133 モブと主役
魔法少女たちの主は、まばらに転移させられてきていた。
特に、規則性は感じられない。
ラインハルトが転移させられてから7時間後、2人が転移させられていた。
主が戻ってくると、ほとんどの魔法少女たちはほっとしたような表情を浮かべていた。
アクアとフィオーレとリルムでさえ、ラインハルトが戻って安心したらしい。
ルナリアーナの主、来栖まりなも強制的にログインさせられた。
魔法少女といる気はないようだ。
ルナリアーナと一緒にいたくないと、別の部屋に閉じ籠っていた。
研究室に向かっていると、ちょうど着いたばかりできょきょろしている剣士と目が合った。
ミモザという少女の主だった。
「ん、アルバスも戻ってたのか」
「僕のこと覚えてたんですね・・・」
17歳くらいの青年で、気の抜けた声で言う。
「そりゃ、把握してるだろ。七陣魔導団ゲヘナの仲間なんだから」
「仲間・・・ですか。僕は元々陸軍第一部隊に所属していて、何もしないのに残ってしまったんですよ」
自虐的に笑った。
「死んでいく仲間をたくさん見ました。でも、ミモザが僕を守ったんです。本当であれば、僕がミモザを守らなきゃいけなかったのに」
「・・・・・・」
「力のない僕が、生き残って、戻ってきてしまった」
言いながら微かに声が震えているのがわかった。
「ゲームなら、僕は完全にモブキャラですよ。魔法少女戦争が始まって、ミモザと剣技を磨いていたときは何者かになれるかと、淡い期待を持ってしまいましたが・・・」
俯いて息をつく。
「特別な能力開花もなく、逃げてばかり。ミモザに頼りっきりで」
「逃げ切るのも才能だけどな」
「あはは・・・ミモザもモブが主じゃなきゃ、七陣魔導団ゲヘナで、7人の魔法少女の一人になれてたんじゃないかって・・・。あ、いえ、カイト様のことは、尊敬してます。魔法少女たちをここまで導いた英雄であり、このゲームの主役ですからね」
「・・・・・」
「すごいですよ、本当・・・」
水色のしなやかな髪をかき上げて、壁に寄りかかった。
「モブキャラか・・・」
「はい。僕はモブとしても微妙かもしれません。主役にはなれないって、初めからわかってるんです。どうあがいて、才能には、敵いませんから」
背筋をピンと伸ばしてから、頭を下げる。
「あ、無駄話で時間を取らせてしまい、申し訳ございません。では、失礼・・・」
「英雄か・・・・」
乾いた笑みが漏れる。
「アルバスがモブなら、俺は主役じゃない。悪役だ」
「え?」
「主役はどこにいるんだろうな。ありがとう、面白い話が聞けたよ」
「あ・・・・」
ポケットに手を突っ込んで、アルバスの横を通り過ぎて行った。
研究室に鍵をかける。
シロナがこちらを振り返った。
『カイト様、お帰りなさいませ』
モニターが4つ開いてあり、1つはロック解除に使われている。
「魔法少女の居場所も、地図も全て書き換えられたのか」
『そうですね。カイト様がいなくなり、魔法少女のみんなが魔法少女アカデミアに飛ばされたときに、強制ロックがかけられました。どの解除キーを生成しても解けません』
「だろうな」
息をつく。
『デウスエクスマキナ・・・という神はどんな神なのでしょうね。ネットの情報には機械仕掛けの神とありましたが、すごい知識量です』
シロナが胸に手をあてる。
『・・・魔法少女アカデミアに飛ばされたとき、みんないなくなったのですが、私だけここに残っていました。追い出されなかったのは、デウスエクスマキナが私をAIだと判断したからですね』
「さぁ、あいつの選別は適当だろ」
『はい・・・』
シロナの隣に座る。
『私は魔法少女にはなれないのですね。わかっていましたが・・・・レベッカも魔法少女アカデミアに行ってしまい、少し・・・そうですね。これが寂しいという感情なのでしょうか』
「シロナも正式に契約すれば、魔法少女になれるよ」
シロナの頭を撫でる。
「魔法少女になりたいか?」
『カイト様はどうしてほしいでしょうか?』
「本音を言えば・・・悪い、シロナには本物の魔法少女になってほしくない」
『それは・・・どうしてでしょうか? 人間になっても、私の処理能力は思いますよ? レベッカがそうですから』
