134 シスコンは治らない
部屋の中にラベンダーのハーブティーの香りが漂う。
リリスがカップを持ったまま立ち止まった。
「え? 待って。『黄金の夜明け団』・・・って」
「あぁ、シロナに転移魔法を展開してもらう。アイリスが向こうのロックを解除してくれるって言ってるからな」
自分の部屋で道具を確認しながらリリスと話していた。
「俺のいない間、七陣魔導団ゲヘナを頼む。"成れ果て"が広まれば、魔法少女は全滅する」
「カイトが行くなら、私も行くよ。私、"成れ果て"には耐性があるから」
「リリス、なんでお前は"成れ果て"にならないんだ?」
「え・・・・・」
リリスの目が一瞬泳いだ。
少しかがんで、カップをテーブルに置く。
「魔法少女戦争で敗者となった者は、徐々に魂だけが彷徨う"成れ果て"になる。魔法少女になった以上、ずっと魔法少女でいることはできない。どうして、リリスだけは何もないんだ?」
サファイアのような瞳を見つめる。
「もしくは、もう・・・・」
「そ・・・それは、不死の呪いのせいだよ。きっと、私は必ず魔法少女戦争に出なければいけないようになってるから」
「・・・・・そうか」
息をついて、モニターを出した。
指を動かして、所有する魔法石を確認する。
「ラベンダーのハーブティーだよ。美味しいから飲んで」
「ありがとう」
バタンッ
「おにい!!」
「美憂」
走って来たらしく、美憂の呼吸が少し浅くなっていた。
「・・・俺には部屋に勝手に入るなって言っておいて・・・」
「シロナから聞いた。『黄金の夜明け団』のところに行こうとしてるんだよね? お父さんのいた『黄金の薔薇団』のあったところだよね?」
「・・・・!?」
正直、シロナが美憂に話すと思っていなかった。
シロナなりの抵抗なのか?
「おにいが行くなら私も行く!」
「駄目だ。今回は魔法少女は連れて行かない。リリス、俺が留守にしている間、七陣魔導団ゲヘナを頼む。メイリアにも伝えておいてくれ。ティナとファナとアクアが欠けて、フィオーレたちは不安定だろうからな」
美憂から視線を逸らす。
「・・・・うん。何かあったら連絡して。あ、こっちに転移したときスマホは・・・」
「ほら、ちゃんと持ってるし、繋がるようにした。安心しろ」
「よかった。こっちでも、何かあったらすぐ連絡するね」
「あぁ」
スマホを見ると、リリスがほっとしたような表情を浮かべていた。
「おにい!」
「言っただろ。魔法少女は連れて行かない。美憂の願いであってもな」
「っ!!!!!!!」
手をひらひらさせると、美憂が顔を真っ赤にした。
「おにいの馬鹿! 連れて行ってもらえないなら、一生口きかないから!」
「は・・・? 一生・・・・?」
思わず固まった。
リリスがハーブティーに口をつけてこちらを見る。
「おにいのご飯も作らない! 絶縁するから!」
「えっ・・・!? ぜ、ぜつえん・・・?」
「・・・・」
「いや、口きかないって、そこまですることじゃ・・・」
「もう知らないからね! 私の言うこと全然聞いてくれないんだから!」
「お・・・大げさな・・・本当に危険なんだよ。仕方ないだろ?」
「私だってお父さんとお母さんのこと知りたいもん」
「だから、そうゆうのじゃなく・・・」
「フン」
なんとか収めようとすると、美憂がそっぽ向いてしまった。
「・・・・・」
リリスに目で助けを求めたが、難しいと手を振られた。
美憂を連れて行くのは危険だ。
耐性があるとはいえ、魔法少女だからな。
連れていくべきではない。
でも、絶縁されるほうがきつい。
一生、口をきいてもらえないなんて・・・想像するだけで辛い。
「わ、わかったよ。美憂も連れていく」
「本当?」
美憂がころっと表情を変えた。
「でも、ちゃんと俺の言うことは聞けよ!」
「うん! あ、メイリアに話して準備してくるから待っててね。あ、研究室に行ったほうがいいよね?」
「え、あぁ・・・うん」
「じゃあ、後でね」
切り替えが早すぎる。
