世界で一番
「キサマたち、卑怯ですよ!」
先ほどから、コズールイが盛大に文句を言い続けている。
その一方で、俺はその文句に粛々と耳を傾けていた。
別にこんな文句など無視して戦闘を始めればいいのだが、俺は平和主義者なのでコズールイの言い分を聞いてやっているのだ。
別にコズールイの攻撃をくらうのが嫌だとか、そういうことじゃないからな。
俺は黙って聞いているのだが、
「ハア? ジブンは直接攻撃しないんだから、天界の禁忌に触れることはないんスけど?」
と、パイセンはイライラした様子で反論している。
「キサマたち天界の者は、人間族にばかり肩入れしているではないですか!」
まだまだ、コズールイの不満が収まる様子はない。
やっぱりこんな不満も無視して魔法を放てばいいのだが、俺は聞き上手な男と近所で評判の好青年であったため、もう少し話を聞いてやることにした。
決してコズールイの攻撃をくらって痛い思いをするのが嫌だとか、そういうことじゃないからな。
冷静な俺とは対象的に、パイセンはまた、
「人間族がどうこうって話じゃなくて、オマエが人命を軽んじる悪魔教徒の首魁であり、カイセイ氏がその悪魔教徒を討伐しようとしてるから、ジブンはカイセイ氏に協力してるだけっスよ」
と、大人気なくコズールイに言い返した。
「なにを抜け抜けと! 先代女神の頃から、天界の者どもは人間族の味方ではないか!」
相変わらず、コズールイは不満タラタラのご様子だ。
何度も言うようだが、こんなものはまったくもって無視して構わないのだが——
「何やってんだよ、このヘタレカイセイ! サッサと攻撃しろよ! ……っス!」
「わかったよ……」
どうやらパイセンは、コズールイにではなく俺に対してイライラしたみたいだ。
「仕方ない、やるか」
俺が腹を括ったその時、女神テラ様が俺の方へと振り返り、そして信じられない言葉をつぶやいた。
「カイセイさん、あまり無理しないで下さいね……」
なんと! テラ様がボケずに優しい言葉を口にされたではないか!
なんだろう…… テラ様がリアル女神に見える。
正直に言おう。
俺は………… ちょっと、いや、とても嬉しかった。だから——
「なに言ってんですか! こんなの無理でもなんでもないですよ! 見ていてくださいよ、女神様!」
思わずハシャイでしまいました。
そんな俺たちのやり取りを横で見ていたパイセンの唇が動く。
「まったく、女神様はカイセイ氏のテンションの上げ方をよく心得てるっスね。女神様は餌付けの腕前も超一流っスよ。カイセイ氏ってば、ホント、チョロいというか——」
「やめろよ! せっかく人がいい気持ちでいるんだから、余計なこと言うんじゃネエよ!」
「大変ヨ! またカイセイの顔が赤くなったワ! アンタ、やっぱり病気じゃないの?」
「……ねえホニー。それってワザと言ってるでしょ?」
「ええ、その通りよ! でもね、アイシュー、日本文化的には、ここで茶化すのが正解なのヨ!」
うっ…… 悔しいが、確かにこの場面では茶化された方が、精神的ダメージが少ないような気がする。
実はホニーって、気配りが出来る女だったりするのか?
……そんな訳あるかよ。
「……キサマは本当にそれでいいのですか? 人間族さえ良ければ、他の種族はどうなってもいいのですか?」
真剣な表情でコズールイは俺に言葉を向けた。
「おい、お前は勘違いしているぞ——」
ここで初めて、俺はコズールイに反論する。
「——女神様は人間族にだけ肩入れなんてしてないんだよ。女神様はすべての種族に対して等しく慈愛の心を向けておられるのだ」
前回のターンでは、魔人族が滅亡の危機に瀕したため、女神様は時間を巻き戻したんだ。
もし、本当に女神様が人間族だけの繁栄を望んでいたのなら、きっと天界から人間族の勝利を笑顔で見つめていただろう。
しかし、前回のターンの話をここでする訳にはいかない。
ならば俺は、素直な自分の気持ちを言葉にするだけだ。
「俺は女神様の盟友にして女神様の御心を最もよく知る者、岸快晴だ! 他人の命を顧みないお前などに、心優しい女神様のお心がわかってたまるものか!」
俺は声の限り叫んだ。
叫んだのだが……
「大変ヨ! 今度はなぜかコテラさんの顔が赤くなったワ! ねえコテラさん、あなた風邪でもひいたんじゃ——」
「ここは茶化さなくてもいいんだよ!」
と、俺が全力でホニーにツッコんだ直後、
「ああもう、いつもでもグダグダやってんじゃねえよっス! サッサと魔法を放ちやがれ! ……っス!」
と言いながら、パイセンが俺にインステップキックをぶちかましやがった。
哀れなサッカーボールと化した俺は、あえなく魔法防壁の外側へと転げ出された。
「イッテエなあ…… ボケたのはホニーなのに」
ブツブツと独り言を言っていると、
「カイセイさん! ホニーには後でちゃんと言っておくから、とにかく今は頑張って!」
という、アイシューの声援が聞こえてきた。
「わかってるよ。ちゃんと頑張るから、よく見てろよ!」
まったく…… アイシューも俺のやる気を上げる超一流の腕前を持っているようだ。
こうなったら、アイシューの期待に応えない訳にはいかないよな。
よし、今度こそアイシュー…… と、ついでにホニーにも、俺のカッコいいところを見てやろうじゃネエか!
そんなことを考えつつ、俺は下っ腹に力を入れ直した。
「さあ、魔法の撃ち合いだ! 覚悟しろよ、コズールイ!」
俺は覚悟を決めて、超級魔法の魔法陣を出現させた。
その直後——
「あっ!」
「えっ!」
「ウソっ!」
俺たちは一斉に驚きの声を上げた。
なんと、コズールイのヤツ——
窓をブチ破って逃げやがった!
なんだよ、アイツも空を飛べるのかよ。そんなの聞いてないぞ!?
「逃しちゃダメっス!」
そう言いながら、慌ててパイセンがコズールイの後を追い宙を舞う。
窓を出る手前で、何かに気づいた様子で後ろを振り向き、
「女神様、いや、コテラ様はそのまま魔法防壁の維持を!」
と、大声で叫んだ。
思わず『女神様』と言ってしまった自分に苛立ったのか、
「チッ!」
という言葉を残して、パイセンは窓の外へと飛んで行った。
パイセンの言葉を聞いた女神様。
その唇から、
「うっ……」
という音が漏れる。
よく見ると、人間族のメンバーの周囲に張られていた魔法防壁がなくなっている。
どうやら女神様も、パイセンの後を追おうとしていたようだ。
しかし、ここはよく考えてみる必要がある。
もし、コズールイがこの建物に魔法を放った場合、女神様の魔法防壁がなければここにいるすべての人間族の命が消し飛んでしまうではないか。
そのことを女神様も理解したようで、歯を食いしばり両瞼をきつく閉ざしたまま、再び魔法防壁を発現させた。
どうやら、コズールイの追跡を諦めたようだ。
「そんな顔しないで下さいよ、女神様」
俺の唇から、自然に言葉が流れ出た。
大丈夫です、わかってますよ女神様。
だって、女神様の願いは俺の願いなんですから。
俺の名前は岸快晴。
女神様の盟友にして女神様の御心を最もよく知り、そして………… きっと女神様をこの世界で一番愛している男だ。
俺は風魔法を使い自分の体を浮遊させると、魔力全開でパイセンの後を追った。




