#6
その後、オレはタブレット型、眼鏡型も試してみたが、それぞれの機能は番頭の説明通りだった。
ただ、眼鏡型についてはオレが装備している都合上、第三者に情報を共有できないという問題がある。
純粋に誰かを簡易鑑定するためのものなのだろう。
「いかがですか?ヤクザ様のお眼鏡にかないましたか?」
本人は小洒落たことを言っているつもりなのか、番頭は笑顔を浮かべている。
オレの本命は鏡形だが、ここであからさまに物欲しげな言動を取れば足下を見られてしまうかもしれない。かといってタブレット型は中途半端で、仮に購入してもオレの考えるスキームには不十分だ。
なら……ここは付き合いとして、安い眼鏡型を一つ買い求めるのが、大人の対応というやつだろう。
「ええ、確かに。面白い品ですので、この眼鏡型を一つ購入させて戴きたいのですが……。これもデザインが複数あるのですか?」
「ええ、あまり需要は無いのですが、他の商店から頼み込まれて引き取った在庫がいくつかございまして……」
番頭の言葉から察するに、マードック商会のような大店でもなければ、魔導具の取り引きは火傷の元にしかならないということなのだろう。
提示された眼鏡型魔導具を見たオレは、付き合いで購入するつもりでしかなかったその魔導具に一目惚れし、一瞬で購入するものを決めた。
「これを」
「そちらですか?その……随分と見えづらいものでして……」
「なら、不良在庫ということですね?値引き交渉をさせて戴ける余地があるとお見受けしますが」
「ヤクザ様にはかないませんな。本来であれば金貨70枚ですが、当商会で引き受けた際の価格が金貨30枚ですので……」
「では間を取って金貨50枚でいかがですか?」
「そうですね。その額なら会頭にも怒られずに済みます」
オレが一目見て惚れ込んだ眼鏡型魔導具は、番頭が言うにはただ前が見えづらいだけの不良品なのだそうだ。
けどこれはオレにとってはサングラス以外の何物でもない。
この世界の人間にも、マードック商会の会頭やコーディリアのように鋭い人間は存在している。
なら、視線を隠すためにもサングラスは必須だし、そこに簡易的とは言え人間鑑定の能力が備わっているのなら、一石二鳥というものだ。
サングラス型魔導具の購入手続きを終えたオレは一旦マードック商会を後にすることにした。
本来であれば鏡形魔導具も手に入れておきたい所だが、オレが今考えているスキームにはマードック商会の協力が不可欠だ。
会頭が不在の場で鏡だけ購入しても意味が無いどころか、もしマードック商会が話に乗らなければ無駄な支出になりかねない。
会頭と直接交渉して、その際に――可能であれば安価に――譲り受けるのが得策だろう。
「さて、次は……冒険者ギルドですか」
夕刻が近づいたことで陽の光が随分と眩しく見える。
オレは手に入れたばかりの魔導具を掛けると、暮れなずむ街を独り行く。
夕刻の冒険者ギルドは依頼の報告を行う冒険者達で賑わっていた。
先日まではオレもこの集団に混じっていた訳だが、商会の主となった今となっては、銀貨5枚で買った冒険者のライセンスももはや意味をなさない。
受付が空くのを待ちがてら、冒険者達の様子を見やる。
多くの冒険者は先日ウスラー商会の件で出会ったなんとかという2人組と同じように鎧を身につけ、腰から獲物をぶら下げている。
時折、ローブ姿で杖を持っている者もいるが、あれは魔法使い達だろう。
オレ自身が冒険者をしていたころは他人の事はあまり気にならなかったが、改めて見るとこの連中のチーム……いや、こういうときはパーティと言うんだったか?ともあれ、集団形成には偏りがあるように思えた。
冒険者達の様子は様々で、意気揚々と依頼報告をしている者もいれば、負傷し、沈痛な様子でカウンターに向かっている者も少なくはない。
言うまでもなく前者は幸運な者達で、後者は比較的幸運な者達だ。
不幸な者達は……ここに帰ってくることすら出来ずに、どこかで野垂れ死んでいることだろう。
そんな事を冷笑的に考えていると、カウンターの一つに空きが出た事に気が付いた。
オレは席を立ち、カウンターへと向かう。
「や、ヤクザ様!」
「ああ、お久しぶりですね」
「久しぶり、じゃないですよ!あの件、どうなったんですか!?」
オレの顔を見た途端、カウンター越しに詰め寄ってきたのは先日ウスラーの一件で依頼書をオレに漏洩させた受付嬢だ。
そう言えばあの後、オレは一度も冒険者ギルドに顔を出していなかった。この女からすれば自分が関わったちょっとした不正――内部資料の流出と賄賂の受け取り――の結果を気にしていたのだろう。
「例の件は関係者がことごとく街を出てしまったようで、捜査は難航しているようですよ。おそらく迷宮入りするんじゃないですかね」
「……それ、私の所まで捜査の手が及んだりは……」
「大丈夫ですよ、きっと」
オレが口にしたことは少しばかりの真実と、多くの嘘を含んでいる。
ウスラーと2人の冒険者が街を離れたことは事実だが、火災についての捜査はそもそも行われていない。
なにせ証拠を握っているオレがどこにも届け出をしていないからだ。
灰鹿亭の女将や主人も既にこの街にはいないことだし、おそらくはあの火災は失火かなにかで処理されていることだろう。
「ところで、今日は依頼の件で来たのですが」
「あ、はい……でも、本日分の依頼はもう受付時間が……」
「いえ、依頼を受けるのではなく、出す方です」
「……はぁ?」
受付嬢は訳がわからないという顔をしている。まぁ、それもそうだろう。
この女からすればオレはあくまでも冒険者の1人であり、依頼を受ける側の人間だと認識しているだろうから。
「実は先日の一件の後に商会を立ち上げましてね。最近は商業ギルドに出入りしているんです」
「そうなんですね。ではご依頼とは……」
「実はダンジョンへ行きたいと思っていましてね。その護衛を冒険者の方にお願いしようと思っているんですよ」
オレの言葉に、一度は理解をしていた筈の受付嬢の表情が再び理解出来ないという戸惑いに染まる。
冒険者がダンジョンへ潜る仲間を探すのなら理解は出来るだろうが、商業ギルドに所属する商会の主が護衛を伴ってダンジョンへ入るというのは、普通に考えればあり得ない話なのだろう。
だが別に受付嬢が納得しようがしまいが、オレには関係の無いことだ。
「依頼対象となる冒険者にはいくつか指定したい条件があります。中堅クラスで標準的なパーティ編成の方々にお願いしたいんですが」
「それは……はい、かまいませんが」
「では明日、昼四つの鐘が鳴る頃に来ますので。ああ、報酬や依頼条件はこちらに書いておきました」
「は、はい。承知しました……」
先ほど手持ちぶさたな時間の間に作成しておいた依頼書を手渡し、オレは冒険者ギルドを後にした。




