第17話【こんなやつ】
「……えっと、ありがとう」
乙女は、とりあえず日花から携帯アンプを受け取った。
しかしながら乙女に限らずこの場の日花以外の3人全員が、日花がここに来たことに対して驚いている。
誘っていないどころか、金糸雀に抜けてとまで言われてしまった日花が、なぜここに。
「日花……」
金糸雀はただ日花を見て呆然としていた。
日花はそんな金糸雀に向かい、話し始める。
「……もう暁乃さんがどうとか言わない。……から、バンド一緒にやらせて。かなと離れるのは嫌」
「……」
金糸雀は乙女に視線を送った。
「……なんで私。別にいいんじゃないかしら。寄辺先輩もいいですよね?」
「え?まあ。仲良くできるんだよね?」
数もそう言い、メンバーの意見を得た金糸雀は日花に向き直る。
「……乙女を二度と傷付けないと約束してくださる?」
「……する。かなと一緒にいるためならなんでもする」
日花はそう言うと、両手で金糸雀の手を取って握った。
金糸雀はその手を振りほどきながら、言った。
「……。分かりましたわ。日花、貴女をDAYBREAKのドラムスとして認めます」
「ありがとう、かな!」
金糸雀の言葉を受け取った日花は、金糸雀に抱きついた。
「っ……日花っ何を……」
「──」
──金糸雀から手を離した日花は、首を傾けて乙女の方を見ると大きく目を開けて見下した。
「……ザハラ日花……ッ……」
乙女はその行動の意図を一瞬で理解した。
宣戦布告だ。
彼女の行動が一貫して金糸雀を想ってのことであるならば。
暁乃乙女を攻撃し金糸雀から遠ざけることから、自分が金糸雀に更に近付くことに方向性を変えたのだ。
乙女自身、もう既に理解している。
自分が金糸雀を好きだということを。
──取られたくない。あんな奴に。
乙女の思考回路はそれだけだった。
乙女は携帯アンプとES-335をシールドで繋ぐと電源をオンにし、パワーコードを一発ぶちかました。
熱を伴った厚みのある音が公園に響き渡る。
「……バンド、やりましょ」
乙女は威嚇するように低い声で言い放つ。
「そうですわね!」
金糸雀は明るい声でそれに同意した。
◇◇◇
──日花も電子ドラムをセットし、演奏の準備ができた4人は、現状唯一のオリジナル曲である『Dawn』の演奏を始めることになった。
「……」
──日花がスティックカウントを4回。金糸雀が英語歌詞で歌い始め、乙女は朝の目覚めのようなアルペジオを刻む。そして数のヴァイオリンの音が入り、イントロへ。
乙女は厚みのあるパワーコードの横移動で全体のロックサウンドを牽引。
金糸雀のベースはギターリフに寄り添うような指弾き。低音が確かなグルーヴを産み、バンドの土台を支えている。
数のヴァイオリンはただのクラシックサウンドではない。流麗で高貴なサウンドながら、攻撃的な“ロックのリフ”を刻む。クラシックの優雅さとロックの荒々しさを兼ね備えた情熱的な旋律で、DAYBREAKのバンドサウンドの象徴と成る。
ドラムは高速の8ビート、暴れ散らすようなクラッシュとスネア、キックも重く響く。少しというかかなり走り気味だと乙女は感じていた。
『Dawn』は全体的に疾走感あるいい曲。なのだが、このイントロで乙女は確かに勘づいていた。
──ベースとドラムの息が合わない。
金糸雀が奏でるベースの低音は、どういう訳か日花が刻むビートを無視し乙女のストロークに寄り添ってくれている。
乙女は少しドキドキしながら金糸雀に視線を送る。
金糸雀は乙女と目を合わせると、まるでライブ中のファンサの如く優しい笑顔を送った。
──可愛い。死ぬ程可愛い。
見惚れて演奏に集中できなくなるということはなく、かえってそれは乙女の力に変わっていた。
そして激しいイントロを終え、静かなAメロへ。
エッジの効いた低音を刻む。
金糸雀が歌う英語歌詞の中身は、愛を求める寂しさのようなものだった。
愛を求め、空っぽの笑顔を振り撒き、人を惹き付けても、心から自分を愛してくれる人はおらず、ただ、あの子のそばにいればわたしも凄い、みたいな自己中心的な人ばかりが集まってしまい、そのまま期待に応え続け、壊れそうになっていく。
そんな歌詞。
「────」
そして救いを求める、サビへ。
ヴァイオリンの音色を最後に楽器の演奏が止む一瞬に、金糸雀の綺麗な声だけが響き、4人は目の前の楽器をぶっ放す。
ガンガン加速していく。激しいクラッシュの連打、刃物みたいにシャープなキレのギラつくディストーション。響くギターにメロディを重ねるヴァイオリンと金糸雀のボーカルがエモーショナルを担当。
「────」
──そして思わず、乙女は金糸雀のボーカルに重ねて歌い出した。
「……!」
金糸雀は驚いた顔をしたが、ライブで観客が一緒になって歌うのは普通のことだ。乙女はまさにそれと同じテンションで、金糸雀の声に自分の声を重ね、愛されたい想い、そして愛したい想いを一緒になって吐き出す。
明るく振舞って光を振り撒いても、内側は暗いまま。そんな心に確かな明かりが灯る夜明けを私は待っている。
そんな金糸雀のメッセージを受け取った気になって、サビだけ歌った乙女は2番のAメロのギターを弾きながら決意を固めた。
──ザハラ日花。貴女に金糸雀は渡さない。
サビには行かず間奏。しなやかなヴァイオリンソロを経て、Cメロ。
乙女は数のヴァイオリンとメロディを重ねてラスサビへの導線を引く。
徐々に徐々に、大きく、大きく膨らんでいくテンション。
音量を増すロックとクラシック。乙女と数はチラリと目を合わせる。
金糸雀の一声に続き、それぞれの音を爆発させる。
乙女はギターを激しく弾くのと同時に、金糸雀の声に自分の声を重ねた。
透き通る声が重なり合い、 どこまでもよく通るハーモニーが生まれる“ツインボーカル”。
勢いを増す。音による感情の高まりが鼓動を早め、演奏が走り気味になる。
いつの間にか日花は金糸雀と乙女に合わせてビートを刻んでいた。
疾走感あるロックサウンド、切なさと熱さを併せ持つクラシックサウンド、深い森の中で騒ぐ環境音のように心地の良いツインボーカル。
4人でロックラシックバンド『DAYBREAK』としての音を確立し、金糸雀の声と体の動きに合わせて4人は演奏を締めた。
……To be continued




