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#12

「それで、リストとやらはどうなった?さっさと総額を見せてくれ」


 開口一番、ウスラーはそう言った。

 随分とせっかちなことだと思いながら、オレはリストを提示する。


「……なんだ、これは」

「お約束のリストですよ」

「魔導教本と……ゴミのような雑貨じゃないか……。全部足しても金貨112枚だと……?これっぽっちのために態々商業ギルドまで呼び出したというのか?」

「なに、手続き上の確認のためですよ。それで、金額は如何ですか?」

「馬鹿にしてるのか?」

「まさか。それで、鑑定は行われますか?」

「魔導教本はこちらでも確認している。宿にあるような雑貨類を一々鑑定するのも馬鹿らしい。さっさと支払い契約書を――」


 請求された額が予想より遙かに少なかった事で余裕を取り戻したのか、苛立った様子でそう言うウスラー。

 だがオレは無言で手を上げ、奴を黙らせる。


「ウスラーさん、契約の前に書面はよく見た方がいいですよ」

「何?」

「そのリスト、裏表になってましてね」

「ちっ……下らん真似を……」


 リストの金額に合計が印されていない時点で続きがあることを察するべきだが、どうやらウスラーはオレが指摘するまで裏面があることに気付かなかったようだ。

 うんざりした様子でリストをめくったウスラーは、そこにオレが記した一行を目にすると、硬直した。


「なん……だ……これは」

「見ての通り、損害賠償請求する物品のリストですよ」

「馬鹿なことを言うな!き、金貨10万枚相当の品だと!」


 そう。そこにオレが記しておいたのは、宿で消失したオレのスマホに関する請求項目だった。


「だいたい、なんだこのスマホというモノは!こんなもの、見たことも聞いたこともないぞ!」

「ならご覧に入れますよ。これです」


 そう言うとオレは傍らに置いていた木箱を開き、中に収めていたスマホをウスラーに示して見せた。


 炎に焼かれたスマホの画面は熱で歪み、表面のガラスは無数のひびに白く濁っていた。

 内部で膨張したバッテリーに押し広げられたのか、筐体の側面はぱっくりと開き、焼け焦げた内部部品が隙間から覗いている。


 一目見してこれは使い物にならないことは……例えスマホというものを知らないウスラーであっても見て取れることだろう。


「……確かに焼けてはいるが……。だが、こんなものが金貨10万枚もする訳がないだろう!」

「おや、どうしてそう言いきれるんですか?これはそちらの知らないものなのでしょう?なら、想像も付かない高値の品だとしても不思議はない」

「馬鹿なことを言うな!おい、鑑定人を呼べ!適当な職員ではなく、俺が認める目利きを呼べ!」


 俺の言葉にウスラーは控えていた商業ギルドの女性職員に怒鳴るようにそう言った。

 だが、さすがにその職員もプロだ。表情一つ変えずに、軽く一礼するとゆっくりと部屋を出て行った。

 そう言えば今の女、杖を突いていたか?オレが見送った職員のことを不審に思っていると、ウスラーがオレを睨みつけながら言った。


「……おかしな取り引きを持ちかけてくる以上、何か仕込んでくるだろうとは思っていたが……こんな底の浅い詐欺だったとはな」

「心外ですね。俺は誠実な取り引きしか行っていませんよ」

「ふん。そんな戯れ言を言っていられるのも今のうちだ」


 ウスラーは勝ち誇ってそう言う。

 と、その時、ドアがノックされた。


「入れ!さっさと鑑定して、この詐欺師に――」


 ウスラーはそう言いかけた途中で言葉を切ると、入室してきた人物の顔を見て目を瞬かせている。


「何やら貴重な品の目利きが必要と聞きましてな。儂が目利きさせていただこうかと」


 白々しくそう言ってのけたのはでっぷりと太った老人。いうまでもなく……オレが手配していたマードック商会の会頭だ。


「マードック商会の……?どうして、あんたのような大店が……」

「何、丁度野暮用で商業ギルドにいたまでですよ。高価な品の取り引きがあると聞き、是非拝見させていただこうかと思いましてな」


 オレは別に他人を装って欲しいとまでは頼んでいないのだが、どうやらアドリブでオレとは他人同士という体で話を進めるつもりらしい。

 随分と喰えない爺だ。

 なら、オレも会頭の芝居に乗ることにしよう。


「おや、お知り合いですか?」

「マードック商会はこのラーゼンでも一、二をを争う大店だ。そしてマジックアイテムの査定で会頭の右に出るものはいない。つまり、お前が企んだ詐欺はおしまいだということだ」

