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魔法少女戦争 ~ロストグリモワールを俺は知っている~  作者: ゆき
第八章 デウスエクスマキナ

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119 忘れられない人

 キィンッ


 エレノアの剣を瞬時に弾く。

 エレノアがすぐに俺を囲むように魔法陣を3つ展開した。


 ― XXXXXXXXXX XXXXX -


 天使語で詠唱する。

 内側から焦がすような、熱い魔力を感じて、一瞬だけ動けなくなった。

 

「動けないなら、魔力で押すだけだ」

 

 ドンッ


 息を吐くと同時に、エレノアが展開していた魔法陣が敗れた。

 すぐに剣を持ち直して、エレノアに振り下ろす。


 カンッ


「魔神の魔力を使うなんて、反則よ」

「魔神に喧嘩を吹っかけてきたのが、お前だろうが」


 キィン キィン キィン キィン


 剣が激しくぶつかり合う。

 エレノアの剣の軌道はよく覚えている。昔のままだ。


 軽く笑みが零れる。


「な・・・何笑ってるの?」

 エレノアが距離を取って、剣の魔力を整えていた。

 息を切らしながらこちらを警戒している。


「エレノアと出会ったときのことを思い出してきたんだ」

「へぇ・・・・・」

 エレノアと俺の間には、殺気が流れていた。


 どちらかの動きを伺っている。


「私は・・・・あまり覚えてないけど」

「孤児院だったな。まだ、魔法少女戦争が始まる前だ」

「ふうん」

 当時、俺たちは古びた孤児院で幼い日々を過ごしていた。


「重症のウサギを拾ってきて、死を待つだけだった時に、エレノアが来たんだ」

「魔神であるサマエルならすぐ治せたはずなのに」


「生まれ変わるたびに、記憶を忘れてるんだから仕方ないだろ? あの時、俺はただ、自分で連れてきたウサギの死を待つだけだった」


 正直、死を身近に感じても何も思わなかった。

 5歳のエレノアが泣いているのを見て、初めて悲しいということに気づいた。


「エレノアは傷ついたウサギに手を当てて、一瞬で治した」

「・・・・・・・・」


 エレノアが踏み切って、剣を突き刺そうとしてくる。

 すぐに左に避けてかわした。


 砂に足を取られて深く沈む。


 キィンッ


「!!」

 指を動かして、エレノアの剣の動きを止めた。

 

「思い出話を語って何になるの? 同情を引けるとでも思った?」

「俺がそんなことするように思うか?」

 エレノアの目の縁が赤くなっている。


「私たちは敵同士、子供の頃の話なんかどうでもいい・・・14歳になって、私は魔法少女になった。サマエルも三賢者の一人、リリスの主になったじゃない」

「エレノアは、同じ孤児院にいた1つ上の青年を主にした」


「そうよ。彼なら世界を平和に導いてくれるって信じてた。実際にそうだった・・・・後悔はない」


 言いながら、エレノアは俺の魔力から逃れようとしていた。

 少し力を緩めてやる。

 

「!」

 エレノアが動けるようになるとすぐに、波打ち際に下がっていった。

 水しぶきがエレノアの足元に飛び散る。


「でも・・・天寿を全うして、死んだときにね、全てがわかったの。ずっと昔からリリスと組んで魔法少女戦争で戦ってきたんでしょ?」

「そうだ、1000年以上前から続く、魔法少女戦争を終わらせるためにな」


「私たちがロンギヌスの槍を持っても、終わらせることができなかった」

 エレノアの瞳が揺れている。


「あの時、私たちが勝ったから・・・ロンギヌスの槍を手に入れたから、魔法少女戦争は終わらなかったの?」

「そうじゃない」


「サマエルに勝っちゃったから・・・リリスに勝ってしまったから?」


 ふわっと浮いて、エレノアの首に剣を突き付ける。


「違う」

「そうでしょ? だから、今でも魔法少女たちは命がけの戦闘を強いられてる」


 剣を下ろして、エレノアの涙を拭った。


「エレノアのせいじゃない」

「私とタクトはみんなの幸せを願っただけだった。でも、実際は・・・」


「エレノア・・・・・」

「・・・・・?」


 エレノアの顎に指をあてて、唇を合わせる。


「・・・・・!」


「俺は確かにずっとリリスが好きだ。人間に生まれ変わってから、リリスと出会えば必ずリリスを好きになる。でも、必ず決められた呪いじゃないんだよ。自分の意志だ」


「ど・・・どうして・・・・」

 エレノアの頬がどんどん赤くなっていく。


「な、なんのつもり!?」


「俺は一度だけ、リリス以外を愛したことがある。エレノア、君だよ。あの時は、出会った頃からずっと好きだったんだ。なんとなく魔力も異なる、俺とは生きる世界が違う、叶わないとわかっていた。でも・・・・」

