Episode3
8時45分00秒、一時間目のチャイムが鳴った。
秋人の席は私の後ろの席になった、前から後ろの席が空いているのは知っていたのでこうなることは何となく予想してたけど絡まれることは確定なのでどうにかしないといけないな。
「はいじゃあ英語コミュニケーションの教科書出してください」
因みに担任の先生の教科担当は英語、見た目からは想像が出来ないけど、かなり優秀な先生だ。
「先生! 教科書ないです!」
「ああそうか、まだ教科書届いてなかったのか、じゃあ前にいる野上、見せてあげて」
ん? あ、そうか、隣がそもそもいないのか、いやなんで私なんだ? 青柳でもいいのに。
「先生、青柳さんでもいいですよね?」
すると青柳が「?」顔でこっちを見てきた。
「いや、面識あるみたいだし、そっちの方がいいかなと思ったんだけど」
青柳がすっとこちらに寄ってきて小声で呟く。
「私教科書に落書き描いてあるから見せたくないな……ごめんね?」
教科書に落書き描くなよ。
「わ、わかりました、後ろ行きます」
「頼んだぞー、たぶん他の教科も届いてないと思うからずっと今日はその席でよろしく」
え……? ああ、こんなことになるなら家で愛子見てればよかった。
私は絶望を感じながら教科書と筆記用具を持って、秋人の隣の席に座った。
「野上さん、よろしく」
「まあ……よろしく」
「本当ごめんだけど、教科書見えずらいからもう少し近づいてくれない?」
ですよネ知ってました。
私は椅子を秋人に近づけて教科書を秋人の見やすい位置に移動した。
「さんきゅ!」
「はいそれでは授業進めていきます」
9時35分00秒、一時間目が終わり10分間の休み時間になった。
私はカバンからスマホを取り出して愛子の連絡先を開き生存確認メールを送った。
野上智乃「生存確認、生きていますか? 生きてたらスタンプください」送信っと。
送った瞬間すぐ既読が付いた、うさぎのニコニコ表情のスタンプが送られてきた。
よかった、愛子は無事だ。私も何か返さないと。
「あの! 野上さん、少し話したいんだけど……?」
うーん、とりあえず同じスタンプ返しとこう、送信っと。
「え、無視?」
横から聞き捨てならない言葉が聞こえたので振り返ってみると、真剣な顔でこちらを見ている秋人の姿があった。
これから10分休憩のうちにやることがあるのに、どうしょうか。とりあえず謝ろうか。
「すいません、ちょっとやることがあるので、失礼します」
私は素早く立ち上がり、早歩きで教室を後にした。
「え!? いやちょっと待ってよ!」
――女子トイレに入ってしまえば秋人は入ってこれない、勝利だ。これでルーティンを実行できる。
私は個室の鍵を閉め、便座の蓋を閉じてその上に腰を下ろした。
9時37分30秒。私は目を閉じ、4・4・8呼吸法をスタートした。
福田秋人、私はもうとっくに許しているのになんであんなにくるんだろうか、怪我があったとかならまだわかるけど無傷だしな。わからないな。
9時43分30秒、私は個室のドアを開け、洗面台の鏡で自分の顔を見つめた。
(一目惚れする顔ではないはず……うん)
私は冷たい水で手を洗い、女子トイレを後にした。
9時44分、教室に入る、私は自分の席に移動し座る。秋人は……読書をしていた。
読書とかするタイプだったんだ、意外だ。
彼が持っていたのは、使い古された文庫本の様に見えた。
私は、彼の背中越しにその本のタイトルを盗み見ようとしたが……止めた。
私には知らなくていいことだ、深入りは不要だ。
――キーンコーンカーンコーン。
9時45分00秒。2時間目の授業開始の合図が鳴り響いた。
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