第18話【アー写】
DAYBREAK
東京発、ロックラシックガールズバンド。
Band Members
花葉金糸雀(Vo.Ba.)、暁乃乙女(Gt.Vo.)、寄辺数(Vn.)、ザハラ日花(Dr.)
「──よし!これでOKですわ!」
携帯を見ながら、金糸雀は頷いた。
公園での練習を終え、この4人でバンドを続けていくことを決めた金糸雀は、バンド活動の本格始動に向けて、まずやらなければならないことを順に片付けようとしていた。
「どれどれ……」
数は自分の携帯でTwitterを開き、ユーザー検索で『DAYBREAK』と入力。上の方に、今しがた金糸雀が作成したアカウントが上がってきた。
「アカウントは出来たね」
「でも初期アイコンですよ」
数の言葉に反応する乙女。
「ええ。乙女の言う通り。わたくしたちに必要なもの、それはアー写ですわ!」
「アー写……」
アーティスト写真。バンドメンバーを、なんかこう、いい感じに撮るアレだ。
「……どんな感じがいいかしら」
乙女は、このバンドのアー写をイメージしてみる。まずは、ボーカルの金糸雀はど真ん中で決まりだろう。そして、自分はその隣がいい。できればくっついたりしたい。
「……って、煩悩まみれじゃない……」
乙女は頭を振って欲望を振り払った。
「とりあえず、わたくしたちらしい写真が撮れればわたくしは満足ですわ。スタンドならありますし、今ここで撮ってしまいましょうか」
「了解」
金糸雀は三脚を立て、携帯を固定。少し下からの画角で、よく晴れた空が一緒に写るようにする。
「ビデオ録画にして、後でいい感じのところを切り取る、これでいきますわよ」
「なるほど」
カメラマン不在の中でのアー写撮影。金糸雀は録画開始のボタンをタップし、カメラの先へ移動。
「内カメラだと画質が落ちるので」
「まあ、いいんじゃないかしら。リーダーは貴女よ。好きに指示して」
「ふふっ、では乙女がわたくしの左に来てくださる?」
「ええ」
乙女は内心ガッツポーズをとった。
「かな、私は──」
「──寄辺先輩が右。日花はその右ですわ」
「ぁえ………」
日花は少し不貞腐れながらも、金糸雀の指示に従った。
そして、金糸雀は頭を乙女の方に傾けた。
──サラサラの金髪が、乙女の頬に触れた。
「……!!?」
物凄くいい匂いがして心臓が跳ねる。
そして追い打ちをかけるように、ふと、先日の夜、銭湯の湯の中で金糸雀に抱きしめられた時のことを思い出した。柔らかい生肌の感触を、体が覚えている。
思わず顔もひきつる。
触れたい衝動と、跳ね除けたい衝動。真逆の想いで頭がこんがらがってショートしそうになる。
早く終わって欲しかった。心臓が持たない。
乙女は死にそうな声で金糸雀に呼びかける。
「……こ、このくらいで……」
「……そうですわね。このくらいでいいでしょう」
「はぁぁぁ……」
少しは慣れたと思っていたが、甘かった。
乙女は自分の慢心を悔いる。
そもそも、つい先程に自分で決めたはずだ。
金糸雀を日花には……否、他の誰にも渡さない、と。
自分から触れる勇気もなければ、向こうから寄って来られた時に受け入れる度胸もない。
今は金糸雀の関心を引けているだけに過ぎないのだと思う。
日花の行いが金糸雀を怒らせているのも、そのうち時効になる。
その時、金糸雀の隣に日花がいたら──。
「──乙女?」
「はっ!?」
乙女は金糸雀に名前を呼ばれて我に帰った。
「ぼーっとしていましたわよ。大丈夫ですの?」
「え?ええ……大丈夫」
乙女は答えた。目を合わせるとまた心臓がうるさくなると思って、目を逸らして。
「……無理はしないでくださいね」
「無理じゃないわよ……」
乙女は「人の気も知らないで」とボソリと呟いた。
「乙女、何が言いました?」
「なっ、何も……」
乙女はそっぽを向いて誤魔化した。
「……乙女も見ます?DAYBREAKのアカウント、いい感じに仕上がりましたわよ」
「え、ええ……」
金糸雀はまた、そっと乙女に身を寄せ、携帯の画面を見せてきた。
「……」
バクバクとなる心臓のやかましさが金糸雀にバレませんようにと天に祈りながら、乙女は画面を見た。
アイコンに設定されたアー写はといえば、右から、なんというか頑張って無表情を貫こうとしている赤面した黒髪少女と、そんな黒髪少女の心臓を破壊する勢いで寄り添いに来た太陽のように眩しい金髪美少女と、困り顔が似合う紺色髪の少女と、機嫌が悪そうな白髪の少女が並んだ写真。少し下から見上げる構図で、晴れた空が背景になっている。
トップ画像はいつの間に撮っていたのか、演奏中のワンシーンだった。
「まあ、アイコンはちゃんとアー写っぽいし、ちゃんとバンド垢っぽくなってると思うわよ」
「よかったですわ。これで完成でよくて?」
「ええ……って、ちょっと待って。私……」
先程見せられた時にはスルーしていたが、概要に書かれた『暁乃乙女(Gt.Vo.)』、の『Vo.』つまりはボーカルの文字に今気がついた。
「私、ボーカルやるの?」
「先程の演奏で乙女、一緒に歌ってくれましたわよね。わたくし、乙女とツインボーカルでやりたいと思いましたの」
「……まあ、別に嫌じゃないけど」
「では決まりですわね。乙女はサブボーカルも担当」
本当にいいのかとも思うが、金糸雀がそれを求めてくれたのならやるしかないと思った。
……To be continued




