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魔法少女戦争 ~ロストグリモワールを俺は知っている~  作者: ゆき
第九章 心恋

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136 吸収する"成れ果て"

 アイリスは中庭に咲いた黒い薔薇を壊すのを手伝ってほしいという。

 自分が引き付けている間に、ルピスで斬るように言ってきた。


「カイトの剣は不思議な力があるでしょ?」

「不思議な力っていうか、まぁ、コードとか埋め込めるから、扱いやすいが」 

 アイリスがモニターに『黄金の夜明け団』の地図を映していた。


 思った以上に広く、部屋は使用する魔術ごとにわかれているのだという。

 中庭を囲むような丸い筒のような構造になっていた。


「あの花は、魔法少女だけじゃない。彼女の主たちも取り込んでる」

「魔法少女たちは・・・元に、戻れないの?」

「美憂・・・」


「だって、魔法少女の姿は残ってたから・・・もしかしたらっ・・・て。友達が名前を呼んだら、正気に戻ったって・・・昏睡状態の人が目を覚ました奇跡だってあるでしょ?」

 美憂が椅子に座って、両手を握り締めていた。


「どうしてそこまで『黄金の夜明け団』に肩入れするんだよ」

「・・・お母さんならどうするか。最期まで諦めないと思うの。私、お母さんの記憶、あまりないけど、お母さんに関係ある場所で、残酷なことしたくなくて・・・」

「・・・・・・」

 頭を掻く。


 美憂を連れてくるべきじゃなかったな。

 想像できたことなんだが・・・。


「ふふ・・・本当にサクラと同じこと言うのね」

 アイリスが目を細めて笑った。


「え・・・・」

「美憂、甘い考えは捨てろ。"成れ果て"になった魔法少女は戻らないんだ。神でも戻すことはできない」

 ソファーの背に寄りかかる。


「いいの。『黄金の夜明け団』は『黄金の薔薇団』の頃から禁忌魔法ばかりかき集めてたから、いつかはこうなると思ってた。そこまで驚きは無いの」


「なぁ、アイリス。どうして、俺たちの母親は"成れ果て"にならなかったんだ?」


「それはね・・・・」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ



「地震!?」

 急に地面がうねるように振動した。


「わっ」

 美憂を抱えて、飛び上がる。

 一部の結界が剝がれそうになっていた。


 アイリスがすぐに窓まで飛んでいき、結界を解除した。


「は・・・? 動いてる? のか?」

「まずい・・・力が集まったんだ。花が・・・」

 黒い薔薇が花びらに魔法少女を浮かび上がらせながら、動き始めた。

 蔦を足のように地面につけて、ゆっくりと前進しながら中庭から出ようとしているのが見える。


 アイリスが窓を開けた。

 鬱々とした魔法少女たちの穢れが、空気に混ざっているのを感じる。


「あっ、あの子たち・・・魔法少女だよね?」


「どうして? 全員、結界の張られた部屋にいるように言ったのに」

 アイリスが青ざめていた。


「っ・・・連れてくるよ」

「美憂!」

 美憂が俺の腕を振り払って、窓から飛び出した。黒い薔薇に杖を向ける魔法少女2人のほうへ飛んでいく。

 慌てて後をついていった。


「2人とも、逃げて、早く!!!」

 美憂が叫ぶ。


「勝手に行動するなって言っただろ」

「でも、放っておけないよ」


「貴女、誰?」

 2人の黒髪の魔法少女が美憂と俺の顔を交互に見る。


「リリカ、この人如月カイトじゃない? 七陣魔導団ゲヘナの・・・」

「あぁ、なるほど。アイリスが裏切って、連れてきたってこと。私たちの仲間を殺したよそ者を『黄金の夜明け団』に入れたのね」

 2人とも、かなり魔力が乱れている。


 "成れ果て"の穢れが入り込んでいた。

 魔法少女の鍵にはひびが入っている。



「リリカ、ナノハ」

 アイリスが水色の髪をふわっとさせて、着地した。


「お願い、ここから離れて。部屋から出ないようにって言ってたでしょ?」


「私、聞いたの。『ナノハ』って呼ぶ声」

 ナノハが杖を持ち直した。


「はっきりと聞こえる。『リリカ』って声」


 キィアアアアア


 黒い薔薇に埋め込まれた魔法少女たちのうめき声が聞こえる。


「ほら、私たちのこと呼んでる。ね、リリカ」

「うん。アイリスは仲間じゃないから聞こえないんじゃないかな?」


「!!」

 リリカが目を吊り上げて、アイリスを見る。


 2人の背中には黒い靄のようなものが見えた。

