120 リベルの姓
魔法少女アカデミアの様子は様々な魔法少女が配信していた。
見ている限り、主要配信者は56人。
後の魔法少女は、不定期に配信しているようだ。
魔法少女アカデミアの様子は時折リアルタイムで配信されていて、魔法少女たちが勉強したり、遊んだりしている姿が見られた。
SNSの配信ランキングはほぼ魔法少女が上位を独占している。
亡くなったイルアーニャの子供、ステラのふさふさした耳がたまにルナリアーナの配信に映りこんでいた。
配信ランキング1位はルカルカという、会ったことのない魔法少女。
イルアーニャと同じように、アイドルグループから脱退して、魔法少女になったようだ。
2位は花音、3位はルナリアーナ、4位はリリスと続いていた。
リリスは特にトークや魔法の説明が上手いわけではないが、魔法少女アカデミアでの圧倒的な強さで注目を集めているらしい。
「カイトー」
「ん? どうした?」
ソファーに寝転がってスマホを見ていると、ノアが声をかけてきた。
「そのランキング9位の子、私と同じ魔法少女研究機関の子だよ」
「しれっと爆弾発言するな」
「どうしてあの子はいいのに、私はダメなんだろう・・・」
ノアが横のソファーに座って、膝を抱えた。
「まだ魔法が使えない。魔力がわからなくなっちゃった」
「まぁ、深く考えるな。魔法少女戦争の仕組み自体ろくでもないんだからな」
「せっかく”死者の楽園”に来たんだから、もう亡くなった会いたい人とかいないの? はい、ハーブティー」
ロータスが明るく声をかける。
「さんきゅ」
「ありがとう」
「クッキーも美味しいから食べてね」
ローズマリーのハーブティーと、小さなクッキーを置いた。
「サマエルは知り合い多いでしょ?」
「俺とカマエルが行ったら、人間たちが突っかかってきて面倒なんだよな。生まれ変わらないで、いろんな不満をぶつけてくる」
「あはは、2人とも恨まれやすいもんね」
「カマエルはなぜかノリノリで戦闘に行ってるよ。昨日ひとつ決着したのに、また遊びに行ってる」
スマホをテーブルに置く。
「決着って誰かと戦ったの?」
「あー、こっちの話だ。大した話じゃない」
「?」
軽くむせそうになった。
手を挙げて、ノアの質問を適当に胡麻化す。
「そういえば、ラインハルトはどこに行ったんだ?」
「アリシアとデートだって」
「デート、素敵! いいなぁ・・・ここ、デートスポットたくさんあるもんね」
ノアが頬を手で包んでいた。
「いや、吸血鬼とのデートなんて・・・意味わかるのか?」
「ん? 普通のデートじゃないの?」
「そうね。アリシアの血を吸いつくしちゃうのかな。愛すれば愛するほど、2人の時間は短くなるもんね」
「どうゆう意味・・・?」
ノアが目を丸くする。
「血を吸い尽くすって・・・た、助けなくていいの?」
「そもそもアリシアは死んでる。体だって、肉体を精巧に模写した器だ」
ハーブティーを一口飲む。
「でも・・・」
「それにアリシアが望んでることなんだよ」
「望んでる?」
「そう。吸血鬼は愛する人を作ってしまったら、飢えと渇きに苦しんで、ラインハルトみたいに特定条件の魔法少女の血ばかり狙うようになる。でも、いくら捕まえて、飲み尽くしてもまたすぐ飢えてしまう」
ロータスが窓の外を見つめながら言う。
「吸血鬼は愛する人を作ったら、ずっと苦しむの」
「・・・じゃあ、ラインハルトはどうすればいいの?」
「愛する人を全て、食らい尽くす」
「食らい尽くす・・・って・・・・」
ノアが苦笑いしながら聞き返す。
「言葉のままの意味だ。肉をすべて食うんだよ」
吸血鬼族のことは、ロストグリモワールにも載っていた。
魔法少女戦争に乗じて、魔法少女の血を欲するのはラインハルトだけではない。
「アリシアはずっと待ってたんだろ? 生まれ変わらずに」
「そうゆうこと。生まれ変わったら、ラインハルトが求める自分じゃなくなっちゃうかもしれないって心配してたの。こうゆうチャンスがあってよかった」
