146 告白
「魔法少女はいないみたいだな」
「あまり、魔法少女とも遭遇しなくなったんだよね」
歌を歌っている魔族を横目に歩いていた。
ちょっとしたライブ会場にも見える。
「昨日、シロナとレベッカがだいぶ遠くまで確認してくれたんだけど、それらしき信号は無かったって。魔法少女戦争も終盤になってきてるのかもね」
「いよいよって感じだな・・・」
「うん、あ、このパン木の実が入ってる。見慣れない木の実だから、魔界のものを再現してたりするのかな?」
リリスが黒っぽい緑色のパンを食べながら言う。
原材料はわからないが、パンの甘い香りがした。
「それ・・・美味しいのか?」
「美味しいよ。食べてみる?」
リリスが少しちぎって、こちらに差し出してきた。
「いいよ。腹壊しそうだし」
「魔界の懐かしい味がするかもよ?」
「魔界にいたときのことなんてほとんど覚えてないからな」
「どうかな? カイトは私に隠し事しようとするから」
冗談っぽく笑った。
「・・・それはお互い様だろ?」
「私は別に隠してないよ」
「嘘が下手だな。無理に探らないから安心しろ」
少し間が開いて、リリスがちぎったパンを口に入れていた。
「・・・・・・」
街はお祭りのように賑わっている。
「ん?」
突然、ゴブリンの集団が正面から走ってきた。
行き交う者たちが、一斉に道を開けた。
ドドドドドド
「わっ・・・」
「っと・・・」
リリスを引っ張った。
前から走ってくる雪男3体を避ける。
「危ないな。しかも、なんか寒い・・・つか、あいつらが通った後、氷が落ちてるんだが・・・・」
「何やってるのかな?」
「知らん。でも、こうゆう意味の分からないことが起こるのが魔界らしいよ」
頭を掻いた。
「電子世界と魔界って、もしかして相性いいのかな?」
「まぁ、SNSもある意味魔界みたいなものだしな」
隣にいた尻尾の生えた者と、角の生えた者がちらちらこちらを見てくる。
「あ、もしかして、サマエル様じゃない?」
「本当だ。失礼します!」
「・・・・」
無言で手を振る。
歩いていると、たまに、深々と頭を下げられた。
面倒だから、フードを深々と被っていた。
「カイトにとっては歩きにくそうだね?」
「ぶっちゃけ、あまり騒がしいところは通りたくないけどな。でも、今日はリリスが主役だ。リリスの好きなところに行こう」
「ありがと。ふふ、デートって楽しいなぁ」
最後の一口を食べて、満足そうにしていた。
「夜になったら花火が上がるみたいだよ。さっき、どこの魔道具の店長に聞いてきた」
「へぇ・・・花火かぁ」
大きな木の下でリリスが待っていた。
「それまでに魔法少女が来たらどうする?」
「全力で逃げるか」
「勝てる戦闘に逃げるなんてもったいないなぁ。私は別に、魔法使ってもいいんだよ?」
「倒すのなんて、明日でも明後日でもいいだろ?」
「・・・まぁね。今回は確実に手ごたえがある。魔法少女アカデミアで、いろんな魔法少女を見てきたけど、私より強い子いなかったんだ。前回、勝ち抜いたファナより全然弱かった」
リリスがベンチに座って足を伸ばした。
「勝てる気がするよ」
「あまり自信ありすぎると、足元すくわれるぞ」
「そうだね。魔法少女が絞られてきた今こそ、ちゃんと気を引き締めなきゃ」
隣に座って、後ろに手をつく。
「ねぇ、カイトは七陣魔導団ゲヘナに来てよかったと思ってる?」
「俺は入るよう決められていたんだろ?」
「・・・・そうだったのかもね」
リリスはおそらく何かを隠している。
ずっと前から、な。
風が吹くと木が大きく揺れていた。
「七陣魔導団ゲヘナはクリフォトの魔神たちがいるしな。遅かれ早かれ、関わることになっていただろ。居心地もいいし、よかったと思ってるよ」
「確かにカイトはモテるし、7人の魔法少女全員、カイトのこと好きみたいだし、楽しいよね」
「ん・・・・?」
リリスが少し頬を膨らませる。
