131 魔法少女の先
「ファナ!」
医務室のドアを開けて、眠っているファナに声をかける。
「僕の治癒魔法が効かないんだ」
アクアが両手を見ながら息をつく。
「全然、起きないの・・・何度も声をかけたんだけど」
「ティナは大丈夫なのか?」
「起き上がると少しだけ眩暈がするから・・・このままだけどね」
アクアがティナの傍にハーブティーを置く。
メイリアがファナの魔法少女の鍵を見つめて息をついた。
リルムがメイリアの顔色を窺っている。
「・・・アクア、フィオーレ、リルムは何ともないのか?」
「え? うん、僕は特に・・・」
「あたしは全然」
「私も・・・たまに頭はズキズキするけど、ハーブティー飲んだらよくなるから、疲れが溜まったのかな?ってくらいで・・・」
フィオーレが軽くこめかみを押さえる。
「そうか。3人は今すぐ部屋から出て行ってくれ」
「ど、どうして!?」
「理由は言えない。美憂が料理してるから手伝ってやってくれ」
「でも・・・・!」
アクアが不安そうにファナのほうを見る。
「3人とも、ごめんなさい。私もちょっと、サマエル・・・じゃなくてカイトと話がしたいの」
「・・・・わかった。ファナとティナを・・・よろしくね」
「あぁ」
メイリアの言葉に、3人が顔を見合わせて医務室から出ていった。
「ねぇ、ルナリアーナと同じこと言うのね」
ティナが横になったまま言う。
「ルナリアーナもファナと私を見るなり、医務室から出ていくように言った。どうゆうことなの?」
「穢れだよ」
「穢れ・・・? ごほごほっ・・・」
「無理しないで」
ティナが咳き込むと、メイリアが慌ててティナの背中を摩った。
「メイリア、ファナは戻る見込みがあると思うか?」
「魔法少女の鍵を見て。魔法石にひびが入ってる。たぶんもうすぐ・・・」
メイリアが深刻な表情で言う。
「そうか」
ファナの額に手をあてる。
「ファナ、ここで”成れ果て”になるか時空間に閉じ込めて”成れ果て”になるか、どっちを選ぶ?」
「待って! 何!?」
「ファナは不死身だから殺せない・・・選択肢は2つしかない」
奥歯を噛んだ。
「何言ってるの!?」
「ティナ!!」
ガタン
ティナがメイリアが治癒魔法を唱えている途中で、ベッドから転がり落ちた。
「”時空間に閉じ込めて”って・・・ここから追い出すってこと!?」
ファナの前に座り込む。
「・・・違うよね・・・だって、ファナの主もカイトでしょ? 何か・・・違う意味だよね?」
「いや、他の魔法少女と接触ができないよう、魔法少女戦争が終わるまで閉じ込めるんだ。ファナは穢れが強い。じきに”成れ果て”になるだろう。エリンの舞も届かない位置にいたから浄化できなかったんだな」
「・・・もしかして、後から”成れ果て”になる魔法少女も多いかもね」
メイリアが顔をしかめる。
「戦う前に”成れ果て”になるなんて・・・今回の魔法少女戦争はめちゃくちゃね」
「ったく、デウスエクスマキナも残酷な仕掛けを用意するよな」
ため息交じりに吐き捨てる。
「どうゆう意味?」
ティナが胸に手をあてて、肩を揺らして呼吸をする。
「・・・穢れとか”成れ果て”とか死ぬとか、よくわからない。ちゃんと説明して!」
「魔法少女戦争は魔法少女たちが戦っていくだろ? もう1000年以上も前から続いてきたものだ」
「それが・・・何?」
「主が『ロンギヌスの槍』を手に入れることができなかった場合、又は主を失って生き残ってしまった魔法少女がどうなるか知ってるか?」
ティナの目を見つめる。
「・・・・・」
震えるように首を振った。
「”成れ果て”になるんだ。魔法少女は既に自分の肉体が無いから、魂だけが狂ったように闇を彷徨う存在だ。穢れは伝染して次々と他の魔法少女から魔力も、正常な判断を奪っていくんだよ」
「!!」
”成れ果て”は”成れ果て”を呼ぶ。
「”成れ果て”になれば、次第に人型を保てなくなり、魂の穢れに沿った何かになるんだ。エリンは元々女神だったから、ヒトの形を保てたけどな」
「・・・・・・」
「大体は魔女、悪魔や妖怪と呼ばれる類のモノになる」
「魔女・・・・」
ティナがベッドに寄りかかりながら顔を上げる。
「まだ理解できない・・・。じゃあ、カイトと契約していないルナリアーナは? カイトが勝ったら”成れ果て”になるってこと?」
「仲間なら問題ないの」
メイリアが柔らかい口調で補足する。
「『ロンギヌスの槍』は持ち主の心を見ることができる。存在を知らなかったり、本当は憎んでいたり、無関心だったり、何らかの壁があると『ロンギヌスの槍』は守らない」