 自分の魔法少女の鍵にひびが入っていることにも気づいていないようだ。


「だ、駄目だよ」

 美憂が両手を広げて2人の前に立った。


「2人とも、取り込まれちゃうんだよ!」

「よそ者は黙っててくれない?」


「・・・・でも! おかしいよ!」

「邪魔するなら、あんたも殺すから」

 ナノハとリリカの焦点はあっていなかった。


「美憂、そこから離れろ」

 ルピスを出して、美憂の後ろにいるナノハとリリカに刃先を向ける。


「おにい!」


「命令だ。どけろ」


「っ・・・・」

 声を大きくすると、美憂がびくっとして2人から下がった。

 アイリスが一歩踏み出そうとして、足を止める。



「リリカ、行こう!」

「うん」

 ナノハがリリカの手を引いて、黒い薔薇に駆け寄っていった。

 花びらに魔法少女の姿が浮かび上がる。


 キィアアアアアア


「ハルナ! やっぱり"成れ果て"なんか嘘だよね」

「これも作戦だよね。私たち、仲間だもん。親友だもんね」


「だって、私たちは禁忌魔法を扱う魔法少女だもの。神に届く魔法をいくつも知ってる」


 2人が杖を握り締めたまま、縋るように呼び掛けていた。


 キィアアアアア


 ハルナと呼ばれた魔法少女が笑顔を見せていた。

 両手が現れて、2人を迎えようとしている。


「アレ、幻聴でも聞こえるのか?」


「『黄金の夜明け団』には、あの黒い薔薇からあふれる言葉が聞こえるの。私も聞こえる」

 アイリスが歯を食いしばって耳を塞いだ。


「もう! 聞きたくないのに!」


 シュルシュルシュル


 ガシッ


 黒い蔦が2人を縛った。


「一緒に行こう・・・・」

「私たち、みんなといれば怖くない。怖いモノなんかないもんね」

 杖を落としたにも関わらず、2人の表情は嬉しそうだった。

 体から溢れるような穢れを発している。


「っ・・・・」


 ズズ・・・

 

 ハルナが消えると同時に、2人の魔法少女も花びらの中に吸収されていった。

 沼に落ちていくように静かで、悲鳴も上がらなかった。


「あ・・・・」

 美憂が鼻を押さえてふらつく。


「大丈夫か?」

「私・・・・穢れがわかったよ。おにい・・・魔法少女の最期って・・・みんなこうなるんだよね。お母さんも・・・」

 美憂を抱きかかえる。

 まだ、穢れはさほど多くないようだ。


 精神的なダメージのほうが強いのだろう。


「アイリス、一度美憂を休ませたい」

「わかった。この黒い薔薇もすぐに動けるわけではないと思うから」

 アイリスがツインテールを後ろにやる。


「何をやっているんだい?」

「!!」


 アイリスが驚いたような表情をして固まった。

 後ろから声をかけてきたのは、顔の皺の多い60代くらいの男だった。


「パパ・・・」


「部屋から出ないようにと・・・まったく、自由になったら、好きなように動くようになったね。意志表示ができるようになるのは嬉しいが・・・あ、そっちはタツキとサクラの子供か」


「え・・・・」

 美憂が虚ろな目で、パパと呼ばれた男を見ていた。


「この"成れ果て"をどうするつもりだ?」

「目つきの悪さは父親そっくりだな。ただ、中身は魔神サマエルだ。これから起こることも、予測できるんじゃないか?」


「どうして知ってる?」

「はははは、神ならなんでも知っているだろうが」

 腹にどうしようもない苛立ちを抱えているのを感じた。


 アイリスが男に駆け寄っていく。


「パパ! カイトと美憂には何もしないで」


「はははは、アイリスが悲しむようなことをするわけないじゃないか」

 男がアイリスの髪を撫でる。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


「・・・・・・」

 話している間も、黒い薔薇はどんどん大きくなっているのがわかった。

 普通の魔法少女なら、既に穢れているはずだ。


 美憂を早く安全な場所へ連れていきたかった。


 でも、こいつ・・・。 


「アイリスも如月美憂も魔法少女だ。穢れには弱い。この場からいったん離れようか。アイリス、目に見えなにくいが、かなりの穢れを負ってるね」

「うん・・・・・」


「ついておいで」

 男が背を向けて、中庭の反対側のドアのほうへ歩いていった。


「カイト、パパは大丈夫だよ。優しいの。カイトのお父さんとお母さんのことも知ってるよ。一緒に来て。美憂が・・・・」


「・・・そうだな」

 美憂の魔法少女の鍵を見て、男とアイリスの後をついていった。

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