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結婚経験ナシのおっさんが、いきなり聖女と令嬢と獣耳娘の保護者になったら  作者: 大橋 仰
②南都攻防戦 編

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あの日の約束

「たとえこの場をしのいだとしても、キサマら人間族はもう終わりなのですよ! 後はじっくりと高みの見物でもさせていただくことにしましょう、アハハハ!!!」

 遠い雲の彼方から、コズールイの高笑いが響いてきた。


 しかし、パイセンはそんな声には耳を貸さず、雲が手に届きそうな高い空の上から一気に急降下を始めた。

 降下しながら魔法を放ち、コズールイが放ったいくつかの光る球を消滅させている。


 流石はパイセンだ。俺には到底真似の出来ない芸当だよ。

 だってそうだろう。

 もし攻撃を外してしまった場合、自分の放った魔法が南都の街に降り注いでしまうのだから。


 自分の実力を考えた場合、出来れば落下する球の下側に回り込み、空に向かって魔法を放ちたい。

 人の命がかかってるんだ。効率が悪くても、安全性を優先すべきだ。



 コズールイが上空から放った10個程度の光る球は、四方八方へと広がりながら地上目掛けて落下している。

 上空では数センチだった球と球の間の距離が、地上に近づけば近づくほど数メートルから数十メートルへと、どんどん広がっている。

 コズールイのヤツは、本当に性格が悪いと思うよ。


 パイセンは、街が密集している北側へと向かっている。

 なら俺は、南側に向かうことにしよう。

 建物の数は少ないが、それでもそこには何人もの人が暮らしているのだ。

 コズールイの言葉が多少気になるものの、今は街を守ることに集中せねば。


 南側には4つ、光る玉が落下している。

 俺は落下を続けるそれらの球を追い越し、地上を背にして魔法を放った。

「よし、1つ命中!」


 水平方法に移動して、迫り来る2つ目の光る球の真下から、再び魔法を放つ。

「しまった! 外した」


 もう一度魔法陣を発動させ、今度は慎重に魔法を放つ。

「2つ命中!」


 残るはあと2つ。

 だが、それらは地上近くにまで近づいている。

 下に回り込む猶予はもうない。

 俺はその場から、ほぼ水平方向に魔法を放つ。

「3つ命中!」


 よし、あともう一つだ。

 だが最後の一つは…… もう地上に届こうとしている!


「ダメだ、もう間に合わない!」

 眼下に広がる街に向かって、一か八か光る球目掛けて魔法を撃ち下ろそうと思ったまさにその瞬間——


 地上から、何かの物体が光る球目掛けて発射された…… ように見えた。


 その物体がぶつかった瞬間、光る球は轟音をあげながら霧散した。


「助かった…… のか?」

 なんだろう、意識が朦朧としている。

 どうやら緊張がピークを突き抜けたようだ。


「大丈夫っスか!?」

 慌てた様子で、北の空からパイセンがこちらに近づいてきた。


 冷静になり、街の様子を眺めてみると、どこにも被害が出た形跡がない。

 流石はパイセンだ。

 いったいどれだけの球を始末したのだろう。


「流石はカイセイ氏っスね。一発も着弾させないなんて、たいしたモンっスよ」


「よく言うぜ。パイセンこそいったい何個潰したんだよ。それにしても、最後の一発は本当に助かったよ。正直、あれはもうダメかと思ったから」


「え? ナニ言ってんスか? ジブン、何もやってないっスよ?」


「またまた。過度な謙遜は嫌味に聞こえるぜ」


「……いや、ジブン、本当に最後の一発に関してはなんにもしてないんスけど」


 そう言って、パイセンは最後の一発が霧散したあたりに視線を向けた。

 パイセンにつられて、俺も視線を動かす。


 最後の球が砕け散ったあたりの地面を見ると、そこにはボロボロになった巫女服を身に纏った女性が大の字になって倒れていた。


 まさか、死んでないだろうな、と思ったがどうやら大丈夫なようだ。

 なぜ、大丈夫だとわかるかって?