「やきもちか?」
「やきもちだよ」
「今更どうしたんだよ」
サファイヤのような瞳に、俺が映る。
「カイトはみんなのことを考えてくれるけど、私のことは全然考えてくれないし。別にいいけど、私は強いから」
「まだ根に持ってるのか」
「・・・・・ううん・・・」
リリスが視線を逸らす。
「はぁ・・・そもそも俺がリリスを好きなことはわかってるだろ?」
「私がサマエルに願ったから、好きなだけだよ」
「そうじゃないって。好きじゃなきゃ、とっくに契約破棄して、美憂と一緒に脱走してる」
「・・・・・・」
息をついた。
「好きだよ。俺が好きなのは、リリスだけだ」
「そう・・・・・」
「疑うなら何でも言ってやる。好きだ、好きだ、好きだー、リリスが・・・」
「わー、や、やめて、もう恥ずかしいから!」
リリスが顔を赤らめて、手を振った。
「そ・・・そう思い込んでるなら、別にいいけど」
「・・・・俺が『ロンギヌスの槍』の持ち主になって、魔法少女戦争を終わらせるんだろ?」
「うん。絶対に、やり遂げなきゃ。今度こそ、絶対に」
自分に言い聞かせるように話していた。
「あ、デートなのにカイトと話すと魔法少女戦争の話になっちゃうね。違う話にしよ。えーっと、ゲームの話とか・・・」
「リリス」
手を組んで、地面を見つめる。
街の喧騒が一瞬途切れたような気がした。
「魔法少女戦争で俺が『ロンの槍』を手に入れたら、リリスはどうなるんだ?」
「不老不死の呪いは解けて、めでたしめでたしって感じかな」
「リリスは死ぬのか?」
「え・・・・・・」
リリスが驚いたような表情でこちらを見ていた。
「そ、そりゃ、死ぬよ。不老不死じゃなくなるんだから、人はいずれ死ぬものでしょ?」
「終わったら、すぐに死ぬんだろう? 14歳のリリスのまま」
「・・・・どうしてそう思うの?」
「ただの勘だよ」
ひらひらと落ちてきた木の葉を掴む。
「死ぬんだな?」
「怖いなぁ、さすがサマエルだね」
リリスが明るい口調で言う。
「そう、死ぬよ。魔法少女戦争で、カイトが勝って『ロンギヌスの槍』を手に入れれば、私は死ぬの。寿命はとっくに過ぎていて、三賢の呪いだけで生きてきたから」
間を置いて、ほほ笑む。
「魔法が使えなくなって、普通の女の子として死ぬの。でも、嬉しいことなんだよ。やっと、魔法少女戦争から解放される」
「じゃあ、なんで泣くんだ?」
「え・・・・」
瞬きをすると、リリスの瞳から涙がこぼれた。
リリスが慌てて両手で拭った。
「な・・・なんでだろう。魔法少女戦争を終わらせたい気持ちに偽りは無いの。本当だよ、本当に無いんだよ」
「わかってる」
リリスを抱きしめる。
「でも、魔法少女戦争で私たちが勝利すると、もう、メイリアにもマリアにも会えなくなる。サマエルに・・・カイトに会えなくなっちゃう」
「あぁ・・・」
「本音を言うと、少しだけ寂しい。普通の女の子みたいに、カイトと一緒に歳を取って、カイトと大人になってみたい。でも、魔法少女戦争に勝つって意志に、曇りは無いんだよ・・・・」
リリスの体は温かかった。
蒼いワンピースを着たリリスは、本当にただの14歳の少女に見える。
「勝つよ。絶対に勝つ。勝たなきゃいけないの。魔法少女戦争を起こしてしまった罪を・・・最初に魔法少女になってしまった罪を償わなきゃ。じゃなきゃ、メイリアにもマリアにも・・・魔法少女をたくさん殺してきたことも・・・」
「もういい。ごめん。わかってるよ」
リリスの髪を撫でる。
「安心しろ。もう、リリスを独りにさせないから」
「・・・今度こそ・・・・?」
「あぁ」
リリスは俺ができるかどうかは、疑わなかった。
「リリスといるよ。魔法少女戦争を終わらせても、リリスといる。一人にはさせない」
声を低くする。
「だから、泣くな」
「うん・・・・」
リリスの震えが、少しずつ収まっていった。




