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魔法少女戦争 ~ロストグリモワールを俺は知っている~  作者: ゆき
第九章 心恋

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138 吸収

「ごめんね! カイト、ごめんね!」

「アイリスは悪くない。俺たちが知らなきゃいけなかったことなんだよ。アレは俺たちの母親なんだからな」


「・・・でも・・・美憂が・・・パパがこんなこと隠してたなんて。どうして・・・・本当にごめんなさい」

「もう謝らなくていいって。美憂は必ず連れ戻すからな」


 廊下を走りながら、アイリスは何度も謝ってきた。


 ヴェルネスの考えていることはわからない。

 でも、きっとアイリスが事実を知っても、どうにもできなかっただろう。


 急速に"成れ果て"になったのは、如月タツキが死んだからなのか?


「お母さん!」

 はっと顔を上げる。

 美憂の声がした。


「美憂!!!!」

 中庭に着くと、美憂が中庭を出ようとする巨大な黒い薔薇の前にいた。

 杖先に魔法陣を展開している。


 ― 輝浄水龍ルフ・ドラグーン


 光り輝く龍を出現させた。

 絡みつくように黒い薔薇の動きを止める。


 キィアアアァァァア


 花びらに浮かび上がる魔法少女たちが、次々現れては吞み込まれるのを繰り返していた。


「お母さん! 私だよ! 美憂だよ!」

 美憂が呼びかける。


「お母さん!」


 ズズズズ・・・・


「!!」

 黒い薔薇の動きが止まった。

 突然、花びらに浮き上がっていた魔法少女たちも消えた。


 ただの黒い薔薇になった。


「ったく・・・・」

 ルピスの刃先を黒い薔薇に向けながら、美憂の隣に並ぶ。

 美憂が目を丸くしてこちらを見た。


「あれ? おにい・・・私の魔法は?」

「最期の言葉みたいに残していくなよ。俺に魔法で勝てるわけないだろ?」

「う・・・でも・・・・・」

 美憂が杖を持ち直す。 


「おにいは私がここに来るって言ったら反対するでしょ? 黒い薔薇がお母さんでも」

「当然だろ。"成れ果て"が元に戻ることはないって、最初に言っただろうが。甘い考えは・・・」


 ザアアァァアアアア


「!?」

 美憂の出した黄金の龍が一瞬にして消えた。

 黒い薔薇が放つ魔力が急速に高まっている。


「なんだ・・・・?」

「・・・おにい、お母さんがどこにいるかわからないけど、呼びかけたら・・・・」


『美憂』


「え・・・・・?」

 はっきりと、母親の声が聞こえた。


 たった一言だった。

 幼かった日、美憂と母親と3人で過ごしていた日々が走馬灯のように、頭に流れてくる。


「母さん・・・・?」

 花びらが動いて、正面から黒い女の姿が浮かび上がる。


『カイト、美憂、ここに来てくれたのね。ずっと会いたかったの』


「お母さん!!!」

 美憂の手首を強く掴む。


「おにい、お母さんだよ。お母さんが・・・」

「・・・いや、母さんは亡くなった」

「でも・・・でも・・・目の前にいるのはおかあさんだよね?」



 ― 美憂、カイト大きくなったね。おいで、私たちの可愛い・・・ ―


「聞いちゃ駄目!」

 アイリスが切り裂くように叫んだ。

 杖を剣に変えて、女に剣を突き付ける。


「お願い! 逃げて! 私がサクラを引き付けている間に!」

 必死に叫んだ。

 女の下半身は花びらにの中に沈んでいる。


 アイリスに剣を突き付けられても、ほほ笑んでいた。


『アイリス』

「サクラ、こんなことしたいわけじゃないよね? 一番見られたくないはずなのに、サクラの子供たちを連れてきてごめんね」


『ありがとう。アイリス。私、すごくすごく嬉しいの。カイトと美憂の大きくなった姿が見れて、本当に嬉しい。ありがとう』


「サクラ・・・・」


「お母さん!! おにい、お母さんだよ。やっぱり私たちのお母さんだよ」

「ダメだ」

「おにい、離して! 私、お母さんを助けたい!」

 振り払おうとする美憂の腕を力強く抑える。


「"成れ果て"になったら助けられないんだ」

 自分にも言い聞かせていた。

 美憂が首を振る。


「そんなことない! だってお母さんが・・・」


