130 セレーヌ城への帰還
「とりあえずセレーヌ城に戻らなきゃな」
「うん。でも・・・・この教室を離れるのはちょっと寂しいね」
フィオーレが名残惜しそうに教室を見渡す。
机と椅子が均等に並ぶ、ごく普通の学校の教室に近かった。
「学校ってこんなに楽しかったんだね」
「制服気に入ってたんだけど、これじゃ魔法少女戦争で戦えないもんね」
リリスがくるっと回って見せた。
「見て、似合うでしょ? カイト」
「もう何十回も聞いたって」
「だって、制服は着納めなんだもん。セレーヌ城に帰ったら、また黒いローブを着なきゃ」
リリスはローブのほうが見慣れているから、制服だとなぜかコスプレ感が否めない。
「リリスはローブが一番合ってるって」
「本当? カイトがそういうなら、早くローブに着替えたいな。実は制服だと魔力制御しなきゃいけないから、結構難しくて・・・」
ころっと表情を変えていた。
「この制服気に入ってたのに・・・」
ティナが俯きながら、制服のリボンをいじる。
「仕方ないわ。私たちは魔法少女なんだから、ね。ティナも行こう。みんなに挨拶してたら、帰れなくなっちゃうよ」
「・・・うん・・・」
フィオーレがティナに声をかけていた。
ティナが重い足取りで後をついてくる。
魔法少女の鍵を握り締めてため息をついていた。
「ね・・・ねぇ、待って。貴方は、『魔法少女アカデミア』になる前の『ロストグリモワール』ってゲーム作ったんだよね?」
魔法少女の一人が駆け寄ってきた。
「そうだよ。だから、なんだ?」
「魔法少女戦争を止めるゲームに上書きできないかな? 私たち、戦いなんかしたくなくて、ここでみんなと幸せに暮らしたい」
「昨日まで友達だったのに、急に敵になるなんて飲み込めなくて」
「そう! 私たち友達になったの。私、ティナと同じ寮の部屋でいろんな話をして、楽しくて・・・ずっとこの日々が続かないかなって思ってて」
次々魔法少女たちが集まってくる。
入り口が塞がれた。
「わ・・・」
リリスが勢いに押されて、一歩下がった。
「ゲームマスターだった"如月カイト"様だったら、できるかもしれないよね?」
縋るように潤んだ目でこちらを見上げた。
「まぁ、俺はどちらかというと、魔法少女戦争否定派だ」
「それなら!!!」
「・・・・でも、できない。お前らは魔法少女の契約をした時点で、戦う運命にあるんだよ。逃れることはできない。逃れようとすれば、永劫に苦しむことになる・・・悪いな」
「・・・・・・・」
「どいてくれ」
強引に人をかき分けて、教室から出ていく。
「リリス! 私、リリスとも戦いたくないよ!」
「ごめんね、みんなと学校生活できて幸せだったよ。すっごく楽しかった」
リリスが小さく呟いて、背を向けた。
「でも、次会うときは、敵になるから・・・」
凛とした口調で言う。
「・・・・・・・」
魔法少女たちがどうゆう決断をしたのかはわからない。
出て行った後もしばらく、魔法少女戦争の話し声が聞こえてきていた。
部屋のドアを閉めて、読みかけの本を手に取る。
部屋はセレーヌが綺麗にしていたのか、追い出された時のままだった。
無事、セレーヌ城に戻ってきたが、魔法少女たちの表情は浮かない。
ぼうっとしながら、時折、しくしく泣く者もいた。
ノアがいなくなった七陣魔導団ゲヘナは、ぽっかり穴が開いているように思えた。
詳細を詰めよられたが、誰にも話していない。
ノアの許可なしに、魔法少女研究機関の存在を明かしたくなかった。
3日後、魔法少女戦争が再開する。
でも、口を開けば、魔法少女アカデミアでの思い出話ばかりだった。
みんな、戦意喪失しているようだった。
デウスエクスマキナは、戦意を喪失させたかったのか?
