#5
昼飯を喰い終えたオレはナタリーの件と午後からの業務をコーディリアに任せ、再び街へ出た。行き先は……そう、マードック商会だ。
オレが姿を見せたことに気付いた番頭がそっと近づいてくる。
「ヤクザ様、ようこそいらっしゃいました。会頭は本日商談で出かけておりまして……」
「いえ、今日は会頭に用事があるのではなく、こちらで扱っている品を見せて戴こうと思いましてね」
「おや、さようでございますか。何かお入り用な品でも?」
「魔導具の類いですね。大店でどのような品を扱われているか拝見しても?」
「もちろんでございます。ご自由に見て戴いて結構ですので、もし説明が必要でしたらいつでもお声がけください」
そう言うと番頭はオレの元を離れた。
安っぽい店なら店員がうろうろと後を付いてきてあれこれ口出ししてくるものだが、さすが大店だけあって無粋な営業は行わないということだろう。
そんな事を思いながら、オレは店内に展示された魔導具の数々に目を向ける。
魔法の武器や防具。
護符の類い。
以前オレがマードック商会に売り渡したライターに似た、着火用魔導具。
価格はいずれも金貨数十枚から数百枚で、灰鹿亭の借金騒動が金貨750枚という金額だった事を考えると、一般人が全財産をかき集めてもおいそれと手が出るものではないようだ。
何故か同じような機能を持つ品々の外見が統一されていないのは、量産品ではないということか?
一瞬、デザイン重視なのかとも思ったが……衣服すらまともなものが存在しない世界で、それは無いと考えを改めた。
そしてさらに気になったのは見た目の豊富さとは裏腹に機能別で見た場合、魔導具の種類が思ったよりも少ないということだが……。
「失礼、少し教えていただきたい事が」
「はい、なんでございましょうか」
「ここに陳列されているもので全てですか?他に何か変わった効果をもつ魔導具などは……」
「当店が店頭で取り扱っているものは概ねここに置かれている品がほとんどですね。あとは……会頭が直接ご領主様や他領の貴族の方々と取り引きされる珍品の類いもございますが、数は多くありません」
「つまり、魔導具というのはそもそも種類が多くないと?」
「いえ、そういう訳でもないのですが……」
そう言うと番頭は、陳列されているものが基本的にはダンジョンから発見された魔導具で、発見される魔導具自体はかなり多種多様な品が存在するのだと教えてくれた。
ただマードック商会のような大店であっても、発見された魔導具を全て買い上げることは在庫管理上難しく、必然的に買い取りを行うのは着火具のような判りやすい効果を持つ売れ筋商品や、武器防具の類いに限定しているのだと。
つまり換金性の高い流動資産のみが取り扱われ、不良在庫化しやすい品は取り扱っていないということか。
なら、大店の買い取りから漏れた品々はどこへ消える?
中小の商店や市場では魔導具が取り扱われていた気配は無かったが……。
「では、その他の品は?」
「冒険者が言うには、買い取り対象以外の魔導具は現地に放置しているそうです。もっとも、翌日には消滅しているそうですから、ダンジョンに還元されているのだとは思いますが」
「……還元?」
「はい。ダンジョンではその内部で魔物や宝物が自然発生的に生成されるのです。魔道士達は放置された魔導具や魔物、そして死亡した冒険者の亡骸などがその素材になっていると考えているようですが……」
富を生成するダンジョンに、その餌となる冒険者達、か。
一攫千金を夢見た連中が、富の原材料としてリサイクルされるというのは皮肉な話だが……。
いや、それよりもオレがここへ来たのは確認したいことがあったからだ。
「ところで人間鑑定が行える魔導具はありませんかね?」
「ございますよ。ただ冒険者ギルドや神殿で使われるものですから、店頭ではなく奥の在庫になりますが」
「と言うことは在庫が?」
「はい。たしか3種ほどあったかと。ご覧になられますか?」
「ええ、是非」
今日、オレがマードック商会へ来た理由は流通している魔導具の種類や相場感を確認することと、人間鑑定の魔導具の有無と、存在するのであればどの程度対象の能力を見極められるかを確認するためだ。
最悪の場合、人間鑑定は魔法に頼ることも考えてはいたが、もしそうなれば与信を含むスキームが属人的な運用になってしまう。
だが魔導具で人間鑑定を行えるのであれば、オレが考えている仕組みのは随分と汎用性が高くなる。
問題は……人間鑑定が、どのように、何を見せてくれるのか、だが……。
「ヤクザ様、こちらでございます」
「眼鏡型に板型、それに……鏡ですか」
「はい。いずれも人間鑑定が可能ですが、精度に差がございます。眼鏡型のものは簡易鑑定のみしか行えず、対象者の職業や習熟度のみ確認可能でございます」
「板状のものは?」
「こちらは一般的な人間鑑定の魔法と同じ精度でございます。眼鏡型のものに加えて保持している能力や技能を確認出来ますので、冒険者ギルドや商業ギルドでも能力判断を行う際にこれを使っております」
となるとコーディリアが融資の判断に使っている魔法を魔導具で代替するならタブレット型で事足りる訳か。なら、最後の鏡型は……。
