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魔法少女戦争 ~ロストグリモワールを俺は知っている~  作者: ゆき
第十章 夢幻泡影

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144 怒ったリリスの静め方

 アイリスはリリスを呼びに行った後、すぐに姿を消したらしい。


 今考えれば、あの黒い薔薇の中にいたのだと思う。

 ゲームの中からメッセージを送って、"成れ果て"の作り出す世界に、違和感を与えてくれたのは、アイリスのような気がした。


 もし違和感がなければ、俺はずっとあの世界にいたかもしれない。

 "成れ果て"と完全に同化してしまっただろう。


 ミハイルでも救えないくらいに、な。


「黒い薔薇が吞み込んだ魔法少女の数はわからない。でも、かなりの数の魔法少女がいたと思うよ」

 セレーヌ城の屋根に座って、リリスと話していた。

 朝日が差し込んで、セレーヌ城の城下町が明るくなっていった。

 

 城下町を歩いている魔界の者たちが見えた。


「だろうな」

「あんなに巨大化するんだもん。魔法少女全員が巻き込まれる可能性もあった。穢れを放つ限り、魔法少女は太刀打ちできないからね」

「リリスは、ちゃんと休めたか?」


「1日寝れば回復するよ。私は"成れ果て"の影響受けないもの」

 リリスが足を伸ばす。


「結局、3週間も経ってたんだからね。スマホで連絡してって言ったのに・・・"成れ果て"に呑まれてたら連絡もできないか」

 ふぅっと息をつく。


「まぁ、襲撃してきた魔法少女は、私とメイリアで全員撃破したけどね」

「聞いたよ。ティナの穢れもだいぶ薄れたみたいだし、ティナに代わって指揮を執ってくれたこと、本当に感謝してるよ。まさか、ここまで時間が流れてると思わなくて・・・」


「感謝?」

「ん?」

 リリスの眉が動いた。

 声のトーンは高かったが、完全に怒っている目つきをしていた。


「もう、カイトが呑み込まれたら、私一人になるところだったんだよ? ちゃんと、反省してる?」

「ごめんって。でも、出られると思ってたし」


「どうやって?」

「それは・・・・・」

 言い訳を考えていると、リリスが頬を膨らませた。

 膝を抱えて視線を逸らす。


「ほら、そうやって自分を犠牲にしようとする。いつもカイトはそうなの。だから、魔法少女戦争は終わらない。私は一人になる」

「本当にごめん。悪かったよ」

「フン・・・・」

 リリスはセレーヌ城に帰って来てから、ずっとあたりが強かった。

 美憂の機嫌の取り方はわかるんだけど、リリスはわからない。


「カイトは結局残される私のことなんか、考えてくれないんでしょ」

「そうゆうわけじゃないって・・・」


「・・・・・・」

「・・・・・・」


 リリスが髪で顔を隠す。

 気まずい空気が流れていた。

 何か言おうとしたとき、背後から人の気配を感じた。


「ウンウン、私もおにいが全面的に悪いと思う」

「美憂!」

 美憂がふわっと飛んで、屋根の上に立っていた。


「確かに七陣魔導団ゲヘナのみんなは"成れ果て"にならなかった。でも、あの状況で、おにいだけ残って、私だけ外に出すっていうのはあり得ない。私の許可もなしに勝手に・・・ひどい。最低」

「いや、そこまで言わなくても・・・」


「はぁ・・・・全部嘘」

 美憂が腕を組んでため息をつく。


「嘘だよ。本当にありがとうね、おにい。お母さんとお父さんのこと、知ることができて本当に良かった。"成れ果て"の中の出来事だったとしても、お母さんとお父さんと過ごせた数日間は宝物なの」

「美憂・・・」

「一生忘れない。私ね、生まれてきちゃ駄目だったのかな? ってずっと思ってたから・・・・そんなことないってわかってよかった。お母さんとお父さん、すごく幸せそうな顔してたもんね」

