op13 おおきな歯車
「デウスエクスマキナ・・・・」
エレノアが頬杖をついてため息をつく。
デウスエクスマキナの前に座って、退屈そうに白い翼を広げていた。
「私もそこまで暇じゃないんだけど」
「魔法少女戦争も終盤だから忙しくてね。はい、終わり」
デウスエクスマキナが指を動かすと、ガタついてた歯車が、滑らかに回りだしていた。
「随分嬉しそうね。歯車遊びは楽しいの?」
「マリアが来てくれたからね。そうそう、花音って言わなきゃ。ちょっと慣れないんだけどね」
「三賢のマリアが? ここは迷い込むような場所じゃないでしょ。強引に連れてきたの?」
「だって、花音を失いたくなかったから」
「・・・・・?」
エレノアが驚いたような表情で、デウスエクスマキナを見る。
デウスエクスマキナが満足そうな顔をした。
「神だって万能じゃない。贔屓する子だっているでしょ? サマエルみたいにね」
「っ・・・・・・」
エレノアが視線を逸らす。
「・・・ねぇ、貴女はリリスの何なの?」
「内緒」
「ふうん・・・ただの、知り合いってだけじゃなさそうね」
「内緒だよ」
デウスエクスマキナが口に指をあてる。
エレノアが不満そうな顔をした。
「ま、いいけど。ただ、お茶呑み友達として、私を呼んだわけじゃないでしょ?」
「そう。エレノアには人間になって、花音の主になってもらいたいの」
「は!? そんなの・・・」
「天使は、自在に人間になれるでしょ?」
デウスエクスマキナがテーブルに肘をつく。
「ミハイルみたいにね」
「・・・・何が目的?」
「私の目的は花音が死なないこと。花音の苦しむ姿を見たくない」
「花音の主はサマエルでしょ?」
エレノアが、ボードに置かれた人形を見つめながら言う。
「魔法少女戦争のルールには、契約神、又は主が同じであれば、どの魔法少女が勝ってもいい、他の魔法少女が"成れ果て"になることはないってある。実際、私が勝ったときも、仲間は"成れ果て"にならなかった」
語気を強める。
「リリスと共闘したほうが、花音のためにもなるんじゃない?」
「・・・エレノアの仲間は、2年も経たずに消えたでしょ?」
「・・・・・!」
「今もまだ、魂が見つからないんだよね?」
デウスエクスマキナが淡々と言う。
「魔法少女は魔法少女戦争で生き残ることができても、魔法少女戦争に関わる者以外、両親、親しい友達、恋人、誰からも看取られることなく、消えちゃうのよね。『ロンギヌスの槍』の加護があっても」
「わ、わかってるよ・・・・」
エレノアが俯いて顔をしかめた。
「魔法少女戦争のルールって実ははっきりしてないの。"成れ果て"への移行の仕組みもわかっていない。ただ、魔法少女は魔法少女になったときから、普通の人間から目視できない霊体になる」
デウスエクスマキナが一つ人形を持ち上げて、指で髪を撫でた。
「今は電子世界にいるから見えているけど、本当は見えない存在。だから、消えることを受け入れられなくて、"成れ果て"になって存在しようとするんじゃないかって思うの」
歯車をぼうっと見つめる。
「事実なの?」
「全部、私の想像だよ」
「もしかして、『黄金の夜明け団』の"成れ果て"もデウスエクスマキナが仕込んだの?」
「歯車の通りに動いただけ。あれだけの穢れを集められたのは、正直びっくりしたけどね」
小さく指を動かす。
「禁忌に触れるって怖いね」
「魔法少女戦争を壊そうとしたの? あの"成れ果て"の黒い薔薇に、何人の魔法少女が取り込まれたか、知ってる?」
「しっかり見てたんだ」
「魔法少女戦争を終わらせたいから・・・見るに決まってるでしょ。これ以上、魔法少女たちに辛い思いをさせたくない。神と契約して、戦わなきゃいけなくなった子も、消えてしまった子も、まだ彷徨う子もみんな・・・助けたい」
エレノアがぎゅっと目をつぶった。
「私にはできなかったから。魔法少女戦争の勝者になっても」
目を潤ませながら言う。
「『死者の楽園』には、エレノアの仲間もいなかった。おそらく、彷徨ってるの。誰にも気づかれず、神にすら見てもらえずにね・・・」
「ひどい話だよね。熾天使でも探せないなんて。真っ先に見つけてあげなきゃいけないのに」
両手を握り締めて、力なく笑っていた。
「でも・・・リリスが勝利しなきゃ、魔法少女戦争は終わらないんでしょ?」
「魔法少女戦争は、ね」
デウスエクスマキナが意味深にほほ笑む。
「どうゆう意味?」
「三賢の花音にも、世界を変える力があるかもしれないよ。言ったでしょ? 魔法少女戦争のルールは、はっきりしていない」
歯車の音が一瞬だけ小さくなる。
「魔法少女戦争の勝者の主が『ロンギヌスの槍』を手に入れることができる・・・これだけがずっと揺るがないルール」
「花音が『ロンギヌスの槍』を手に入れればどうなるの?」
「エレノアの願いが魔法少女の救済なら、願いが叶うんじゃない?」
デウスエクスマキナが人形をボードに置いた。
「花音はね、すごく優しいの。今まで戦ってきた魔法少女や魔法少女戦争に関わってきた子たちをみんな、救いたいんだって」
「みんな・・・・・って今も彷徨ってる"成れ果て"の魔女も・・・?」
エレノアの瞳に光が灯る。
「そう、みんななんだって。花音の場合、曇りもなく心からそう思ってるの。『ロンギヌスの槍』は主と魔法少女の心を見透かす。熾天使エレノアと、願いが重なるでしょ?」
「・・・・・・・」
エレノアが椅子に落ちた一枚の白い羽根を拾う。
「神でもないのに、『ロンギヌスの槍』がそう、導けるの?」
「三賢のマリアならね」
デウスエクスマキナが立ち上がって長い瞬きをする。
「わかった。私も魔法少女たちを救いたい」
でも・・・と続ける。
エレノアが素早く羽根を剣に変えて、デウスエクスマキナに突きつけた。
キィンッ
「その前に聞かせて。デウスエクスマキナ」
「なぁに?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
歯車の音に、2人の会話はかき消えた。
エレノアが剣を消して、デウスエクスマキナから離れる。
「・・・花音と契約を結ぶわ。私にも準備があるから」
エレノアがふわっと飛んで、消えていった。
デウスエクスマキナが力を抜いて、椅子に座る。
「よかった・・・AIルル」
『はい、デウスエクスマキナ様』
AIルルが現れて、ボードの傍にちょこんと座る。
「魔法少女戦争、やっとおおきな歯車を回せたよ。ほら、アレなの」
デウスエクスマキナが遠くを指さす。
『さすがです。デウスエクスマキナ様』
「・・・すごい? もっと褒めて」
『すごいです。デウスエクスマキナ様はすごいです』
「でしょ?」
『はい。デウスエクスマキナ様』
「ありがと、ルル」
AIルルが手を叩いて褒めていた。
デウスエクスマキナ様が満足げに、歯車の動きを眺めていた。




