同行するなら3人より4人のパーティの方が安全だろうって話だったな」


 どうやら受付嬢か、それとも冒険者ギルドの上層部が余計な気を利かせたらしい。

 俺としては標準的なパーティの活動を観察したかったのだが……まぁ、ギリギリ許容範囲だと思うべきか。


「わかりました。では早速ですがダンジョンへ案内して貰えますか?オレは戦闘経験が無いので、後ろから皆さんの戦いを見学させて貰います。指示などは特にありませんが、時々質問はさせて貰います」

「条件通りだな。未経験者のアンタが俺達の指揮をとりたがるなら依頼を断ろうかと思ってたんだが、見学に専念してくれるなら俺達としては歓迎だ」

「一応確認だけど、見学って事は分配も無しってことでいいんだよね?」


 鎧の男は比較的あっさりと納得したが、女の方は契約条件の確認を行ってきた。

 ダンジョンアタックに限らず、冒険者パーティでは報酬や戦利品を山分けにすることが不文律になっていると聞いている。その山分け対象にオレが入らないことを念押ししているのだろう。


「ええ、もちろんです。まぁ、皆さんが不要だと判断したモノを回収するかもしれませんが」

「ああ、売り物にならないものなら好きにしてくれてかまわないよ」


 結局ローブの男と大男は一言も発しないまま打ち合わせは終わり、オレ達は街外れにあるダンジョンへ向かう事になった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