後悔しないかな
お風呂から出るとキッチンからいい匂いが漂ってきた
「手伝います」
そう言って私が駆け寄ると、先輩は振り返って笑った
「花奏ちゃんはゆっくりしてていいよ」
「…」
「ほら、座って座って」
軽く背中を押され、私は大人しくテーブルの前に座った
星野先輩は味見係を自称し、つまみ食いをして「うまっ!」と声をあげている。エルナ先輩はその様子を見て楽しそうに笑っていた
テーブルに料理が並ぶ
ハンバーグにサラダ、スープ。どれもお店のように綺麗で思わず目を見張る
「「「「いただきまーす」」」」
四人で手を合わせる
「…!美味しい」
一口食べて思わず声が漏れた
「でしょ?」
朝倉先輩が少し誇らしげに笑う
「本番前なんだから、ちゃんと食べないとね」
その言葉に、胸がチクリとした
…本番まで、あと二日。
楽しい空気の中で、その単語だけが少し重く脳内に響いた
「明日は軽く確認だけにしよ」
星野先輩が言う
「今日は結構動いたからね」
「無理して本番動けなくなったら大変だもんね」
エルナ先輩も共感する
みんな落ち着いていて、穏やかで、どこか余裕すら感じられる
そんな中
(本当にこれで大丈夫なのかな)
そう思ってしまう自分がいる
でも目の前では朝倉先輩が笑っていて
星野先輩が冗談を言って
エルナ先輩がそれに優しく突っ込んでいる
その空気があまりにも温かくて、優しくて
…
「花奏ちゃん?」
名前を呼ばれて、ハッとする
「どうしたの?難しい顔して」
「あ、いえ…なんでもないです」
慌てて首を振ると、みんながクスッと笑う
「大丈夫だよ」
朝倉先輩が自然な声で言う
「ちゃんとできてるから」
その言葉に胸が少しだけ軽くなる
けれど同時に、どこか落ち着かない
楽しいし、嬉しい
でも
このまま本番を迎えてしまって、本当に後悔しないだろうか
笑い声に包まれながら、私は静かにスープを口に運んだ
その暖かさが、ゆっくりと体の奥に染み込んでいく
それでも胸の奥にあった小さな不安は、まだ消えなかった




