Episode 6 秋人視点①
「母ちゃんが転勤するっていう理由で富山から新潟まで引っ越してきたけど、新潟もいいところだな!」
俺は自転車を漕ぎながら、誰に聞かれるでもなく呟いた。
今日が初めての登校日、何とか成功させないとな……。
そんなことを考えながら、俺は慣れない新潟の道を全力で飛ばしていた。
「うお――――――!」
気合を入れ直してペダルを踏み込む、と、その時だった。
角を曲がった視界の先に、一人の女子生徒が歩いている姿が見えた。
誰もいなかったから油断してた、危ない。
必死にブレーキを握る。嫌な音が鳴り響いた。
「危ない!」
叫んだ瞬間、その子がゆっくりと振り返った。
――その時の光景を、俺は一生忘れないと思う。
驚いたのか、それとも冷静なのか分からない、透き通った瞳だった。
おお……めっちゃ綺麗な人がいた。素直にそう思った。
衝突まであとわずか。心臓がバクバク鳴っているのがわかった。
止まれ、俺の自転車! せっかくの転校初日に、こんな美少女を病院送りにしたら、俺の人生は終わりだぞ!
けど、その子は怯える様子もなく、まるでダンスでも踊るみたいな軽やかさで、左へ2ステップ踏み俺の突進をかわした。
あ、危ねぇ……。あ、謝らないとな。
「ごめん! 大丈夫?」
その子はこっちをみて会釈だけして、手元のストップウォッチの様な物を押して走りさっていった。
「……何だったんだ、今の子」
呆然と立ち尽くす俺。
なんだろう、今までに感じたことないこの感覚。
……あの子、名前なんていうんだろう。
「やべっ、固まってる場合じゃない 、職員室に7時35分までには来いって言われてるんだ。やべえ!」
俺は慌ててペダルを漕ぎ出した、だが頭の中はさっきの子の事を考えていた。
また会えるといいな。
漕ぎ進めていると、校門が見えてきた。そこには誰かと話しているさっきの子の姿があった。
俺はその子の隣に自転車を止める。
「おはようございます……!」
「おはようね、そんなに急いでどうしたの?」
もしも学年が違った場合、会える機会はもうあまりないかもしれない、それにさっきの事も謝りたい。連絡先を聞いておくか……絶対後悔したくない。
「あの! 連絡先教えてくれませんか!?」
俺がそう言うと、その子の顔色がどんどん悪くなっていった。
俺、選択間違えた……?
と、とりあえずなんか言わないとな。
「急でごめん! さっきの事後でちゃんと謝りたくて、だから連絡先を教えてほしいんだ、あれがもし当たっていたら君は骨折してたかもしれないし、本当にごめん!」
その子は特に何も言うことはなく、何かを考えていることだけは伝わって来た。
そんなことを考えていると、先程までその子と話していた年配の人が口を開いた。
「あら、そろそろ門を開ける時間だわ、ちょっとごめんね」
「あ、お願いします」
ガチャっと門のロックを解除する音が聞こえ、ゆっくりと門が開いた。
「どうぞ中に入っていいわよ」
あの人、用務員さんだったのか。
「ありがとうございます」
その子はお礼をいって、すぐ昇降口に行ってしまった。俺はこの自転車を駐車しないといけないので自転車置き場まで直行した。
俺は待ち合わせ時間にギリギリ間に合った。職員室に入ると、担任の先生の席に案内された。
「あ、秋人君、私担任の岡崎です。これからよろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
「私の教科担当は英語コミュニケーション、その時間とホームルームと特別な行事の時は私が付いてるかんじだからね」
「はい!」
体育ではないと思ったけど、英語喋れるんだな、普通に凄い。
「校内、回ってみよっか、一度来たことはあるだろうけど、あまり回ってないでしょう?」
「はい! お願いします」
一通り学校の中を回ると、朝のホームルームの時間に迫っていた。
「後5分くらいでホームルームだな、先生はもう教室にいくから、秋人君は朝のチャイムが鳴るまで職員室で待ってね、鳴ったら2階に上がってすぐ右に1年3組があるからドアのあたりに待ってね。俺が呼ぶから」
「わかりました」
ついに新しいクラスか、ちょっとドキドキもするけど、ワクワクの方が強いな、もしもあの子が同じクラスだったらもうこれ運命だろ。
職員室の客用の椅子で待っていると、「キーンコーンカーンコーン」と音が鳴り響いた。
鳴った、そろそろ行くか。
俺は立ち上がり、「失礼しました」といい、職員室を出る。
急ぎ足で階段を1つ上がって、右に曲がると、1年3組と書いてある教室を見つけた。教室の中からかすかに岡崎先生の喋り声が聞こえる。
「えー、今日は皆さんに嬉しいお知らせがあります! うちのクラスになんと転校生がやってきます!」
俺の事だな、これ。
すると教室内がざわつき出した。「誰だろう?」「女子!?」「イケメン?」「かわいい子こいっ!」など聞こえてきた。女子じゃなくて悪かったな。
「じゃあ入ってきてください、みんな盛大な拍手を!」
パチパチパチと拍手をする音が聞こえてきた、これは言っていいやつだよな? もう入るぞ。
俺は教室のドアを開け、先生の隣に立つ。
俺は周りを見渡す、あの子がいるかどうかの確認を……って、いたぞ!
――完全に目が合った。
「よし、自己紹介してくれるかな?」
そういわれて我に返った俺は、さっき考えた挨拶をすることにした。
「あ、はい! 親の事情で富山県から来ました、福田秋人といいます! これからよろしくお願いします……。あと、さっき可愛い子こいっていってた奴、聞こえてるからな! 男子で悪かったな!」
そう放った瞬間、教室中が笑いに包まれた、良かった、受けてくれた。
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