魔法少女のリリスは、デウスエクスマキナを知っているのだろうか。
トントン
ドアが開く。
「あ、”ウソツキな”おにい、やっぱりここにいたんだ」
「美憂・・・」
美憂がドアを開けて、開口一番に胸を貫いていく。
「悪かったって」
「ま、今回は・・・・じゃあ、後でおにいが夕食作って。私、ビーフストロガノフが食べたい」
「はいはい。作りますよ、なんでも」
美憂が少しニヤッとした。
機嫌が悪いピークは去ったようで、ほっとしていた。
「何の本?」
「まぁ、歴史書だよ。ローマとかそっちのほうのな」
「相変わらずだね」
ソファーで寝転がって本を読んでいると、美憂が覗き込んできた。
「美憂は魔法少女アカデミアが無くなって寂しくないのか?」
「寂しくないよ! だって、メイリアがいるもん」
「あ・・・そ・・・」
美憂が隣に座って足を伸ばす。
「・・・カマエル、消えちゃったんだよね。おにい、辛いよね?」
「別に辛くはないよ。奴にとって満足いく最期だったからな」
ページを一枚めくった。
「ただ、魔界のやつらは驚くかもな。ゲート開きっぱなしだし、閉めるのも奴の仕事だったからな」
「魔界の住人がセレーヌ城に住み着いてるから、魔法少女はなかなか来れないんじゃないかってメイリアが言ってた」
「確かに個性が強いからな・・・・あ、美憂はうかつに近づくなよ。特にバアルとかアスモデウスとか、一切口をきくな」
「なんで?」
「・・・・教育に悪い」
「教育?」
美憂が少し不服そうに言う。
「それより、どうしてずっと元気ないんだ?」
「えっと・・・さっき、寂しくないって言っちゃったけど・・・本当はね、友達と戦うのは辛いかもしれない・・・。同じ寮の子は、隣町の学校に通ってたんだって」
「じゃあ、戦闘のときには後方に回ってろ」
「おにい」
「美憂が辛い思いをすることはない」
バッ
「あ」
美憂に本を取られた。
「もう!! おにいはすぐそうやって結論に持っていこうとする。こうゆうときは、『辛いね』とか『大丈夫だよ』とか寄り添ってほしいのに」
「全然わからん・・・」
「おにい、よくそれでモテるね」
「別にモテてるわけじゃないって」
体を起こして、ソファーに座り直す。
「・・・今回は、ほとんどの魔法少女が戻ってこれたのは奇跡に近いんだよ。エリンがいなければ・・・悲惨なことになっていた」
窓の外を見つめる。
「花音とエメ・・・大丈夫かな・・・?」
「・・・まぁ、花音にはナナキがいるからあまり不安になることないよ」
「おにい、もしかして花音を避けてる?」
「は?」
「まさか、好き避け・・・? ついに、おにいに恋心が・・・?」
美憂が頬に手をあてて、顔を赤らめていた。
「何の話だよ」
本に栞を挟んだ。
リリスと花音は一緒にいないほうがいい。
俺とメイリアの暗黙の了解だった。
ナナキがリリスから離したのかもしれないしな。
「花音は・・・・」
バタンッ
「カイト!」
アクアがドアを勢いよく開けた。
美憂が言いかけた言葉を飲み込む。
「ファナが目を覚まさないんだ」
「!?」
「心拍数は正常、呼吸も正常なのに魔力の乱れがひどい。夜中が特に・・・リリスがカイトを呼んでって」
「・・・わかった。今すぐ行くよ」
本を置いて立ち上がる。
「ねぇ、おにい、やっぱりビーフストロガノフは私が作るよ」
美憂が髪を耳にかける。
「美憂」
「その代わり、ちゃんと残さず食べること。約束してね」
美憂が目を細めてほほ笑んだ。
「・・・・・」
美憂は覚えていないだろうけど、本当に母親に似ている。
特に、気持ちを押さえて話すときの表情がそっくりだった。
母さんは心配性で、息を引き取るまで美憂のことを気にしていた。
今の美憂を見たら驚くだろうな。
「ん? どうしたの?」
「いや・・・ありがとな。夕食、楽しみにしてるよ。アクア、ファナは医務室にいるのか?」
「うん。ティナも眩暈がするんだって。だから、ファナの隣のベッドで寝てるよ。エメが残していった薬草があるから使おうと思うんだけど・・・」
アクアと走りながら会話していた。
背筋が冷たくなる。
焦りからか、医務室が遠くに感じられた。




