op10 処刑
ヴェルネスがガラスの中にいる如月サクラを見上げていた。
サクラの足からは黒い蔦が伸びて、床に突き刺さっている。
「ペルロ=ヴェルネス」
「貴女様が来ましたか」
「メシェトが来ると思った?」
「・・・そうですね。短い間でしたが、お仕えしていましたから。私の心臓を貫くなら、メシェト様かと」
聖杯の聖霊ルピスが杖をヴェルネスに向けていた。
「せめて、娘が戻ってくるまで待っていただきたかったのですが、仕方ありませんね。アイリスはもう一人じゃないので、大丈夫でしょう」
「・・・・・・」
「残せるものは残せました」
ヴェルネスが机の端小さく立てかけられた、アイリスとサクラの写真を見つめていた。
「司祭だった者が、"成れ果て"を放置し、魔法少女戦争に不浄をもたらした。禁忌魔法所有の罪にも該当する。元は貴方が仕組んだものではないのはわかっているけど、契約は契約・・・」
「『聖杯』の聖霊ルピス様、貴女様は愛をご存じですか?」
「え・・・・?」
「はははは、わかりませんか」
ヴェルネスが笑いながらルピスの言葉を遮った。
「何がおかしいの?」
「私は、ずっとこの時を待っていたのですよ。黄金の薔薇が闇に染まる日を」
「?」
ルピスが目つきを鋭くする。
「魔法少女、全員が"成れ果て"になってしまえばいい。そうすれば、この憎き魔法少女戦争も勝者なしで終わります。魔法少女の勝者が現れなければ、『ロンギヌスの槍』は形を保てない」
ヴェルネスが両手を広げた。
「・・・だからって、魔法少女を"成れ果て"にしていくことは許されない」
「"成れ果て"にそんなに嫌悪を抱きますか? "成れ果て"は魔法少女の叫び。神への失望。行き場のない想いですよ?」
どこからともなく、金切声が聞こえてくる。
ヴェルネスの腹の中では、怒りがとぐろを巻いていた。
「・・・・・・・」
ルピスが無視して詠唱を始める。
― XXXXXXXX XXXXXXX XXXXXX -
「私は、アイリスが"成れ果て"になりかけても、一秒も嫌いになったことはありません。どんな姿になっても、可愛い可愛い、何よりも大切な娘です」
「そう」
ルピスがクリスタルのような剣を空中に浮かべた。
刃先をまっすぐヴェルネスのほうへ向ける。
「でも、契約は契約だから、違反者である貴方を処刑する」
「はははは、魔法少女が死ぬことは受け入れても、"成れ果て"になることは許せないのですね。貴方たちにとって都合がいいほうを正義と捉える・・・・・」
ザッ
「!!」
ヴェルネスの呼吸が止まる。
ルピスの剣がヴェルネスの胸を貫いていた。
「契約って言ったでしょ? 私も時間が無いから」
「・・・・・」
ヴェルネスはふっと笑って、光の粒になって消えていった。
「・・・・あと、愛は知ってるよ。『聖杯』は全てを見てきた。全て知ってる・・・」
ルピスが宙を舞う光の粒に、指先で触れながら言う。
「複雑なもの。呪いであり、祝福であり、魔法少女戦争の根源となるもの」
タンッ
ルピスと同じ顔をしたメシェトがふらっと、部屋に入ってくる。
「メシェト」
「ルピス、そろそろ出なければ。僕たちはここにいられない。『ロンギヌスの槍』にも、『聖杯』にも穢れをもたらしてしまう」
「如月サクラの"成れ果て"を見た?」
「見たよ。禁忌魔法だね・・・禁忌魔法を使用すること自体、神に背く行為、穢れは益々重いな」
メシェトとが顔を上げる。
ガラスの中にいるサクラは、まだ普通の人の形のままだ。
「サマエルはあの花から戻って来れるのかな?」
「さぁな。僕は正直、無理だと思うけど、デウスエクスマキナは戻ってくると言ってたよ」
メシェトがルピスに手を差し伸べる。
「奴が言うなら戻って来れるんだろう」
「デウスエクスマキナに会ったの?」
「あぁ、わざわざここまで見学に来てたからね」
ルピスがメシェトの手を取って、窓から外へ飛んでいく。
「デウスエクスマキナの歯車は順調に回ってるんだよね?」
「順調すぎるくらいだ。加速している。僕もそろそろ『ロンギヌスの槍』の準備をしなければいけない」
「今度こそ・・・・きっと運命は変わる。『聖杯』は信じてるよ。三賢とサマエルが奇跡を起こして、魔法少女戦争が終わるって」
ルピスがメシェトの手を離す。
「信じてるから」
「・・・・・・・・・」
メシェトが視線を逸らして、魔法陣を展開していた。
サアアアァア
風が吹くと同時に、2人が別々の場所に戻っていった。