「守らないって?」
「魔法少女が”成れ果て”になっても、放置するってことだ」
ほとんどの魔法少女は、魔法少女戦争の先を知らないまま契約する。
魔法少女で勝つことも死ぬこともできなかった者の話だ。
知っている者は、何らかの形で、身近に魔法少女がいた場合だろう。
ルナリアーナみたいに、な。
「ふふ・・・こうゆうとき、死ねないのって不便ね。私は死んだっていいのに」
「ファナ!」
「・・・魔力が安定しなくなっちゃった・・・これは相当やばいのね」
ファナが苦しそうにしながらうっすら目を開ける。
「ティナ、私から・・・離れて・・・メイリア、ティナを・・・」
「うん・・・・」
「きゃっ」
メイリアがティナを魔法で浮かせて、隣のベッドに下ろした。
「動かないで」
「っ・・・」
メイリアがティナの周りに結界を張る。
「ファナ・・・」
「私の穢れは・・・大体8割ってところね。まだ完全に”成れ果て”にならないのは、まだ、前回魔法少女戦争勝者の加護が残ってるからかしら・・・」
ファナが自分の魔法少女の鍵を見つめながら言った。
「カイト、ごめん。私、ここまでみたい。一応プライドがあって・・・”成れ果て”になって、仲間を穢したくない」
「・・・あぁ」
「私に自我があるうちに閉じ込めて。本当は殺してほしいところだけどね」
瞬きをすると、一滴の雫が零れた。
「待って!」
ティナがメイリアの結界越しに、声を絞り出す。
「お願い! ファナは、裏切り者の私を受け入れてくれた。許してくれた・・・失いたくない友達なの・・・時空間に閉じ込めるなんて・・・・」
「ティナ」
「ファナ! 一緒に最期まで戦おう。だって、今”成れ果て”になってないでしょ?」
ティナが目に涙を浮かべてファナに懇願する。
「私には・・・七陣魔導団ゲヘナには、ファナが必要なの!」
「ふふ・・・私にそんなこと言ってくれる友達が・・・できるなんて、ね。お兄ちゃんが聞いたら・・・驚くかしら・・・」
ファナの意識が朦朧としているのがわかった。
人差し指を動かして、ロストグリモワールを出す。
「悪いな、ファナ」
「私が自分の力を見誤った。でも、カイトの結界の中なら、このまま"成れ果て"になっても安心ね」
「俺たちが勝ったら、魔法少女戦争は終わらせて、”成れ果て”は全員助けるよ。三賢との約束だからな」
「うん」
メイリアが力強く頷く。
「ううん・・・・たぶん、できないよ」
ファナが額に汗を浮かべて、少し体を起こす。
「お兄ちゃんも同じことを言ってた・・・でも、できなかったから」
「俺ならできる。結界の中で”成れ果て”への進行を遅らせる」
「私のお兄ちゃんを越えられるの?」
ファナの体が浮く。
ザァッ
「当然だ。そうじゃなきゃ、七陣魔導団ゲヘナの王は名乗れないだろ?」
「あ、そ・・・」
ロストグリモワールを空中に浮かべて魔法陣を展開した。
「じゃ、期待してるわ」
ファナがふっとほほ笑む。
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時空間への扉を開く。
長い瞬きをして、指を動かす。
ロストグリモワールのページがぱらぱらとめくられていった。
シュンッ
ファナの体が魔法陣の中に吸い込まれるようにして消えていった。
ロストグリモワールを手に取って、閉じる。
「嫌、嫌、ダメだよ。ファナがいないと勝てない。どうして・・・」
「ティナ、落ち着いて」
「ファナじゃなく、私が穢れればよかった。私はみんなを裏切り続けていたのに・・・」
「!?」
ティナの指先に黒い穢れを感じた。
バッ
「あ・・・・」
「ティナ、ファナは前回の魔法少女の勝者なんだから」
メイリアが手を伸ばすティナを強引に抱きとめた。
「少し休ませてあげて。カイトが勝利したら、きっと元に戻せるから」
「うぅっ・・・・ファナもノアもいなくなって・・・仲間がどんどんいなくなるのよ。私・・・裏切り者の私ばかり生き残っちゃって、なんて言えばいいかわからないよ。私、自分が嫌、大嫌い」
「・・・・・・・」
「ファナとやっと信頼できる仲間になれたのに・・・こんなのってないよ・・・」
取り乱すティナを見るのは初めてだったかもしれない。
堰を切ったように泣きじゃくっていた。
ロストグリモワールを握り締める。
メイリアがティナの髪を撫でて、子供をあやすように、何度も大丈夫だと言い聞かせていた。




