118 XXXX年の魔法少女戦争の勝者
『カイト、私ね、花を咲かせる魔法を覚えたの』
「種から芽を出して花を咲かせたんだろ? さっきも聞いた」
『何回でも話したくて。あとね・・・』
「洗濯を一瞬でする魔法だろ? もう何十回も聞いた」
『だって、本に載ってないすごい魔法なんだもん。服着たまま洗濯できちゃうんだよ』
リリスがスマホの向こうで、嬉しそうに話す。
街を通り過ぎて海沿いを歩きながら、弾むようなリリスの声を聞いていた。
魔法少女アカデミアは気が抜けるほど、普通の魔法専門の学校のようだ。
学ぶのは戦闘だけではなく、基礎魔法に加え、数学や社会もやるらしい。
クラスメイトとも仲がいいと話していた。
親しくなればなるほど、魔法少女戦争に戻った時の落差が激しいのにな。
警戒しているのは、聞く限りファナくらいだ。
ルナリアーナは自分で作ったという服を見せてくれた。
「配信で見てるよ。魔法少女アカデミア配信。個人でもやってるだろ?」
『見てくれてるんだ。こっちからはリスナーの反応見えないんだけど、どう?』
「リアリティあって面白いって反応だな」
『そっか、リスナーには、私たちオンラインゲームのキャラみたいなものだもんね。キャラっていうと、不思議な感覚するけど』
「・・・・・・」
リリスは順応性が高い。
自分たちが人からどう見られているのか察するのが早かった。
「まぁ、今はあまり余計なことは考えるな。卒業しないと、魔法少女戦争に戻れないんだからな」
『わかってる。カイト・・・でも、私、これまでの魔法少女戦争の中で、今が一番楽しいかもしれない』
「は・・・?」
『自分の姿は魔法少女戦争に関わる人しか見えなかったから、すごく警戒しなきゃいけなかった。でも、この時代はこうやって人に自分を見てもらえる』
リリスが目を細めて、スマホの画面を拭いていた。
『私をはめる罠だったとしても、ね』
「何かあれば魔界の者がいる。必要以上に気を張らなくてもいいんだからな」
『ありがとう。あ、美憂がおにいによろしくって』
「・・・ハイハイ」
美憂はほぼ連絡してこない。
メイリアと繋ぐと横から顔を出す程度だ。
・・・別にいいけどな。
「元気でやってるならいいよ。じゃあ、またな」
『あ・・・カイト・・・』
プツン
ザアァア
スマホを消して、カマエルが座っている岩に近づいていった。
手には血の流れる剣を持っている。
波の音が大きくなった。
「カマエル」
「・・・人間ってさ、本当愚かだよね」
カマエルが赤い剣を見つめながら言う。
「神殺しを企む奴らがさ、死んでまで俺を殺そうとしてきてんの」
「"楽園"を拒む奴らか」
「そうだよ。昔、俺に殺されたことをまだ恨みに思ってるらしくてさ。わざわざここに来て、魂を入れた肉体を持って、俺に復讐したいんだって」
「誰かのせいにしなきゃ自分を保てない魂だ」
空中をなぞって、剣を出す。
「”楽園”なんかいらないんだろ」
「人間はこんなに醜いのに、エリンちゃんはどうして人間に優しいんだろ」
「さぁ・・・・」
人間たちが群れを成して、こちらに向かってくるのが見えた。
「女神だからじゃない?」
「なるほど。じゃあ、エリンちゃんには俺がこれからすること内緒ね」
カマエルが笑いながら、岩から降りた。
「お互い様だな」
「リリスは知ってるじゃん」
「あ、それもそうか」
”楽園”も退屈だからな。
「・・・・やっぱり、まだいたか」
「あいつらが悪魔の王サマエルと、断罪の悪魔カマエルだ! 人間のふりをしているが、俺の大切な者を奪った邪神だ!」
戦闘にいる鎧を着た奴が叫ぶ。
「私の家族を奪った悪魔! 聖なる裁きを与えるためにここに立ってる」
「俺もだ!!!」
「神が何もしないのなら、俺らが戦う!」
「今はただの人間、しかもガキだ! 奪われた命の重みを思い知らせてやる」
総勢50人ってところか。
カマエルが先に来て殺していたのは何人か知らないけどな。