 胸に手をあてて、ほほ笑む。


「リリス、私からも謝るよ。今回は本当にごめんなさい。おにいを危険な目に合わせたのは私なの。私が強引について行っちゃったから、こんなことになっちゃって・・・」

「えぇっ、美憂に怒ってないよ!」

 リリスが慌てて手を振った。


「ううん、私のわがままのせいだから」

「だって、美憂くらいの年齢でお父さんとお母さんと離れることは悲しいことなんでしょ?」

 リリスが髪を耳にかける。


「・・・私はもう両親とか・・・そうゆうの忘れちゃったから、気持ちわかってあげられなくて、申し訳ないんだけどね・・・」

 視線を逸らした。


「リリス、それでね、いいことを考えたの」

「ん?」

「おにいを1日貸し出すよ!」


「は!?」

 美憂が俺の両肩に手を置いて、少し前に押してきた。


「っと、貸し出す? ってどうゆうこと?」

「七陣魔導団ゲヘナのみんなには内緒にしておくから2人でどこか行っておいでよ。シロナにも話したの。2人のことは、追えないようにうまくごまかせるようにしておくから」

「いいよ。魔法少女が攻め込んでくる可能性があるのに、リリスとどこに行くんだよ」

「おにい」

 美憂がしゃがんで視線を合わせる。


「デートだよ。1日デートしてこいって意味」

「っ!?」

「だって、おにい、リリスに心配かけたんでしょ? ちゃんと、埋め合わせしなきゃ駄目だよ」


 はっとして顔を上げると、リリスも目を丸くしていた。


「で・・・でーと?」

 リリスが我に返って口に出す。


「うん。じゃあ、リリス、おにいのことよろしくね。おにい、ちゃんとエスコートしなきゃ、一生口きかないから」

「いや・・・美憂、エスコートって・・・」

「楽しんできてね!」

 美憂が手を振って、バルコニーのほうへ降りていった。


「唐突すぎるだろ・・・」

 頭を掻いて困惑する。


「つか、ここ電子世界だし。デートって言っても、魔法少女戦争中にどうやってデートて・・・」

「・・・・デート」

 リリスがぼうっとしながら呟いた。 


「デートならもっと髪とか服とかちゃんとしたほうがいいよね?」

「えっ?」

「私着替えてくるね! そっか、えっと、みんなに見つからないように行ってくるから・・・カイトはセレーヌ城の城門前あたりで待ってて」

 急に立ち上がって、顔を赤らめていた。

 少しわたわたしながら、遠くを指さす。


「あ・・・あぁ・・・・」

「15分後くらいに、待ち合わせね! おわっ」

 リリスの表情が変わる。

 屋根から転びそうになって、慌てて浮遊魔法を使っていた。


「リリス、大丈夫か?」

「うん、ま、待っててね。ちゃんと行くから!」

 危なっかしい。

 なんとなくほわほわしている気がした。

 背を向けて、小さく頷いてからセレーヌ城の中に入っていく。





『ふうん。サマエルがデートねぇ』

「アスタロト、いつから覗いてたんだよ」


『ついさっき来たばかり。面白いことになってるなぁって。リリスと喧嘩して決別しちゃうのかと思った』

「楽しそうに言うな」

『だって、サマエルの焦り方が面白くて』

 アスタロトが長い爪を口に当てて笑っていた。


『あ、待ってってば』

「・・・・・」

 無視して、屋根から滑り降りるようにして地面に足をつける。


『今回は、弟に助けてもらったんでしょ?』

「まぁな。って、なんで知ってるんだ?」


『ボスのことはちゃんと把握しておかないとね。でも、ミハイルは私たちよりもサマエルを追っているように見えるよ』

 後ろからふわふわついてきた。


『セフィロトの神々って、ミハイルの行動に文句言ったりしないの?』


「さぁな、セフィロトの神々の考えなんか理解できないって」

 手をひらひらさせた。


『魔法少女戦争、どうなるのかなぁ?』

「別にお前らは興味ないだろ」

『そんなことないよ。可愛い可愛い魔法少女の味方だもも』

「へぇ・・・・」

 アスタロトが表情を変えて、セレーヌ城のほうを見る。


『ねぇ、魔界の者がこの世界に入ってきてるのに、排除する動きが全く無いの。おかしいと思わない?』

「クリフォトの魔神たちにとっては、有利な方向だな」


『ベルゼブブは呑気に遊んでるし、話しても全然聞いてくれないんだよね。もしかして、クリフォトの神々は転がされてるのかもよ?』

「・・・・・」

 生ぬるい風が通り過ぎる。


『目的のわからない、誰かさんにね』

 アスタロトが意味深にほほ笑む。


「別に誰かの駒になっていようが構わない。俺が『ロンギヌスの槍』を手に入れることができれば、な」

 低い声で言う。


『ふふ、サマエルらしくて安心した。魔界の王はそうじゃなくちゃ』

 リリスとの待ち合わせ場所に着くと、アスタロトはすぐに姿を消した。


「・・・・・・・」

 木に寄りかかって、ロストグリモワールを出す。

 息をついてページをめくっていた。

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