121 ノクス=リベルとノア=リベル
「無駄だよ、防御魔法なんか効かないよ?」
「っ・・・・・」
「私は大昔の魔法少女でもあるからね」
ノクスが指を動かすと、ロータスの防御魔法が解除された。
「魂の片割れ・・・?」
「そう、私とノアは2人で1人なんだよ」
「待って・・・」
ロータスがノアに近づこうとした。
手を挙げて止める。
「ノアから離れろ。まず、お前の素性を明かせ」
「さっき、魔神カマエルが言った通りだよ。契約した神を裏切り、魔法少女戦争から永久追放された魔女って呼ばれてるかな」
「ノクス・・・」
「ノア」
ノアが一歩踏み出して、ノクスに手を伸ばした。
ノクスが嬉しそうに、手のひらを重ねる。
「私が魔法少女の成れ果てになっても、自我を失わずにいられるのは、ノアがいるおかげ。ノアの魂が綺麗なおかげなの。本当にありがとう」
「でも、私は魔法少女じゃない。魔法少女研究機関の被験者番号・・・」
「ううん。魔法少女研究機関なんかどうでもよくて・・・ねぇ、こうしてると思い出せない?」
ノクスがノアの額に指をあてる。
「私は私が大好き。ノアが大好きよ。ね、私の記憶は私たちの記憶だよ」
「・・・・頭に映像が流れて・・・」
「共有してるの。本当はノアも覚えてると思うんだけどね」
― 剣-
キィン
「ノアを洗脳するなよ。ノアは俺たちの仲間だ」
俺とカマエルが同時にノクスに剣を突き付けた。
「カイト! カマエル!」
「私は私に会いに来ただけ。ノアが嫌がることはしない」
ノクスがノアから指を離す。
「お前がどうやって契約神を裏切ったのかは知らない。ノクス=リベルの契約神は確か、デウスエクスマキナだったな?」
カマエルが冷たい口調で言う。
「そう。私は魔法少女戦争が始まって間もない頃、デウスエクスマキナ様と契約した魔法少女だった」
「何をして裏切った?」
ノクスがノアの手をぎゅっと握って髪を耳にかける。
「ロストグリモワールを奪った」
「は? ロストグリモワールはメイリアが・・・」
「ロストグリモワールは3冊あるの。三賢のメイリアが持っていたのが1冊、石化が解けると同時に焼失したんでしょ? 1冊は私がデウスエクスマキナ様から奪った。あと1冊は、魔法少女戦争が始まる前に消えたって聞いた」
剣を持つ手に力が入る。
「ロストグリモワールが失われたから、神々は力失って魔法少女戦争から逃れられなくなったのかもね。ほら、盗んだ1冊はここにある」
ノクスが空中から1冊の本を出した。
表紙に魔法陣が描かれていて、底知れない魔力が宿っているのを感じた。
「これがロストグリモワール最後の1冊。失われた神と魔術の本。失くさないでね」
すっと俺の手元に落ちてきた。
手に取ると、びりっと電流が走るような感覚になった。
「どうして俺に?」
「私にはもう必要ないから。それに、ノアは貴方のことが大好きみたいだしね。きっといい人なのね。ノアが好きなら、私も好きよ」
「ノクス・・・それは・・・」
「私に隠し事はできないんだから」
ノクスがノアの頬を突いて、ほほ笑む。
「ノア!」
「・・・カイト・・・勝手で、ごめん・・・」
ノアがぼうっとしながら、こちらを見上げる。
「私、本当にノクスなんだと思う。ノクスも私なの。私、罪があったから、スプンタ・マンユ様が神様でも、魔法少女になれなかったんだね」
「心配しないで大丈夫。私がいるから、これからは何も怖くないよ」
ノクスがノアの髪を撫でる。
「私たち2人なら魔女を越えられる。私たちの世界を作れる。魔法少女の成れ果てじゃなく、初めての魔女。最初の魔女」
キィンッ
「現実を見なよ。俺はいつでも君を魔界に落とせる」
カマエルがノクスの首に剣を近づけた。
ノクスは動揺していない。
「カマエル」
「君の言うことはただの妄想だ。だって"死者の楽園"にいる時点で、君は死者なんだから。魂は黄泉にある、黄泉がえりは許されない」
「ノアが生きてるから、私は死者にならないの」
ノクスがカマエルのほうを見てほほ笑む。
「反対に、ノアは私が死者だからノアも死者ね」
「訳のわからないことを・・・何千年と魔界のゲートキーパーをやってるけど、君みたいな魂は初めてだ。デウスマキナの件も含めて、審判にかけるべきだね」
