145 デート
― リリスには気をつけろ ―
"成れ果て"から出たときに、一瞬だけ父さんの声が聞こえたような気がした。
今思い返せば、気のせいのようにも思えるが・・・。
「カイト、待たせちゃってごめんね」
「・・・・・・・」
リリスが海を溶かしたような蒼いワンピースを着ていた。
唇がほんのりと赤く色づいている。
「あ・・・・・」
一瞬固まってしまった。
「・・・えっと、黒いローブのほうがよかった?」
「似合ってるよ。たまにはいいじゃん、そうゆう服も」
「そ・・・そっか。そうかな?」
リリスが少し頬を赤らめた。
ロストグリモワールを消して、頭を掻く。
「でも、デートって言ったってどこに行けばいいんだろうな。ここ、電子世界だし・・・セレーヌ城は出なきゃいけないだろ?」
「カイトはどこか行きたいところある?」
「そうだな・・・」
ラインハルトに聞いてみればよかったな。
普通のデートなら、映画とか遊園地とか行くんだろうけど、ここは電子世界の中だし、下手に動けば、いつ他の魔法少女と戦闘になるのか・・・。
魔法少女戦争中にデートすること自体、無理がある気が・・・。
「じゃあ、こっち」
リリスが北東を指さす。
カプリニクスのダンジョンがあった方角だった。
魔法少女アカデミアが作られて以来、どうなっているのかはわからないけどな。
「了解。転移魔法は無いし、飛んでいくか」
「待って」
自分に浮遊魔法をかけようとすると、リリスが止めた。
「デートなんだよ。歩いていこうよ」
「歩いて?」
「デートは歩くものじゃないの? みんな、歩いてデートしてたでしょ?」
不思議そうに聞いてくる。
「普通の人間は魔法を使えないから、歩くしかないんだって」
「あ、そっか」
「じゃあ、リリスは今日1日、魔法無しってことにするか」
「えっ!?」
リリスが着なれないワンピースを押さえて、俯く。
「魔法無しは難しいな。自然に使っちゃうんだよね」
「なるほど。自然とねぇ・・・」
腕を組んで、セレーヌ城の敷地内から出ていく。
「ねぇ、2人で歩いてると、カイトと電子世界に入ったばかりのとき、思い出さない?」
リリスが指をくるっと回していた。
「そうだな・・・」
「なんかドタバタで入っちゃったもんね」
風が草原を撫でていく。
「どうしてこっちの方角なんだ? 何かあるのか?」
「魔法少女アカデミアにいたときにね、一緒のクラスだった魔法少女の子に聞いたの。小さな街があって、美味しい食べ物や魔道具がたくさん置いてるんだって」
リリスが嬉しそうに話す。
「そうゆう場所なら、魔界の住人が居そうだけどな」
「私もそう思ったの。魔道具もあるなら、魔界の住人が好きだよね。そういえば、魔界の子とも仲良くなったんだよ。小さい子が5人くらい来て、ステラと部屋荒らしちゃって大変だったの」
「奴ら、いたずらが過ぎるんだよ」
うっすらとした記憶をたどって、息をついた。
「魔界の子が面白がって枕を投げてきたの。そしたらステラもやり返して、いつの間にか全員で枕投げのゲームになっちゃってね・・・」
「はは・・・・」
「え? どうしたの?」
思わず笑うと、リリスが不思議そうにこちらを見た。
「なんか、魔法少女じゃないリリスと話してるみたいだなって思って」
「やっぱり、この服、似合わないかな? いつものローブのほうが・・・」
「そうじゃないって」
リリスの手を掴む。
「カイト・・・?」
「美憂にエスコートしろって言われたからな。魔法が必要だったら俺が使う。今日はリリスは魔法使わなくて、普通の女の子でいろよ」
「だって、魔法少女だもん・・・」
リリスが力なく笑う。
「魔法が染みついてるんだから」
「じゃあ、今日は魔法使わないように、努力をすること」
地面を蹴って、魔法陣を展開する。
― スレイプニール ―
魔法陣の中から鬣の艶やかな黒い馬が飛び出してくる。
背中の翼を大きく広げていた。