「違うよ・・・魔法少女は、残酷な運命を持つんだ。選択できるなら、誰にも魔法少女になってほしくない」
『・・・・・?』
シロナが首をかしげていた。
少しリリスに似ている。
『・・・承知しました。カイト様が言うのなら正式に魔法少女にならないほうがいい、と判断しました』
「まぁ、あまり、機械的になるなよ。希望くらいは言ってくれ。人間の感情をそぎ落として創った覚えはないからな」
『もしかして、口説いていますか?』
「飛躍しすぎだ」
笑いながら、椅子に肘をついた。
『冗談ですよ』
シロナが力を抜いて、笑みを浮かべた。
『ご報告です。アイリスへの接続が可能となりました』
「!?」
『正確には向こうからのアクセスが頻繁に来ておりました。カイト様と話がしたいとのことです。繋いでもいいですか?』
「いいよ。頼む」
シロナの指が動く。
正面の画面を大きくして、コードをいくつか打ってロックを解除していた。
「アイリス」
画面に水色の長い髪をふわっとさせたアイリスが現れる。
ゆっくりと目を開けた。
『カイト!』
切羽詰まったような表情で、画面に張り付く。
「珍しいな。そっちから連絡してくるなって言ったのに」
『お願い、助けて!!!』
「ん?」
『ま・・・魔法少女アカデミアで魔法少女たちが集められたときに・・・魔女になった子たちがいたのは知ってる? カイトたちは”成れ果て”って呼んでるんだよね?』
目を潤ませながら言う。
「知ってる。落ち着いて話せって。俺たちの仲間も、1人穢れを祓えなかった魔法少女がいたからな・・・・」
『パパが『黄金の夜明け団』に魔女を集めてるの!!』
「は・・・・?」
背筋がすっと冷たくなった。
シロナも動きを止めて、アイリスを見上げる。
『魔法少女アカデミアで穢れを纏った魔法少女を何人も連れてきた。彼女たちこそ、世界を変える存在だって・・・』
声を絞り出していた。
「そんなことしたら『黄金の夜明け団』の魔法少女たちは・・・」
『みんな自我を失いつつある。”成れ果て”になった魔法少女もいる。でも、私、魔女になりたくない。誰かを穢す存在になりたくないよ・・・』
「!?」
『パパがどうして変わってしまったのかわからないの・・・こんな・・・魔法少女にこんなことするパパじゃなかったのに・・・』
しゃくりを上げて泣き始めた。
「アイリス、鍵を出せ」
『はい・・・カイト・・・私、壊れかけてる?』
震える手で鍵を見せてくる。
魔法石はオパールのような輝きを持っていたが、今にもヒビが入りそうだった。
放っておくと、アイリスは穢れを纏うことになるだろう。
「まだ大丈夫だろうが、時間の問題だな。そこから抜け出せるか?」
『できない・・・パパを・・・見捨てられないよ・・・・』
目を擦りながら言う。
「じゃあ、俺がそっちに行・・・」
『カイト様、駄目です』
シロナが俺の言葉を遮って、声を上げる。
『カイト様がいなくなったら七陣魔導団ゲヘナはどうなるんですか?』
「『黄金の夜明け団』は俺の父親、如月タツキが核となっていた組織だ。ろくな組織じゃないだろう。早めに潰しておくのが得策だ」
『いえ、許可できません。私はこれ以上話を進めるなら、アイリスとの接続も切ります』
『嫌・・・・お願い・・・』
「シロナ・・・・」
シロナの肩に手を置く。
『カイト様は優しいから、困ってる人を見捨てられなくて、助けようとするでしょう。でも・・・』
「いや、別に俺は情で動いていないよ。もし『黄金の夜明け団』の魔法少女たちが全員”成れ果て”になれば、数秒接触しただけで、多くの魔法少女たちが戦うことなく”成れ果て”になるんだ」
『・・・戦うことなくって・・・じゃあ、みんなが魔法少女になった意味は・・・』
「無くなる。”成れ果て”になれば、命も願いも、全て無駄になる」
『!!』
「増えれば増えるだけ、”成れ果て”になる確率は広まる。速度は時間が経つほど、速くなっていくだろう。最悪、今いる魔法少女が、戦うことなく、全員”成れ果て”になる可能性だってあるんだ」
『・・・・・・』
シロナがキーボードに手を置いたまま固まる。
アイリスが涙をぼろぼろ流していた。
『黄金の夜明け団』が何をしようとしているのかはわからない。
でも、奴らの目的を止めなければいけないことだけは確かだった。




