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魔法少女戦争 ~ロストグリモワールを俺は知っている~  作者: ゆき
第九章 心恋

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137 ばいばい

 『黄金の夜明け団』の廊下は静まり返っていた。

 人の気配を感じないのは、結界が張られているからなのか、本当に人がいないのかわからなかった。

 中庭から出て、しばらく歩いていた。


 たまに、美憂が重くないか聞いてきた。

 重いと答えると、消え入りそうな声で文句を言っていた。


「この部屋だ。お前らの父親、如月タツキが研究し続けていた部屋」

「・・・・・・・」

「入ってみるといい。アイリスもよく来ているよ、な」


「うん。大丈夫だから、入ってみて」

 アイリスが部屋に入ってこちらを向いた。


 部屋に入った瞬間、どこか懐かしい匂いがした。

 異国の地の香水のような香りだ。


「あれ・・・」

 急に美憂がぱっちりと目を開いた。


「おにい、もう大丈夫。楽になった」

「ん? 歩けるか?」


「急に体が軽くなったの」

 美憂を降ろす。

 精神の不安定さも、魔力の乱れも収まっていた。


 天井まで届くほどの魔導書と、棚には魔法石や小瓶が置かれている。

 アイリスがふらっと男の傍に立つ。


「ここは穢れが落ちるよう、如月タツキが魔法陣を組んでいった部屋だ。死んでもなお、消えない禁忌魔法だ。君たちの母親、サクラのために作られた部屋でもある」


「他の魔法少女は入れないのか?」


「まぁ・・・お前らだから、入ることを許可されてるんだ。あと、アイリスもな。普通の魔法少女が入ろうとすれば、燃えて死ぬ」


 男が意味深にアイリスのほうを見た。


「この棚の上の、真ん中の大きな置物は何?」

「それは・・・・」

 アイリスが何か言おうとして口をつぐんだ。


 男がふぅっと息をついて、布に覆われた何かに触れた。

 小声で詠唱をしていた。


「おう、そうだ。その前に、名乗っていなかったな。私の名前はヴェルネス。元は『ロンギヌスの槍』を守る司祭だった」


「『ロンギヌスの槍』の近くにいたってことか・・・・」

「司祭に選ばれれば、魔法少女戦争の勝者が現れるまで、『ロンギヌスの槍』を守らなければいけない。でも、君の父親に呼ばれてね、ここに来て、『黄金の夜明け団』と名前を戻したんだ」


「へぇ・・・」


「見てみろ」


 ファサ・・・


 ヴェルネスが布を引っ張ると、ガラスに閉じ込められた人間が現れた。


「え・・・女の人?」


「母さん・・・?」

 ガラスに触れようとすると、ジジっと音を立てて手を跳ね返された。


「おにい、お母さんなの?」

「たぶん・・・・そうだ。なんで母さんがここに?」


「お母さん、私だよ。美憂だよ」

 美憂が混乱しながら、必死にガラスの中に呼びかける。


「どうゆうことだ? 俺たちの母親は病気で死んだ」

 ヴェルネスを睨みつける。


「正確に言えば、病気ではない。如月タツキはソロモンの指輪を使ったんだ。サクラに魔神サマエルの魂と聖杯が選んだ純潔の少女ユウミの魂を宿すことを条件に、"成れ果て"になるのを遅らせた」

 布を椅子の横に置いて、ゆっくりと話していた。


「神はいるのか?」

 ガラスの中にいる母親に問いかけてから、こちらを見る。


「神は万能か?」

「話を逸らすな!」


「はは、ずっと我々が考えてきたことだ。神は願いを叶えて、魔法少女にする。魔法少女たちの戦いは、神の代理戦争だろう、と」

 ヴェルネスが軽く笑う。


「ねぇ、お母さんと話せないの? お母さんはここから出られないの?」

 美憂がヴェルネスににじり寄る。


「美憂・・・」

「お母さんと話してみたい! 私、小さい頃にいなくなっちゃたから、話した記憶が無いの。お母さんと話したいよ・・・」


「そうだな。このガラスは"成れ果て"になるのを止めるガラスだ。水晶などの魔法石も入っている、如月タツキにしか作れなかったものだ」

「・・・・・・」


 ガラスにはかなりの魔法陣が重ねてかけられているのがわかった。

 人間の技とは思えない。


 何か嫌な予感が働いた。


「でも、"成れ果て"になることは止められないのだな」


「・・・それ以上言うな」

 低い声で言いながら、美憂の隣に並ぶ。


「何? おにい、どうゆうこと?」

「勘づいたか。まぁ、神でもわからなかったのかは意外だったな。何でも知っていて、何も知らない人間のふりをしているのだと思っていたよ」

 ヴェルネスは躊躇なく続ける。

 