『審判』という言葉を強調した。
「・・・・・」
カマエルを無視して、ノクスがノアの頬に口づけする。
「あ・・・・」
「ほら、魂が同じ。ノア、自分でもわかったでしょ?」
ノクスがノアの声で、語りかける。
「カマエル、ありがとう・・・カイト、ごめんね。ノクスの言ってること、本当だよ。思い出してきた。私はデウスマキナ様の指示で、ノクスと魂を分けた」
「よかった。思い出してくれて」
「離れろ! ノアは七陣魔導団ゲヘナの魔法少女だ。ノア! 目を覚ませって」
バチッ
剣が弾かれた。
六角形のシールドは古代魔法の組み合わせだった。
ノアとノクスの足元に、魔法陣が展開される。
「・・・ノクス、私たちどうするの?」
「儀式を行い、一人の魔女になる。向こうに行ったら2人で話しましょ。話したいことがたくさんあって、私も聞きたいことがいっぱいあるの」
無邪気に話していた。
「魔法少女研究機関は・・・追いかけてこない?」
「魔法少女研究機関は、ただのカモフラージュ。私はノアの両親の言うことを聞きながら、ずっと、ずっと隠れて見てたんだよ・・・見ていることしかできなかった」
「ノクス?」
「死者である私は地上に出られなかった。でも、こうして生者であるノアと接触する時を信じて待ってた。だって、魂は片割れの魂を引き寄せるものだから」
ノクスがノアを抱きしめる。
「これからはずっと一緒。ノアにばかり辛い思いをさせてごめんね」
「・・・・・・・・」
「ノア!」
ノアが顔を上げる。
「ごめん、ごめんね。カイト、私、行かなきゃ。ごめんね」
「ノアに代わって言ってあげる。『どこにいても大好きだよ、カイト』」
ノクスが目を細めた。
シュンッ
「は・・・?」
魔法陣が瞬時に発動して、ノアとノクスが消えていった。
空のカップがカタカタ揺れている。
「な・・・んだよ・・・これ・・・」
1冊のロストグリモワールを落としそうになりながら言う。
「あの感じなら、ノクスがノアに何かすることはないでしょ」
「そうだけど」
「大丈夫、大丈夫だよ」
ロータスが自分に言い聞かせるように声を震わせていた。
ノアとノクスはほとんど全てが同じだった。
ノクスの魂もノアの魂と共鳴しているのもわかった。
2人で1人という言葉がよぎる。
でも、根拠のない嫌な予感がした。
「ロストグリモワール・・・・・カマエル、この1冊と消失した1冊にについて何か知ってるか?」
「知らないよ。ヘカテーあたりに聞かないと」
「だよな」
「とりあえずハーブティーでも飲んで落ち着きましょ」
ロータスがキッチンのほうへ入っていった。
「ラインハルトなら・・・三賢のリリスなら何かわかるかもよ? 今は情報を整理して、ノアの行方を追うべきよ。冷静にならなきゃ」
「・・・そうだな」
手に力が入った。
ノアを守ると宣言したのに、結局何もできなかった。
「クソッ・・・・」
あのとき、ノクスに剣を突き刺してでも、ノアと引き剥がすべきだった。
ジジジジジジ ジジジジジ
『こんにちは。AIのルルです』
突然ルルがテーブルの上に現れた。
ロータスが覗き込む。
「妖精さん・・・?」
『AIです』
淡々と言いながら、モニターを出した。
『スプンタ・マンユ様との接続し、ノアが魔法少女であることを確認できました。魔法少女アカデミアに・・・』
『よ!』
スプンタ・マンユがモニターの中で手を挙げていた。
『ノアの気配が途切れましたね』
「・・・・・」
『ん? ノアが見つからないな。どこだ?』
「ったく、おせーよ」
苛立ったまま、感情をぶつける。
『遅いとはなんだ。そもそも、私が願いを叶えて魔法少女になったのに弾いたのが誤作動だからな。魔法少女機関は厄介だが・・・・』
スプンタ・マンユが何か察した表情を見せる。
『・・・・そうか、ここは"死者の楽園"・・・奴に会ったのか』
「知ってたなら、早く言えよ。ノアが連れていかれた」
ソファーに座り込んだ。
「クソが」
頭を抱えて項垂れた。
選択ミスだ。でも、ノクスを刺したらノアは・・・・。
『大罪人ノクス=リベルが来たんだな』
「そうだよ。つい数秒前までここにいたんだ」
電子の神スプンタ・マンユとルルにカマエルが事情を説明していた。




