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魔法少女戦争 ~ロストグリモワールを俺は知っている~  作者: ゆき
第十章 夢幻泡影

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140 夢を描く①

 香りが眠気を誘い込む。


 窓の外を見ると、桜が勢いよく散っていた。


 目の前には数台のPCが置いてある。

 積み上げられた参考書、読みかけの本、自分の部屋にいるようだ。


 俺は、あの鍵に触れて倒れた後、ここにきたのか?


「お兄ちゃん。夕食の用意ができたよ! 今すぐ食べるでしょ?」

「母さん?」

 母さんの声がした。


 夢にしては、やけにリアルだ。


「美憂、お兄ちゃん連れてきて」

「はーい、おにいってば集中すると何も聞こえなくなるんだから。おにいー」

 美憂が階段を上ってくる音が聞こえた。


 画面に映っているのは、仕掛中のゲームのテスト仕様書だ。


 いや、どうして夢だと思ってるんだ?


 夢であるはずがない。

 手の感覚も足の感覚もある。

 本棚に並べた参考書も、確かに自分で購入したものだ。


 今日は日曜日、明日は学校だ。

 でも、頭に靄がかかったような感覚になっている。


 どうして、俺はこの状況を夢だと勘違いしでいたんだ?


「おにい!」


 タッタッタッタッ


 バタン


「あー、またゲームやってたの? でばっぐ? こんな難しいのよくできるね?」

「美憂?」


「本当は慌てて画面切り替えて、裏でエロいゲームとかやってたんじゃないの?」

「んなわけないだろ」


 ため息をついて、美憂の後をついていく。


「なぁ・・・美憂、俺たち何か忘れてないか?」

「え? 何を」

 美憂がこちらを見て首をかしげる。


「あ・・・いや、何かってわからないんだけど重要な何かがあったような・・・・」

「おにい、宿題でも忘れてるんじゃない? もしくは、明日テストとか・・・あ、私も明後日までの英語の宿題あったんだ。明日やればいいか、最悪、おにいもいるし」

「都合のいい時だけ俺を頼るなよ」


「おにい、頭だけはいいからねー」

 美憂がこちらを振り返らず階段を下りていた。


 頭を掻く。

 いつもの美憂だった。


「お父さん、おにいがゲームばかりで、勉強のこと忘れてるっぽいんだけど」

 4人用の食卓テーブルにはたくさんのおかずとごはんが並んでいた。

 焼きたてのキッシュのいい香りがした。


「ははは、ゲームのテストはなかなか難しいからな」

 父さんがこちらを見て笑いかけてくる。


「おかげでゲームが嫌いになりそうだよ。少しでも変な動きをするとバグに見えてくるし」

「うまくいってないのか。父さんが教えてやろうか?」


「特に聞くことは無いんだよ・・・テスト仕様書通りやるだけだから」

「葛城に聞いたけど、カイトはかなり吞み込みが早いらしいな」


「ふふ、葛城くんが褒めるなんて珍しいね。はい、おかわりもあるからね」

 父さんが言うと、母親が嬉しそうに俺の席にご飯を置く。


「あ、ありがとう」

「わぁ、ハンバーグにマッシュポテトだ。お母さんが作るハンバーグって世界一美味しいもんね」

「そういってくれると、なんだか照れるね」

 美憂が席に座って、手を合わせていただきますと言っていた。


「母さん、食後にコーヒーあるか?」

「コーヒー・・・あ、お父さんが淹れてくれたコーヒーが美味しいな」

「はいはい。母さんと、俺、カイトは飲むか?」

「俺はいいよ」

 父さんが立ち上がって、棚からコーヒー豆を出していた。


「私も飲む!」

「美憂はコーヒー飲めないだろうが」

「最近飲めるようになったもん。いつまでも子ども扱いしないでくれない?」

 美憂が頬を膨らませる。


「無理して飲むものじゃないって」


 笑い声の絶えない食卓。

 テレビではアザラシの赤ちゃんが生まれたというニュースがやっている。

 美憂が残したコーヒーを飲みながら、ぼうっとしていた。



「ねぇ、お母さん。私ね、パウンドケーキ作ってみたい。今度、友達の家に行くときに持っていきたいんだ」

「お菓子作りならお母さん得意だよ。任せて。今から作ろうか」

「うん!」

 母さんが袖をまくっていた。


 もう22時を回ってるんだが・・・母さんはどこか抜けてるところがあるんだよな。