 それは——


 その女性はドヤ顔で、俺たちに向け親指をグッと立てているのだから……


「アイツが前野っスよ」

 ハァー、っと息を吐きながらパイセンがつぶやく。


「前野って…… ああ、ヒビキのことか」


「アイツは高校時代、ソフトボール部でキャッチャーやってたんスよ。きっと体であの球を止めたんでしょうね。アイツ、肩はいいくせにメチャクチャのノーコンでね。だからまあ、天界から魔法をぶっ放さなかったのは懸命な判断っスね」

 そう言えば、パイセンは日本にいた頃、高校でソフトボール部に入ってたって言ってたな。


「じゃあ、ジブンは急いでコズールイを追うっス。カイセイ氏はあそこで優雅に横になってるバカを回収して、一旦女神様の元に戻ってもらえるっスか? まったく……天界を留守にしちゃいけないことぐらいわかってるだろうに、あのバカときたら……」

 口ではそう言いながらも、パイセンってば、とても嬉しそうじゃないか。


 そんなパイセンに、俺はちょっと気を使ってやることにした。

「俺が追うから、お前はヒビキのところに行ってやれよ」


「ハア? フードの男の正体はコズールイだったんスよ? アイツの潜伏先なら、アテがあるんスよ」


「実は高校時代の親友にお礼を言うのが、照れくさかったりするのか?」


「余計なこと言ってんじゃネエよ! また連絡するんで、それじゃあ!」

 そう言うと、パイセンは恥ずかしそうに西の空目掛けて飛んで行った。



 まあ、そう言うことならヒビキの元へ急ぐとするか。


 俺はヒビキが倒れている場所のすぐ近くに着地した。


 大の字になって倒れているヒビキのすぐ横から、彼女の顔を眺めてみると——

 目は閉じられているのに、なぜか口もとがヒクヒクと動いている。


 コイツ…… ニヤニヤしてやがる。


 これはきっと、『とてつもない重傷を負いながらも、なんとか仕事を成し遂げたゼ』という、演出なんだろう。


 そう言えば、ホニーが言ってたな。

 ヒビキは壊滅的に演技が下手クソだって。


 まあでも、ヒビキのおかげで助かったのは事実だから、ここは素直にお礼を言っておくかな、と心のこもった配慮を胸に抱いていると、彼女の唇がおもむろに動いたので耳を傾けてみると——


「フッ、後ろには逸さなかったゼ。アンタとの約束、ちゃんと守ったからね」


「いや、その…… 俺、そんな約束した覚え、ないんだけど」


 驚いた様子のヒビキが、くあっ、と目を見開いた。

「あれ? 羽伊勢のヤツは、いったい何処へ……」


「なんか、コズールイの後を追うって言って、行っちゃったんだけど……」


「え?」


「なんと言うか…… きっとソフトボール部時代、キャッチャーだったお前に、パイセンは絶対ボールを後ろに逸らすなって言ってたんだろうな。そんでもって、その約束、ちゃんと覚えてたよってお前が伝える心温まるシーンを邪魔したみたいで、ホント、申し訳ないって思うんだけど……」


 あっ、ヒビキの顔が真っ赤になった。

「いちいち解説するんじゃネエよ!ベ、別にそんなんじゃネエから!」


 どうやら、ヒビキの感情を害してしまったようだ。

 うーむ…… ここはフォローのひとことでも言っておくべきか。


「いやはや、流石は元キャッチャーだよ。キャッチャーは絶対、後ろにボールをこぼしちゃいけないもんな。なんだかキャッチャー魂を見せてもらったような気がするよ」


 おっ、ちょっとヒビキのご機嫌が直ってきた。

「アンタ、よくわかってるじゃないの。ひょっとして、野球経験者だったりするの?」


「え? 俺、元サッカー部だけど?」


「テメーなんか、トットと日本に帰っちまえ!!!」


 天界の関係者はみんな短気で、まったくもって困ったものだ。

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