122 取捨選択
『ノアのことは忘れろ。サマエル』
スプンタ・マンユは一通り聞いて、ため息交じりに話した。
「契約した神がそんなこと言うか?」
『契約した神だからわかるんだよ』
電子の神スプンタ・マンユが画面越しに話す。
『神は地にあらず、冷静に物事を見つめなければいけない。にしても、魔界の王であるサマエルが感情的になるのは珍しいな』
「今は人間だからな」
『どちらにしろ、お前の目的はなんだ? ノアを救うことか? 魔法少女戦争を止めることか?』
「・・・・・・」
『目的を見失うな。また繰り返すぞ』
スプンタ・マンユが低い声で言う。
『まぁ、ノアが”死者の楽園”でノクスと遭遇するのは誤算だった。デウスエクスマキナの考えはわからないけどな』
「ねぇ、デウスエクスマキナはどこにいるの?」
カマエルがソファーから身を乗り出していた。
『知らんが、お前らならわかるんじゃないのか?』
「人間になってからそうゆう勘所は鈍いんだよね。ま、俺はエリンちゃんが幸せそうならそれでいいんだけど」
腕を組んで椅子に座り直す。
ノアが消えていく姿が頭に焼き付いて離れなかった。
『サマエル、ノクス=リベルからロストグリモワールを渡されたんだろ?』
スプンタ・マンユが俺が握り締めていた本を見ながら言う。
「あぁ」
『失くすなよ。それが最後のロストグリモワールだ』
「当然だ・・・・・・」
メイリアが持っていたものよりも、重厚感がある。
人間であるノクス=リベルが持っていたこと自体、奇跡に近いな。
「な・・・失くしたらどうなるの?」
ロータスが不安そうに、モニターに話しかける。
『太古の神の存在は消える』
「え・・・消えるって、比喩とかじゃなくて」
「消えるだろうな。ロストグリモワールに残らないなら、信仰もない。信仰がない神は、消えるしかない」
「そんな・・・・」
ロータスの表情が曇った。
『ったく、最後のロストグリモワールがよりにもよって、魔界の王に渡るとはな』
スプンタ・マンユが頭を抱えた。
『これも仕組まれたことなのか・・・』
「ただの偶然だろ」
『ロマンがないなぁ。これだから魔界は根暗が多い』
「そもそも、電子の神がロマンを語るなよ」
瞼を重くして、スプンタ・マンユと話していた。
ジジ ジジジジ
『お時間です。では、接続を切らせていただきます』
突然、AIのルルが現れて、画面の前に魔法陣を展開していた。
「まだ話の途中だ。ノアとノクスのことも聞きたいしな」
『ノアが魔法少女ではなくなったという時点で、私の管轄外になりますから。これ以上の会話は無意味と判断しました』
ルルが淡々と話して、画面に手を置く。
『デウスエクスマキナも冷たいねぇ』
ルルが表情一つ変えずに、スプンタ・マンユのほうを見る。
『統制するのが私の役目となります。スプンタ・マンユ様が契約した魔法少女で、弾かれたのはノアだけと確認しております。他に異常はないと判断されました』
『ハイハイ』
スプンタ・マンユがため息をついた。
『では、失礼します』
『あ・・・』
バチンッ
スプンタ・マンユが何か言いかけたが、強制的に画面を切られた。
同時にルルも消えていた。
「まさかここでノアが離脱するとはな・・・追うか」
「どうやって?」
「魔法少女研究機関に乗り込む、とか・・・」
背もたれに寄りかかて、天井を見る。
葛城さんをうまく使うか。いや、俺が行ければいいんだけどな。
「サマエル」
「なんだよ。カイトって呼べっつってるだろ?」
「いや、サマエルに言うんだ」
「!!」
カマエルが強い口調で言って、胸倉を掴んできた。
「会った人間すべてを救うなんて無理なんだよ。神だろうと、な」
「わかってるって・・・でも、ノアは七陣魔導団ゲヘナの・・・」
「リリスをこれ以上苦しめないために、割り切れよ。魔法少女研究機関で、万が一カイトに何かあったら、リリスの魔法少女戦争は終了だ!」
語気を強めた。
カマエルが手を離して、視線を逸らす。
「少なくとも、俺は選んできた。泉の女神エリンちゃんを守るために」
「・・・!!」
はっとしてカマエルの目を見る。
「まさか、お前・・・知ってるのか?」
「・・・・エリンちゃんには言うなよ」
背を向けて、剣を出していた。
「あー、なんかむしゃくしゃするから、その辺の雑魚狩ってくる」
カマエルの魔力が乱れている。
剣を持って、部屋から飛び出すように出て行った。
エリンが女神から人間になった本当の理由を、知ってるのか?
