第13話【夜明けまで】
乙女は金糸雀と横に並んで夜道をゆく。
空は黒いが街灯は元気で、暗いところであっても人影くらいは見える程の明るさがある。
夜中。金糸雀の隣。こんな状況でも、乙女の心は、ほんの少しの冷静さを持ち合わせようとしている。しかしながら、それによって生まれるのはただの背徳感でしかなかった。
「乙女」
乙女は金糸雀に名前を呼ばれて隣を見た。
相も変わらず金糸雀は綺麗で、何故だか夜の光に照らされた彼女の姿はいつもより一層輝いて見える。
夜だから、なんて、あまりにも思い込みが激しすぎるが、なんとなく金糸雀の声の響きすら色っぽく聞こえてしまう。
「…なに」
乙女はボソッと聞き返した。
「お風呂に入りたいですわね」
「えっ…ええ、まあ、そうね」
確かに、風呂には入りたいと思う。
思えば雨に降られて体は冷えていたし、ライブ中には汗をかいたしで、あまり綺麗とは言えない。むしろこんな状態で金糸雀の近くにいることを恥じる。
「…あれ、そういえば…金糸雀、傘を持ってなかったかしら」
「あら、そういえば。…ライブハウスに忘れてきてしまいましたわね」
「ドジ……」
こんな一面が見られるとは意外。乙女的には、ちょっと抜けているところも魅力だなと思う。多分、彼女が何をやらかしても「それも魅力」と許してしまうような気がする。
「まあいいですわ。そんなに高い傘でもありませんし。…乙女。私、銭湯というものに行ってみたいのですがよろしくて?」
「え、ええ…。まあ、いいんじゃないかしら」
「ふふっ、では、行きますわよ!」
◇◇◇
「……」
「……?乙女?どうかしましたの?」
「いえ…その…」
暁乃乙女は今、銭湯…戦場にいるといってもいい。
乙女の目の前で、今、金糸雀がその服を脱いでいる。
白い肌。
「やわらかそう。エロい」
ド直球。
「乙女?」
「いや!?何でもないわ!!」
◇◇◇
乙女は、終始その細い体の中心をバクバクと炸裂させていた。
決して、なにかやましい事があるなんてことは無く、ただ単に本当に、金糸雀に見惚れてしまっていたのたった。
金糸雀を恋愛的に好きかもしれないと自覚したことが、この衝動にさらなる補正をかける。
あの白い肌に触ったら、どんな感触なのだろうとか、肌と肌が直接触れたらどんな心地良さを感じられるのだろうとか、いけない衝動をなんとか落ち着ける。
「乙女」
「ひゃい!?」
湯けむりの奥、金糸雀のタオルに隠れた胸もとが果てしなく柔らかそうで、乙女は思わず目を背けながら返事をする。
「いつまでそこにいるつもりですの?」
金糸雀は湯船の前で手招きをしている。
乙女は導かれるように、背中に残った泡を流すと立ち上がった。
「……」
恥ずかしさからか体を変に隠しながら湯船に浸かる。欲望に負けて金糸雀と少し距離を縮めて隣に陣取る。
「温かいですわ…」
「…そうね」
非常に落ち着かない。そう、ドキドキと戦っているとき、追い打ちをかけるように肩に柔らかいものが触れた。金糸雀の髪留めからこぼれた金髪も、肩に触れている。
「……乙女」
「……なによ」
「……こんなことを言われても、困ってしまうかもしれませんが……私……乙女と、もっと仲良くなりたいんですの」
「……それは…私もそう」
「……お互い、不器用ですわね……」
「……そうね」
他に客は少なく、ここは実質、乙女と金糸雀だけの世界だった。
「……乙女」
「なに————」
————何でかは分からない。
金糸雀がこう、スキンシップが激しいというイメージは全くなく、むしろパーソナルスペースがかなり広いタイプの人だと思っていた乙女。しかしながら、今、乙女は、金糸雀に抱きしめられていた。
「??????????」
この一瞬で、のぼせた。
……To be continued