「こちらは神殿で使用されている、詳細鑑定用でございます。その者の持つ眠った才能をも示すと言われております」
「眠った才能、ですか?」
「ええ。その者の適職を判定する際や転職の見極め、あるいは勇者を見出す際にも用いられると聞いております」
番頭の言葉は、この鏡形であれば単なる与信とは異なる判定が可能になると言っているように思えた。
オレは内心の興奮を隠し、それぞれの魔導具の価格を確認する。
「眼鏡型ですと金貨70枚。板型ですと金貨430枚。鏡形ですと金貨5000枚ほどになります」
「鏡形はともかくとして、他の者は随分と安いのですね?」
オレが店頭に置かれていた品々の値段を比較しながらそう言うと、番頭は苦笑して言った。
「ええ。この魔導具は人間やエルフ、ドワーフ等にしか効果がございませんから。もし魔物の強さを知ることが出来るのであれば、冒険者の方々の需要が大きくなり、もっと価格は高くなるのでしょうが……」
「では鏡形がお高いのは?」
「そこは……まぁ、これをお求めになるような神殿は資金が潤沢ですので」
「なるほど」
つまり、ニッチな効果を持つアイテムであるため基本的に市場価値は低く、多少高値をふっかけても文句を言わずに支払う神殿相手には暴利を貪っているということか。
「試してみることは出来ますか?」
「ええ、もちろん。どれを使われますか?」
「一通り見てみたいのですが、まずはその鏡形を」
「畏まりました。ではこちらへお立ち戴いて……。そう、鏡に軽く手を触れて」
番頭の指示に従い、鏡に手を触れると、そこに文字が浮かび上がった。
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名前:ヤクザ(副島 奏)
クラス:勇者/ヤクザ
レベル:5(上限:20)
HP 56/56(上限:999)
MP 10/10(上限:100)
【筋 力/STR】10(上限:18)
【敏捷力/DEX】11(上限:18)
【耐久力/CON】11(上限:18)
【知 力/INT】17(上限:18)
【判断力/WIS】15(上限:18)
【魅 力/CHR】11(上限:18)
特殊能力
話術 L7(上限:9)
挑発 L5(上限:9)
商才 L5(上限:9)
指揮 L2(上限:5)
【チート】コンティニュー:残り回数 4
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……なんだ、これは……?
この世界へ来てから一度も名乗った事のないオレの本名が表示されているところを見れば、この鏡が行った人間鑑定がでまかせではないことは判るが……。
言うに事欠いてオレが勇者だと?
一体なんの冗談だ。
それにそもそも勇者とヤクザは併記されるものじゃないだろう。
上限値については他の人間と比較してみないと判らないが、問題は特殊能力の末尾に記されている項目だ。
チート。
コンティニュー。
残り回数。
意味がわからない。
「ゲームじゃないんだぞ……」
思わずそんな言葉が口から漏れる。
オレの言葉に鑑定が終わったと思ったのか、律儀に後ろを向いていた番頭が声を掛けてきた。
「如何でしたかな?」
「上限というのはどの程度のものなんですかね?」
「そうですね……熟練度でしたら一般人は3、能力のあるもので5が上限といったところでしょうか。英雄と呼ばれる者の中には10に到達するものもいるようですが」
……なら、オレの上限20というのは規格外ということか?
「能力や技能はどうですか?」
「能力は上限というものはなく、大抵は10だと聞いております。技能も3を越えると熟練者、5だと達人だと評せられるでしょうね」
「……なるほど。ではチートというのは?」
「ちーと……ですか?はて、不勉強で申し訳ございません。それは初耳ですが……」
番頭は戸惑ったようにそう言う。
つまり人間鑑定の結果、表示されていたオレの能力はこの世界の人間と比較すると異常な資質であるということか。
理由は想像が付く。
それは……オレが異世界からここへ転移してきた異物だということだ。
あの女神に似た存在が、オレに何か余計な手を加えたに違いない。
女神のことを考えたオレの脳裏に、微かに蘇る言葉。
それはこの世界へ飛ばされた際に聞いた、女神の言葉だ。
『--己の成したいことを成しなさい』
悪いな、名も知らぬ女神様よ。
例え口約束でも契約は契約だ。
アンタが言ったように、オレはオレのしたいことをさせて貰う。
もし、オレが勇者なのだとしても、オレには世界や人類を救う気も義理もない。
オレは、オレが思うように、自由気ままに生きていく。
勇者やチートという不確定要素を抱えたオレだが、自分のの能力については基本的にどうでもいい話だ。
理由は極めて簡単で、あくまでオレは与信する側であって与信される側ではないからだ。
つまりオレの能力を誰かに開示する必要がない以上、どのような能力が表示されようがオレがすべきことは同じだということだ。
この人間鑑定をオレが金融業に……そしてその先の事業にどう活かすか。
人の素質を映し出す鏡を、どうビジネススキームへ落とし込むか。
それ以外のことはカネにもならない些事でしかない。
オレはそう結論づけた。