「・・・・・・」
「サマエル、大丈夫?」
ロータスが目をうるうるさせて、顔を覗き込んでくる。
「そうだな・・・しばらく一人にしてくれ」
「待って」
立ち上がると、ロータスが手を握り締めてきた。
「サマエルは私が死んでからもずっと、魔法少女戦争で苦しんできたんでしょ?」
「だから、どうした?」
「わ、私に何かできないかって・・・思ってた。だって、私は魔法少女にならなかったから、魔法少女をたくさん見てきたけど・・・どんなに苦しんでるのか、わかってあげられなかった。どうしても心に引っかかっていて・・・」
言いながら、声が震えていた。
「あの時、魔法少女になればよかったなって。ずっと後悔してたの」
ロータスがぎゅっと目をつぶって、胸に手をあてる。
息をつく。
「ロータス」
「・・・?」
頬にかかった髪を耳にかけてやる。
「ロータスは十分やってくれた。昔も今も、魔法少女にならなくたって本当にありがとう。ラインハルトとアリシアの件も含めて、な」
「サマエル・・・」
「・・・あと一つ、しいて言うなら、カマエルが戻ってきたときにハーブティーを用意しててくれ。あいつもあいつで、抱えてるものがあるんだ」
「・・・・わかった」
ロータスが目を擦って、強く頷いた。
マントを羽織って、ロータスの家を出ていく。
空は晴れ渡り、たくさんの花の香りがした。
『あ、おにい?』
木の上でぼうっと、近未来都市を眺めていると美憂から連絡がきた。
スマホをスピーカーにして、枝に肘をつく。
「珍しいな。美憂からかけてくるなんて」
『おにいが寂しがってるからメイリアが連絡してあげてって』
「あ・・そ・・・・・」
相変わらずメイリアにべったりだな。
魔法少女たちと打ち解けているのはいいが・・・。
『浮かない顔してどうしたの?』
「リリスから聞いてるだろ? 今、”死者の楽園”ってゲームに閉じ込められてるんだ。暇なんだよなー」
『お母さんとお父さんは・・・』
「会ってない。会ったら美憂に真っ先に連絡するって」
『・・・そうだよね。すぐ、生まれ変わらないって聞いたよ』
美憂の周りがやけに騒がしかった。
リリスたちと同じ制服を着ていて、なんだか違和感があった。
「魔法少女アカデミアではうまくやれてるのか?」
『うん! 友達もたくさんできて楽しいよ。本当に学校みたいなの』
美憂が楽しそうに話す。
「SNSでも盛り上がってるらしいな。魔法少女アカデミアでの授業はこっちに配信されてるんだよ」
『花音もリリスも配信ランキング上位だもんね。エリンから聞いたよ』
授業中の花音の火、水、風、地の基礎魔法は洗練されていて美しかった。
2人は魔法少女アカデミアの配信が行われるようになって、さらに人気が出た気がした。
『ノアは? そっちにいるんだよね?』
「・・・まぁ、いるよ。寝てるけどな」
『早く来れるといいねってみんなと話してたの。ノアがいなきゃ、ゲームしてもババ引く人がいないって、アクアがぼやいてたよ』
「ふうん、そうか」
嘘をついていたが、適当に流した。
近くの落ちそうな葉を拾って、くるっと回す。
「それより、美憂、魔法少女アカデミア卒業しろよ。ちゃんと勉強はついていけてるのか?」
『大丈夫だよ! 私、魔法に関しては才能があるみたいなの。お母さんの血を引いてるからかな?』
「奢るなって。足元すくわれるぞ」
『もう、おにいは心配性だなぁ。ちゃんと卒業して魔法少女戦争に参加するって。わからない部分はメイリアに教えてもらってるから大丈夫だよ』
「またメイリアかよ」
『おにい、もしかしてやきもちやいてる?』
「んなわけねぇだろ」
『どうかな? おにいシスコンだもんね』
美憂がからかうように笑っていた。
美憂と他愛もない話をしていると、少しずつ気が紛れていった。