ロータスが長い瞬きをした。
「そんな・・・」
「だから、今はそっとしておいてあげて。ラインハルトはもう回復してるから大丈夫。アリシアがすぐに自分の血を飲ませたから」
「・・・・・・・」
「しばらくは2人の時間を楽しませてあげて」
ノアが立ったまま、言葉を失っていた。
「そういや、ノアは死んだ人で会いたい人とかいないのか? 割と知り合いとかいるかもしれないだろ」
「・・・・えっと、いない・・・かな」
「本当に、誰もいないのか?」
「うん・・・家族は研究所にのめりこんでるし、殺しちゃった魔法少女に会ったら恨まれると思うし・・・そうだ、亡くなった仲間に会いたいかな」
ふぅっとため息をつく。
「リルムがここに来て、ミルムと会えればいいのにね」
「確かにな・・・」
バタン
「カイト!!!」
カマエルが勢いよくドアを開けて、入ってくる。
「なんだよ、また戦闘でも始まったのか?」
「エリンちゃんの配信者ランキングが11位になってるんだよ」
スマホを持って必死の形相をしていた。
「ありえなくない!? リリスが4位で、なんでエリンちゃんが11位なんだよ!」
「配信ランキングなんて流動的だ。リリスが人気なのは配信初めて間もないのに、強さが広まったから、物珍しさで集まってるんだよ」
リリスの非公式ファンクラブまでできていた。
強さや人間関係を考察する奴らまで現れている。
ネットは手っ取り早く信仰を集められて力になるが、色々と面倒だな。
「な・・・なるほど。それなら納得だけど。エリンちゃんはずっと配信してたみたいだし。これ、コメントはエリンちゃん見れないらしいね。ま、俺にはエリンちゃんとやり取りできるツールがあるからいいけどさ」
カマエルが早口で言いながら、スマホの壁紙を見ている。
配信中のエリンをスクショしたものだ。
「・・・ったく、お前だけだよ。ここで平和に過ごしてるのは」
「カイトだって、エレノアに会えて嬉しかったんじゃない?」
「エレノア・・・・って魔法少女?」
「誰? カイトの友達?」
「元魔法少女で、友達以上だよね? キスもしてたし」
「カマエル・・・」
「「どうゆうこと!?」」
ロータスとノアの声が被った。
「言うなって言っただろうが」
「リリスに言うなって言ったんだよ。ロータスとノアにはいいでしょ?」
カマエルがいたずらっぽく笑っていた。
「お前・・・」
「"死者の楽園"散策って、意外と楽しいね。見どころが多くてさ」
腕を伸ばしながら楽しそうにこちらを見ていた。
「カイト! どうゆうことなの? キスって本当?」
「カイトの叶わなかった好きな人・・・なの?」
ノアとロータスが前のめりになる。
「あーもう、この話は終わりだって」
「えー! ちゃんと・・・」
キィ・・・
ズズズズズズ
「!」
ノアが声を上げたとき、ドアがもう一度開く。
純白のローブに、逆さ十字架をつけた少女が立っていた。
「えっと・・・どちら様?」
ロータスが遠慮がちに近づいていく。
魔女に近い、沈むような魔力を感じた。
俺とカマエルが顔を見合わせて、立ち上がる。
「ノアは下がってろ」
「え・・・・」
ノアを後ろにやった。
「君はリベルの姓を持ってるよね? かなり昔の、魔法少女の成れ果て、強い魔女だ。契約した神を裏切り、魔法少女戦争から永久追放された巫女であってる?」
カマエルが少女に近づいて、ロータスに指で下がるように指示した。
「大体あってるよ。魔界のゲートキーパー、カマエル」
「ここに何の用?」
「私はノクス=リベル。そこにいる、ノアの・・・」
顔を上げると、ノアとそっくりだった。
魔力もよく似ている。
でも、沼の底に沈んだように冷たく、虚ろな目つきをしていた。
「魂の片割れ」
「!!」
ノアが何かを察したような表情をする。
ノクスが無表情のままノアを見つめていた。
ロータスがノアの腕を掴んで、防御魔法を詠唱している。