「あの黒い薔薇は、お前らの母親が生み出した"成れ果て"だ」


「え・・・・」

 俺と美憂の時間が止まった気がした。


「パパ! 私、そんなこと聞いてない!」

「アイリスが知らなくてもいいことだ」

「どうして言ってくれなかったの? 知ってたらカイトに助けを求めないよ! 私が自分でどうにかするよ!」

 アイリスが必死の形相で訴えた。

 

「・・・・・・・」

 息が詰まった。

 美憂も言葉を失っている。


「・・・ありえない。母親は病院で死んだ。病気だった。俺は看取ったんだ、病室で母親の手を握り締めて・・・」

「でも、お前ならガラスの中にいるのは母親だとわかるだろう?」

「お前・・・・」

 自分の記憶がぼやけているのに気づく。

 こめかみを押さえた。


「あいつ、俺の記憶を・・・」

「まぁ、奴ならそれくらいするだろうな。サクラの願いでもあった」

 ヴェルネスがガラスの中の母親を見上げる。


「サマエルが魔法少女戦争に関わることはわかってた。でも、サクラは関わってほしくないと思ってたんだよ。魔神だというのに、普通の子供だと思って育てたいとタツキに話していた」

「・・・・・・」

「聖杯に選ばれた聖女ユウミ、お前のこともな。魔法少女戦争から離れるように、如月タツキに話していた」


「・・・お母さんが、あの黒い薔薇なわけないよ。だってここにいるでしょ?」

 美憂が言うと、ヴェルネスが棚に手をかざした。


 パリンッ


「っ!!」

 棚が砕けると母親の足の裏から蔦のようなものが生えていた。

 ガラスを突き破って、地面の中に入り込んでいる。

 黒い棘があり、時折小さく動ていた。


「元は黄金だった・・・黄金の薔薇は、静かにこの地を照らしていた。如月タツキは『ロンギヌスの槍』を手に入れれば、どうにかなると思っていたんだろうな」

「そんな・・・・」

 美憂が顔を覆って、肩に寄りかかってきた。


「ガラスの中にいるのはサクラが自分の意志で完全に"成れ果て"にならないように止めているんだよ。でも、もう無理だろう」

 母さんには魔法少女の鍵が無かった。

 おそらく、足から生えている蔦の中にあるのだろう。


「ガラスが割れれば、母さんは完全な"成れ果て"になるんだな?」

「そうだ」

「・・・ごめん、カイト。美憂も、もうこの件に関わらなくていいから。本当に、本当にごめんなさい」

 アイリスが震えながら頭を下げた。


「アイリス、私、怒ってなんかいないよ」

 美憂が涙を拭って、アイリスに近づいた。


「お母さんに会えて嬉しい。どんな形でも、ね」


「美憂」

「お兄ちゃん」

 美憂がほほ笑んでこちらを見る。


「お兄ちゃん、ごめんね。私、お母さんのところに行ってくる」


 ジジ ジジジ

 

 美憂が足を鳴らすと、魔法陣が展開された。

 俺と美憂の間に分厚いシールドが現れる。


「美憂!!!」


 バチンッ


 シールドに触れると、簡単に弾かれた。

 どこで覚えたんだ? こんなシールドを・・・。


「やっぱり、お父さんとお母さんの子だから、魔法センスはあるみたい」

「美憂! 今すぐ戻れ」


「ごめん、どうしても私、お母さんと話、してみたかったんだ。お兄ちゃん、私、お兄ちゃんのこと大好きだよ。嘘ついちゃって、あまりいい妹になれなくてごめんね」


「いいから戻れ!」


「ばいばい」

 笑ったまま手を振って、部屋から出て行った。


「カイト、待って。今、私がシールドを解くから」

「いい。俺がやる」

 前に出ようとしたアイリスに、手を挙げて止める。

 ルピスを出して、思いっきりシールドに突き刺した。


 ザアアァァアアア


 シールドに穴が空いて、周りから溶けていった。


「妹が兄に勝てるわけないだろうが!」


「あ、私も行く!」

 勢いよく部屋から飛び出した。


 美憂は、もう廊下にはいなかった。

 速度強化の魔法を付与しながら、元来た道を戻っていった。

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