「あの時死んだ俺たちとは違っ・・・」
シュンッ
「え・・・・?」
ザッ
「何が違う?」
素早く移動して男の胸を貫く。
カマエルが剣をくるっと回して、口笛を鳴らした。
「ひぃっ・・・」
「恐れるな。冷静になれ、俺たちにはゲームのバフがある」
「へぇ、どんな?」
「うぐっ・・・・・」
答える前に、カマエルが男の胸に剣を刺した。
きゃあああぁぁああああ
複数の女が、海に響き渡るような悲鳴を上げる。
2人の死体が光の粒になって消えていくと、周囲の動揺は瞬く間に広がっていく。
一気に防御態勢に入っていた。
「無鉄砲に来るなよ。さっき俺が倒した奴らを見なかったのか?」
カマエルが呆れたように言う。
「学ばない奴らだな」
「違う!」
前にいた青年が腹の底から声を上げる。
― 聖なる雫の輝き ―
ブワッ
光のドームのようなものが人間たちを包み込んだ。
「!?」
カマエルと同時に後ろに下がる。
「懐かしい力だな」
「え、そう? 俺、覚えてないんだけど」
地面の魔法陣が輝き、聖なる癒しの力と、防御力を押し上げていた。
圧倒的な聖なる力を持つ者が中心にいる。
「久しぶりね。サマエル」
白銀の髪を、赤いリボンで一つに結んだ少女・・・。
「聖女エレノア様!」
「下がってて。彼らはいくら人間だろうと束で殺せる相手じゃない。バフがあっても戦闘能力は高いんだから。みんなが復讐するなら、私が彼らを捕まえてからね?」
エレノアが柔らかくほほ笑む。
「エレノア様」
「はい、エレノア様。ご武運を」
人だかりが掃けていった。
「エレノア・・・」
「うわぁ、契約神、セラフィムの誰かだっけ? セフィロトの神だっけ?」
カマエルが軽く伸びをしながら言う。
「セフィロトのガブリエルよ」
「君がいるから、人間の態度が大きかったのか。なるほどねぇ」
「・・・・・・」
エレノアが息をつく。
長い杖の先には聖なる魔法石が10個埋め込まれていた。
「大昔の魔法少女戦争の勝者だもんな」
「失礼ね。ファナの前の勝者よ。そんなに昔でもないから」
時折、儚げな表情を見せる、美しい少女だった。
あまりの美しさに、人々の嫉妬や妬みを集め、無実の罪で殺されそうになっていたところを、ガブリエルが救い出して魔法少女になった。
でも、エレノアは人を恨んだことがない。
敵意を向ける人にさえ、愛を持って接していた。
「今度こそ決着をつけるから、サマエル」
「決着も何も、あの時勝ったのはお前だろ?」
「違う!!」
声を張り上げる。
エレノアは幼い頃から聖なる魔力に包まれていた。
おそらく、魔法少女戦争で勝つために生まれてきた魂だ。
「あの時・・・サマエルは毒を受けていたから、私の攻撃を避けられなかった。あんなの勝ったうちに入らない!」
目に涙を溜めながら言う。
ゆっくりと杖を剣に変えた。
「変なところに拘るな」
「・・・どうせ暇なんでしょ? じゃあ、私との戦闘に付き合って」
「いいよ」
「え、俺は?」
「そこらへんで見ててくれ。手は出すな」
「えー」
不服そうな声を出す。
「はぁ・・・せっかく盛り上がってきたところだったのに・・・まぁ、いっか。見学させてもらうよ」
「あぁ」
カマエルが砂地を蹴って、波打ち際に移動していた。
「うわっ」
周囲にいた人間たちが、声を上げてカマエルから距離を取る。
「手は出すなって言われてるんだ。何もしないよ。ったく、さっきはあれだけ威勢がよかったのに」
カマエルが剣を消して、手を挙げた。
「!?」
「まぁ、そっちが何もしてこなければ、だけどね」
「・・・・・???」
人間たちが少し混乱しているのが伝わってきた。
「カマエルはいいの? 2人で来てもいいのよ?」
エレノアが蒼い瞳をこちらに向ける。
「俺との一騎打ちを望んでいるくせに」
「・・・よかった。あのときのサマエルのままね」
エレノアと向き合う。
剣の魔力を整えていると、エレノアが一気に距離を詰めて、剣を振り下ろしてきた。