「久しぶりだな、スレイプニール」
『サマエル様が、私を召喚するのは珍しい。何か困ったことでも? 戦闘であれば、力になりますよ』
「戦闘で呼んだんじゃないって」
笑いながら、スレイプニールの鬣を撫でる。
「北欧神オーディンの・・・どうして、カイトが召喚できるの?」
「たまに魔界に遊びに来てたのを思い出したんだ。本当はダメなんだよな。オーディンから怒られるから内緒にしておいてくれ」
『よろしくお願いしますね』
スレイプニールが背筋を伸ばして、リリスのほうを見る。
「もちろん、言わないよ。それに、私、オーディンと接点ないしね」
『ん・・・・?』
「スレイプニール、ここをまっすぐ北東に連れて行ってくれ」
『あの・・・・貴女は三賢の魔法少女リリスですよね? リリスの魔法より素早く動ける自信はありませんが・・・』
「わかってるって」
スレイプニールがリリスを警戒しているのが伝わってきた。
「俺たちデート中なんだよ」
『デート!? サマエル様が? 魔法少女戦争中に・・・ですか?』
「息抜きもたまには必要だからね。俺はいいけど、リリスに魔法を使わせないように行きたいんだ。乗せてもらえる?」
『も・・・もちろんでございます。よろこんで』
スレイプニールが少し驚きながら快諾した。
俺とリリスの背の高さにあわせて屈む。
「よっと・・・」
軽く飛んでまたがった。
「さんきゅ。ほら、リリス。絶対に、魔法は使うなよ」
「え・・・あ・・うん」
リリスの手を引っ張り上げて、俺の前に乗せる。
素早くワンピースの裾を直していた。
「魔法を使わないってこんな感じなんだ。変な感じ」
「ちゃんと捕まって。スレイプニールの速度って早いから、振り落とされるからな」
「うん」
リリスがこくりと頷いて、鬣を握り締めた。
『今回の魔法少女戦争は荒れてますね』
「電子世界だからな。なんでもありなんだろう」
スレイプニールが空を駆けていく。
「速いね! スレイプニール」
『リリスには敵いませんよ』
「今は魔法禁止だから、スレイプニールに負けちゃうよ。私こんなに早く走れないもん」
リリスが楽しそうに遠くを見つめていた。
サファイアのような瞳がきらきら輝いている。
カプリニクスのダンジョンがあった場所に、小さな街があった。
大きな木を囲むようにして、建物が作られている。
「ありがとな。会えてよかったよ」
『こちらこそ。デートを楽しんでくださいね』
「あぁ」
シュンッ
魔法陣を閉じるとスレイプニールが消えていった。
リリスが蒼いワンピースをなびかせて、こちらを振り返った。
「ねぇ、美味しそうな匂いがするよ。シナモンの効いた甘い香り・・・」
「美味しそうっていうか・・・カオスだな」
「確かに、カオス・・・・かもね」
リリスが若干圧倒されていた。
街では魔界の者たちが音楽を奏でて、歌ったり、踊ったり、魔法を空に打ち込んだりしている。
喧嘩している怒号もい、肩組んで歌ってる奴らもいる。
種族は様々だ。
人間も多いが、ゴブリンの子供もいれば、ゴーレムや雪男、形の保てない黒い影のような奴もいる。
インターネットを使えるようになったばかりのコンテンツは、こうゆう感じだったと噂で聞いたことがあった。
「その魔法少女の子も、よくこんなところを勧めたな」
「でも、私はこうゆう街、好きだよ」
「デートって感じじゃないだろ」
「私、不死だから魔界に行ったことないから」
ワンピースのリボンに触れながら言う。
「サマエルのいた世界、見てみたいの。魔界ってこんな感じなんだよね?」
「今の俺は如月カイトだからな」
「ふふ、ごめんごめん」
リリスがふわっと浮くように走り出した。
一瞬、魔法を使ったのかと思った。
「早く行こう! いろんなところ回りたいの」
「あぁ、急いでぶつからないようにな」
「うん」
はしゃぐリリスに続いて、街の中に入っていった。




