第15話【咆哮性の違い】
乙女が金糸雀と一緒に教室に入った時、そんな乙女を凄い形相で睨んできた人物がいた。
ザハラ日花である。
席に座ったまま、教室の入り口を睨んでいた。寄せられた眉間には明確な怒り見えた。が、それに加えて驚いたように目を見開いていた。
「かな…今日は休むんじゃなかったの?」
日花は乙女を無視し、金糸雀に問いかけた。
「休み癖がつくとよくないと思って。…それと。大切なのは逃げることよりも向き合うことですわ」
「……」
金糸雀はそう言い、乙女の方に向き直る。
「もう一度、改めてお願いを。乙女」
「っ……ええ」
乙女は金糸雀に見つめられ、恥ずかしさから目を逸らしそうになるが、彼女に見とれてしまうことでそれを回避した。
「わたくしとバンドをやってください」
金糸雀のお願いは乙女としても大歓迎なお願いだった。
「——」
ノータイムで返事を言おうとする。が――。
「……だめ」
「っ…!」
——日花が口をはさんだ。
「日花…?」
「私はこいつ認めない」
「……」
乙女は視線を金糸雀から床に落とした。
——まあ、そうだろうなとは思う。
日花は幼馴染の金糸雀が傷つくことを嫌がっている。日花にとって金糸雀は大切だろう。そして、乙女自身も自分がまた金糸雀を傷付けてしまう可能性を恐れていた。
「…まあ…そうよね。ごめんなさい花葉さん、私——」
——私には一緒にいる資格がない。そう思って身を引こうとした、その時。
「——じゃあ日花が抜けてくださる?」
「——え……?」
日花は何を言われたのか分からない、理解できていないといった具合に変な顔をしていた。
「リーダーはわたくしですわ。メンバーはわたくしが選びます。私の人選に納得できないのでしたらそれは方向性の違いですわ」
「か……かな……?」
「……日花ですわよね。乙女を陥れるようなことをしたのは」
「い……いや……」
「……では誰が?」
「……」
「……どうしてあんなことをしたんですの?」
「……それは……かなのために……」
「どうして乙女を傷つけることが私のためになるなどと思いましたの?」
「それ……は……」
「……もういい、やめて金糸雀」
「乙女……?」
「別にいいから。私が人に嫌われやすい性格をしてることは私が1番分かっているから」
「でも……」
「いいから。…チャイム鳴るわよ」
◇◇◇
──昼休み。
「なんであんなやつが……ッ」
ザハラ日花は唇を噛み締め、拳を強く握っていた。
金糸雀が乙女の方へと向かっていく光景を、休み時間の度に見せつけられていた。
そして、今この瞬間にも。
「……」
日花は1度深呼吸し、乙女を睨みつけた。
◇◇◇
放課後も、金糸雀は乙女のところへと寄っていった。
「乙女、帰りますわよ」
「え?……ええ……」
特に断る理由もないので、乙女は金糸雀の隣を歩いて帰ることになった。
「乙女。改めてお誘いをさせていただきますわ。わたくしのバンドで、ギターをやってくださりませんか?」
校門を出たところで、乙女は金糸雀から改めてバンドの誘いを受けた。
「やる……やりたいけど、そうね……ザハラさんのことはいいの?」
乙女は即答したい気持ちを抑えて、金糸雀に確認を取ることにした。
「わたくしは貴女を放っておきたくないのです」
「ザハラさんと仲良かったんじゃないの?」
金糸雀から帰ってきた返答があまりにもザハラ日花に冷たくないかと思った乙女は、金糸雀に聞いた。すると金糸雀は数秒無言になったのち、掠れ気味の声で呟いた。
「……仲は……良かったのでしょうか」
「幼馴染なんでしょ?」
「幼馴染です、けど……わたくしはあまりその言葉に強い意味は無いと思っていますの。ただ付き合いの長い人……という感じで」
「……意外と薄情なのね」
「……そうかもしれませんわね」
「……今日は取り巻きいなかったわね」
「そうですわね。……わたくしがこんなのだから」
「はぁ……」
乙女は息を吐き、晴れ渡った空を見上げた。
なんとなく。なんとなくなのだが、花葉金糸雀という人間の一面を分かったような気がした。
そして、乙女の心臓の鼓動は駆け足になり、何かを言おうと思っている喉は、頭が何か言葉を考えるのを待っていた。
しかし言葉は見つからず、何かを発してこの無言の時間を抜け出すための会話のリスタートは、金糸雀に先を越されてしまった。
「で、乙女。わたくしとバンド、やってくださりますか?」
「え……ええ。やる。やるわ」
乙女は答えた。
たとえほかの誰が何をしようと、この世界に花葉金糸雀という存在がいる限り、やらないという選択肢は無いのだ。
「……よかった。うふふっ、それではこれからも。よろしくお願いいたしますわ」
乙女は、差し出された金糸雀の手を取った。
その、春の日差しのような温かい手を、握った。
そしてそのまま歩き出した。
盲目になっていないか。
自分に問いかけようとしたが、それは金糸雀の光に掻き消され、忘れ去られてしまった。
……To be continued