『カイトは優しいお兄ちゃんになったのね。たっちゃん・・・お父さんによく似てるよ』


「・・・・・・・・」

 花びらから浮き上がる顔や表情は、本当に母さんが戻ってきたのではないかと錯覚するほどだった。


 大切だった人たちが、呼びかければ、"成れ果て"も正気に戻る。

 奇跡が起こせるんじゃないかと思ってしまうほどに。  


『おいで・・・美憂』


 母さんが両手を広げた。


「お母さん・・・」


「あっ・・・・・」

 一瞬手の力が抜けて、美憂が勢いよく振りほどく。

 美憂が走り出して、母さんに抱きついた。


 ゴオォオオオオ


「!!」

「お母さん!」

 母さんが美憂の背中に手を回す。


『美憂、ますます可愛くなったのね』

「会いたかった! お母さん、私ね、いろんな料理作れるようになったの。おにいよりも美味しいかもよ? ねぇ、いろんな話をしよう、ね」

 美憂の体が浮き上がる。


「美憂! 今すぐ離れろ!」


『愛してるわ。美憂』


 ズズズズズ・・・


「美憂!!!!!!」

 慌てて走り出したときには、棘のある蔦が道を塞いでいた。


 ザザザザ


 剣で斬っても、次から次へと現れる。

 美憂が蔦に巻かれて見えなくなっていった。


「クソッ・・・・」

 軽く飛んで後ろに下がった。


「サクラ!!」

 アイリスが大声を出す。

 瞬く間に美憂が黒い薔薇に吸収されていった。


「・・・・・」

 呆然としていた。

 

 一瞬の気の緩みが、最悪の結果を招いてしまった。

 薔薇から浮き上がった女が、あまりにも、あの頃の母親にそっくりだったから・・・。


「カイト」

 アイリスが背中をポンと叩いてくる。


「・・・落ち着いて聞いて。美憂は取り込まれたばかり。今ならまだ間に合うかもしれない。私が美憂を引っ張り出すから、カイトは美憂と一緒に逃げてね」

 アイリスの魔法少女の鍵にはひびが走っている。

 穢れを受けて、魔力が揺らいでいた。


 あと数分ここにいれば、アイリスも"成れ果て"になるだろう。


「いや」

 剣を消して、アイリスのほうを見る。


「俺が行く。アイリスは、リリスに状況を伝えてくれ。万が一・・・俺がどうにかなった時に、対処できるのはリリスしかいない。リリスは"成れ果て"にならないんだ。ここにいても、動ける」

「駄目だよ! だって、黒い薔薇は主だって容赦なく吸収されるんだから」


「わかってるよ。でも、俺は美憂の兄だ。あの黒い薔薇は母親なんだ」


「・・・・・うん」 

 アイリスが泣き腫らした顔で頷く。

 杖を両手で握り締めて、ふわっと飛んだ。


「・・・リリスに話してくる。カイト、無理しないで」

「無理はするよ。美憂のお兄ちゃんだからな」

 軽く笑って、美憂を吸収した花びらのほうへ歩いていく。


 ゴォオオオ


 すぐにうねるようにして、母親が現れた。


『カイト、会いたかった。大きくなった貴方と話がしてみたかった』


「母さん・・・・」


『いつも無理させてばかりで、ごめんね。寂しい思いもいっぱいさせちゃったね。もう、大丈夫だよ。美憂と一緒に、こっちにおいで』


 シュルシュルシュルシュル・・・


「・・・・・・・」

 退路は蔦で塞がれていた。


 "成れ果て"か・・・。


「・・・母さん、美憂を返してほしいんだ」


『おいで・・・カイト、おいで・・・』

 花びらに、美憂の魔力が微かに残っているのを感じた。


「母さん、俺の声が聞こえる?」


『なぁに?』

「美憂を返してもらうよ。俺の妹だからね」

 母親の腕を掴んで、息をつく。


『ふふ、カイトがこんなに強くなるなんて。昔は転んだだけで泣いてたのにね。でも、強くなったカイトに会えて嬉しいよ』

「・・・・・あぁ」

 母親がゆっくり上半身を花びらに沈ませながら、笑いかけてくる。

 腕が花びらに触れた。


 雨に打たれた葉のようにしっとりとしている。

 どこまでが母親で、どこまでが"成れ果て"なのかわからなかった。


 ズズズズズズズズズズ・・・


「・・・・・」

 母親の声を聞きながら、薔薇の中に体が入り込んでいく。


 何も見えなくなった。

 黒い薔薇の鼓動を聞きながら、闇の中へ吸収されていった。

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