楽しく歌うこと
練習が終わり、私は帰路にたった
(やっぱり、私はもう歌うなんて無理なのかな)
そんなことをまた考えてしまっていた
タッタッタッタッ
「花奏ちゃ〜ん!」
優しい声の方を振り向くとエルナ先輩が走ってきた
「先輩...」
「この後時間ある?」
「はい、特段用事とかはないので」
「じゃあちょっと付き合ってもらってもいいかな?」
「え?」
私は目を丸くした
「ここは...」
訪れたのはCDショップだった
「ここ、よく来るんだよねぇ品揃えも良くて」
すごく楽しそうに話すエルナ先輩
「そうなんですね」
「ohこれ!私が好きなやつ〜」
そう言って先輩が手に取ったのは、かつて伝説を残したスクールアイドルのCDだった。しかも貴重な初回限定盤
「これ、めちゃくちゃ希少なCDじゃないですか!」
「そうなの〜私、このスクールアイドルに憧れて日本に来たようなものなんだよね」
「え、そうだったんですか」
私は少しばかり驚いた。一体どういうきっかけだったのだろう
「うん、幼い頃ね、少し重めの風邪を引いてしまったことがあって、とても辛かったんだけど、たまたまスクールアイドルのライブをテレビで見たら、すごく元気をもらえてさ。それで私も、こんな人たちみたいにみんなを笑顔にできる歌を届けたいなって思ったんだ」
すごく熱意のある語りに私は聞き入ってしまった
「ちょっと聴いてもいい?」
そう言ってエルナ先輩は、店内の試聴機にCDを入れる
〜♪
スピーカーから、懐かしさを含んだ明るいイントロが流れ出す
「……この曲」
思わず息を呑む
少し切なさを含んだメロディに、胸の奥がきゅっと掴まれる感覚がした
「ふふ、やっぱりいいよね」
エルナ先輩は小さく体を揺らしながら、ほんの少しだけ口ずさんでいた
「〜♪」
「……」
その声はただ“歌が好きな人”の声だった
「ね、花奏ちゃん」
曲が終わり、エルナ先輩が私の方を見る
「……?」
「このまま帰るの、もったいなくない?」
そうして今度はカラオケに連れていかれた
「はい、花奏ちゃんのマイク」
「あ、ありがとうございま...」
マイクを掴もうとした瞬間、手先が無意識に震えて、掴もうにも掴めなかった
「...すみません」
「まあ、無理に歌う必要もないんじゃないかな?歌いたくなったら歌えばいいんだから」
「...」
「私は歌いたいので早速歌っちゃいまーす」
勢いのままエルナ先輩は曲を選択した
〜♪
イントロが流れ、エルナ先輩が歌い始める
ライブの時以上に優しく感じる歌声、その歌声はまるで「一緒に歌おう」そんなことを言っているようだった
「〜♪」
気づけば、歌を口ずさんでいた
自分でも、歌っていると気づかないくらい小さな声で
……あれ?
喉が、苦しくない
息も、詰まらない
胸の奥が少しだけ熱くなった
それに気づかれたのか、私の方を見て先輩がニコッとするのが見えた
「歌えたね」
「…!」
そう言われた瞬間、すごくポカポカした気持ちになった
その感覚がとても幸せで
マイクを手に取り、最後の一フレーズだけ一緒に歌った
「ふふ、楽しかったね」
「あの…」
「ん?」
エルナ先輩が首を傾げる
「……もう一回、いいですか」
「…!!」
「次はもうちょっとだけ、大きな声で」