さっきまでの表情が嘘みたいに、満面の笑みを浮かべて、部屋から出て行った。
バタン
部屋のドアが勢いよく閉まる。
「リリス、何か言いたそうだな」
「本当にシスコンだよね。電子少女アイリスが言ってることが、罠だとは思わないの?」
「万が一罠だとしても、問題ない。最悪の状況も想定していくからな」
足を組んでハーブティーを一口飲む。
「それにアイリスはメイリアの石化を解く方法を知ってた魔法少女だ。電子世界での知識も豊富。探りを入れたいのもあるんだ」
「なるほど」
リリスが口に手をあてる。
「言っておくけど、美憂は普通の魔法少女よりは穢れにくい、でも、"成れ果て"にならないわけじゃないからね」
「重々わかってるよ。あー、美憂を危険な目に合わせたくないんだけど、絶縁はないよな」
頭を抱えた。
「相変わらず、妹ちゃんには弱いよね。ま、カイトらしいけど」
リリスがふふっと笑って、座り直していた。
「七陣魔導団ゲヘナは必ず守るから安心して行ってきて。でも、ちゃんと連絡してね。これで・・・」
テーブルに置いたスマホを指す。
「あぁ。リリスには任せっきりだな。正直、今ここを離れるべきじゃないのはわかってるんだよ。でも・・・」
「魔法少女全員が"成れ果て"になったら、私だって勝てない。カイトは間違ってないから大丈夫」
「・・・・・・・」
モニターを出して、肩の力を抜く。
「あ、この魔法陣を使うならルビーの隣はサファイヤのほうがいいよ。防御魔法の魔法陣だよね?あと、電気に強いトルマリンも持ったほうがいいかな?」
「・・・そうなのか?」
「うん。経験上ね。あと、アメジストとエメラルドも持ったほうがいいかな。クリアクォーツは状態異常を回避しやすくなるから、カイトは大きめのをもったほうがいい」
画面を指す。
魔法石の一覧を見ながら、リリスがいろいろアドバイスしてきた。
時折、他愛もない話を挟むと、リリスが楽しそうに笑っていた。
如月タツキが『黄金の夜明け団』に何を残してきたのかはわからない。
母さんに関する何かもあるのだろうか。
美憂の刺激になるようなものが無ければいいけどな・・・。
『サマエル、本当に行くのか?』
『『黄金の夜明け団』の拠点ってわかるの?』
聖堂に行くと、クリフォトの魔神が冥界の門の前に集まっていた。
「向こうがゲートを開ける。転移魔法陣があるから問題ない。しばらく空けるから今まで通り好きにやってくれ」
『カマエルがいなくなったっていうのに。エリンって子そんなにかわいかった? 私のほうが可愛いと思うんだけど。ね?ね?』
『・・・・・・・』
アスタロトが見上げると、ベルフェゴールが呆れたように無視していた。
『そうそう。カマエルが抜けた後、魔界の門は開きっぱなし。いいのかー?』
ベルゼブブが魔法陣を覗き込みながら言う。
「別に問題ないだろ。セフィロトの神々もしばらく来ないだろ」
『適当だね』
「今更魔界の者を魔界に呼ぶのも面倒だからな。あいつら自由だし」
ベルゼブブがそれもそうかと言って、魔法陣から離れた。
「じゃ、俺の留守の間、適当に頼むよ」
『ねぇ、三賢のリリスのことなんだけどさ・・・・』
バアルが腕を組んでこちらを見てくる。
『あのまま放っておいていいの?』
「・・・別にいいだろ。言いたいことは大体わかってる」
『!』
低い声で言うと、バアルが目を丸くした。
『はぁ・・・。サマエルってば忘れてるのかと思っちゃった』
『人間に染まってるけど、中身は魔界の王サマエルだ。そんなわけないだろ』
タウミエルがバアルをたしなめていた。
クリフォトの魔神たちに背を向けて聖堂を出ていく。
冷たい風が頬に吹き付けた。
デウスエクスマキナとリリスは間違いなく同一人物だ。
デウスエクスマキナと話したかったが、あの歯車の部屋はデウスエクスマキナしかキーを持っていないのだろう。
シロナに探してもらったが、このゲームのどこにもそれらしき場所は見つからないのだという。
でも、デウスエクスマキナは、また俺の前に出てくるはずだ。
絶対にな。