「詐欺ですと?それはよろしくありませんな……。判りました。では儂が微力ながら査定にご協力させていただきましょうかな。それで、何を見れば良いのですかな?」

「会頭、こちらです。この男が難癖を付けてこのガラクタを高額で賠償しろと……」


 ウスラーはそう言うと箱に入ったスマホを示してみせる。

 おそらく、ウスラーは会頭がその品を無価値なゴミだと即断することを期待していたのだろう。

 だが、実際は違った。


「……なっ!?」


 会頭は、焼け焦げたスマホを見て、絶句した。

 ……おそらく、これは芝居でもなんでもない。

 なぜなら、会頭はこれがオレの持っていたスマホであることを知っているし、金貨10万枚という査定を行ったのも彼自身なのだから。


「マードック殿、どうかされましたか?ああ、あまりにも酷い詐欺に驚かれましたか」

「……これは、どういうことですかな?」


 会頭はウスラーの言葉を無視すると、オレの方に向かってそう声を掛けてきた。

 どうやら芝居を忘れて本気になっているようだ。

 オレはわざとらしく肩をすくめてから極力気楽な様子を装って会頭に応えた。


「見ての通りですよ。火事で燃えてしまいましてね」

「なんと……金貨10万枚相当の秘宝が……!」

「……え?」


 押し殺したような声でそう言った会頭の言葉には怒りとも絶望とも言える負の感情が潜んでいるように思えた。

 そして、事情のわからないウスラーは、ただ困惑の表情を浮かべることしかできない。


「会頭、申し訳ありませんが査定結果を教えていただけませんかね。火災の賠償請求に正確な査定額が必要なもので」

「……よろしい。これはスマホなる魔導具じゃ。この小さな板を使って映像や音声を自在に記録し、再生することができる国宝級のアーティファクトで、値を付けることは難しいが……最低でも金貨10万枚は下らぬ。むしろ王家に献上することで爵位を賜れる程の、唯一無二の品じゃ」

「……正確には、唯一無二の品だった……ですがね」


 会頭の査定と、オレの言葉にウスラーの顔面が蒼白になる。

 つまりオレがリストに記載した金貨10万枚の損害賠償金額はハッタリでも詐欺でもなく、マードック商会お墨付きの正当な査定金額だという事実が理解できたのだろう。


「馬鹿な……どうしてそんなモノが……」

「オレが何を持っていたとしても、その理由を開示する必要性は無いと思いますがね。そもそも契約書にはそんな条項は存在していませんよ」

「だ、だが、金貨10万枚など払えるはずが……あっ!」


 どうやらウスラーは気が付いたようだ。

 オレが昨日契約書に追加させた、付帯事項について。


『甲に支払い能力が無いと見なされた場合、現金以外のその他資産での支払いを行う義務を負うこととする』


 この一文が記載された損害賠償契約が締結されている以上、ウスラーに逃げ道は無いということに。


「ではウスラーさん。賠償金額は金貨10万と112枚になりますが、ご確認いただけましたか?」

「こ、こんな事は……あり得ない、契約違反だ!」

「おや、契約書のどこに違反があると?そもそもこの契約書は貴方が作成されたものでしょう」

「だが、こんな金額は法外だ!聞いてないぞ!」

「……そうですか。……ところで会頭、一つ教えていただきたいことがあるのですが?」


 マードック会頭には今回の事情を全て伝えていた訳ではない。

 だからこそ彼は焼けたスマホを見て絶句していた訳だが……オレとウスラーの会話である程度事情を察したのか、ここまでのところは黙って事の成り行きを見守っていた。

 そしてオレが声を掛けたことで、興味深そうな表情を浮かべる。


「儂に応えられることであれば。ああ、このスマホを修復する方法は儂にも判りませぬぞ。ここまで壊れた魔導具を修復するぐらいなら、一から作った方が早いでしょうからな」

「いえ、そういった話ではなく、この国の法律についてです。この国では放火犯はどのような量刑になるのですか?」

「……!」


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