 父さんも注意しないし・・・。


「美憂、どうせ試食とかするんだろ? 太るぞ」

「うるさいなぁ。おにいも、たまにはお母さんに料理教えてもらったら? フライパンすら触ったことないじゃない」

「いいって、まだゲームのテストのバイト終わってないから」


「ゲームばかりやってるとモテないよ」

「だから、バイトだって言ってるだろ? ったく」


「美憂、あまりお兄ちゃんの邪魔しちゃだめよ。お兄ちゃん忙しいんだから」

「はーい」

 美憂が言いながら、弾むように母さんとキッチンに入っていった。

 親子というよりは、姉妹のようにも見える。


「コード読むのは難しいだろう?」

 父さんが本のページをめくりながら話しかけてきた。


「難しいというより、量が多くて時間がないんだよ。父さん、葛城さんに俺に渡すテスト仕様書は、量を減らしてもらうように言ってよ。期末テストも近いし、納期に間に合わないって」

「はははは、でも、カイトならこなせるだろ? わからない部分があれば父さんに聞いてくれ。すぐに答えられるぞ。俺も昔はゲーム開発者だったからな」

 父さんの顔は少し赤くなっているように見える。


「・・・もしかして、酒飲んだ?」


「ちょっとな」

 母さんがこちらを見てないのを確認してから、声を小さくした。


「お父さん、瓶の蓋が開かないの。手伝って」

 美憂がキッチンから顔を出す。


「了解、お、キャラメルクリーム使うのか」

「うん! これが海外で美味しいってバズってるの」

「確かに美味しそうだな。今から焼くなら、出来上がりは0時くらいか。父さんにも残しておいてくれよ」

 父さんがふらっとしながら、キッチンのほうへ向かっていった。


「もちろん! おにいにはちょっとしか残さないから」

「もう、美憂、喧嘩しないの」

「だって、おにいが太るとかいうから・・・」


 ため息をつく。

 3人の楽しそうな会話が聞こえてきていた。



 コーヒーのカップをキッチンに置いて、階段を上っていく。


 そろそろ期末テストの勉強も視野にいれなきゃいけない。

 特に数学のテスト範囲は、全く手を付けていなかった。


 まぁ、最悪、2週間前に勉強すればどうにでもなるだろう。

 あまり成績がいいと、変な奴らに絡まれるから、面倒なんだよな。


 部屋のドアを開ける。

 

 パソコンにはさっきまでやっていた、ゲームのテスト画面が映っている。

 隣のモニターには仕様書が映っていた。


 椅子に座る。

 デバッグモードにして、コードを映す。


 ― はじめまして、如月カイト。私は魔法少女のリリス=ミュフォーゼ。急だけど契約しに・・・・ ―


「は?」

 こめかみを押さえる。


 懐かしい声が聞こえてきた気がした。


「・・・・・」


 何かを忘れてる?

 何を忘れてる?


 俺は彼女をよく知っている?


 彼女?


 よく笑って、強がってばかりで、何を考えているのかわからない誰か。

 出会ったときから知っている誰かだ。


 儚げにほほ笑む、サファイアのような瞳を持つ美しい少女。


 そもそも、"リリス"って誰だ?

 

 

「どうした? 何か煮詰まってるのか?」

「・・・・父さん、勝手に部屋に入ってくるなって言ってただろ?」

 はっとして、背筋を伸ばす。


「何の用? 酔っぱらいの相手なら・・・・・・」

「・・・・・」

 ため息をついて椅子を回すと、父さんが真剣な顔をしていた。


「どうしたの?」

「そうだ、これだよこれ。レアなポケ丸のカードをやろう」

「ポケ丸って・・・」

 肩の力を抜く。


「何の話だよ、いきなり。つか、どうして父さんがポケ丸カードを・・・」

「カイト、集めてるって言ってただろ?」

 父さんが上機嫌のまま話す。


「いつ俺がポケ丸カードを集めてるって言った? 随分、支離滅裂だな。あまり飲みすぎると母さんに怒られるぞ」

「母さんには内緒だからな。さ、俺は先に風呂でも入ってくるかな」

「風呂で溺れないように・・・って、コレ、いらないんだけど・・・」

 父さんが俺の机に一枚のポケ丸のカードを置いていった。

 手に取って裏側を見る。


「?」

 カードの端に走り書きされた文字が書かれていた。


― 監視されている。吞まれるな。出口は自分で見つけろ ― 

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