 目を細めてエレノアの瞳を見つめる。


 忘れられなかった。

 遠い昔、孤児院で過ごした日々は、当時の俺にとってかけがえのないものだった。


 エレノアが中心で、いつも笑っていてくれたからだ。

 本当に花のように笑う少女だった。


「リリス以外で、唯一愛せたのはエレノアだけだ。だから、殺せなかった。どうしても、エレノアだけは殺せなかった。魔女にもなってほしくない、生きてほしかった」

「な・・・・・」


「代わりにリリスに、苦しみを与えることになってしまったけどな・・・自分勝手で悪いことをした・・・・。でも、今はもう、迷いはない。俺たちは魔法少女戦争の勝者になる」


 剣を握り締めた。


 エレノアが呆然とした後、はっと我に返る。


「ず、ず、ずるい! ずるいわ! でも、さっきのは卑怯よ!」

 顔を真っ赤にしたままこちらを指さす。


「今更・・・だ・・・だって、あのとき、何も言われたことなかった!」

「エレノアは恋も知らないガキだっただろうが」

「っ・・・せ、聖女にそんな感情が不要だっただけだもん。騙されないからね!」


「本当に、俺が騙してると思うか?」


「っ・・・・・」

 エレノアが目をウルウルさせたまま、剣を杖に変えた。


「もう・・・気が抜けたわ」


「生まれ変わらないのか?」

 人間たちのほうに視線を向ける。


「あんな奴らを率いて、死後の世界で何するつもりなんだよ。俺たちに復讐か? わざわざ喧嘩吹っかけてくるなんて、らしくない・・・」


 人間たちは俺とエレノアのほうをじっと見つめている。 


「サマエルが私のこと覚えてるかな?って」

「は・・・・?」


「・・・・・」

 エレノアが目を逸らした。


「なるほど、俺、両想いだったんだな」

「違うって! もう、サマエルなんか知らない!」

 背を向ける。


「待てって、あいつらをちゃんと連れて行けよ」


「もちろん」

「!!」

 エレノアが魔法陣を展開すると、純白の翼が現れる。

 どこにも穢れのない、純粋な魔力だ。


「まさか・・・・」

「私は天使なの。真名は言わない」

 こちらを振り返った。

 唇に人差し指をあててほほ笑む。


「マジかよ」

「全く、純潔を守る天使にこんなことするなんて。さすが悪魔ね」


「げ・・・ちなみにいつから天使なんだ?」

「言わない」


「性格悪いな。どっちが悪魔かわからないだろ」

「そうね・・・・・」


 エレノアが自分の羽根を見つめながら、少し沈黙する。


「ねぇ・・・・サマエルたちは悪魔って呼ばれることに抵抗はないの?」

「別に悪魔で構わないって。かつての信仰は消えて、形を変えて残っているならな」


「そっか・・・・・」


 忘れられた神々のほうが悲惨だ。

 書物にすら記載の無い神々は、徐々に消えて、存在できなくなってしまうんだからな。


「魔神は損するのね。サマエルもカマエルもいなくちゃいけない存在なのに」

「元々俺もカマエルも戦闘を好むから、人間の選択は間違ってないよ。破壊は得意だけど、治癒には向いていないしな」

 笑いながら言う。


「じゃあね」

「あぁ」

 潮風が通り過ぎると同時に、エレノアが浮き上がる。


「また、会える?」


「さぁな」

「本当に、相変わらずね。嘘でもいいから、会えるっていうものよ」


 エレノアがふっとほほ笑んで、人間たちのほうへ飛んでいった。

 ルピスを消して、海のずっと向こう側を見つめる。

 

「エレノア様!」


「・・・・・・」


 エレノアが人間たちに何を話しているのかは聞こえなかった。

 ただ、なぜか、人間たちの殺気が消えていくのを感じた。




「ねぇ、見間違いかもしれないけどさ」


 カマエルが後ろからぬっと顔を出す。


「カイト、エレノアとキスしてなかった?」

「リリスには言うなよ」

「マジで? ねぇ! どうしてアレが許されるの!? ねぇ!」

 カマエルがしつこく聞いてきた。

 適当にあしらう。


 波打ち際を歩きながら、遠い昔を思い出していた。 

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