第34話 文化祭2日目
「ねえ、もうやめてよ!」
「うるせえな、とっとと金を払えよ。」
なんだこの夢…?見たことない制服を着てるな。誰かに脅されているのか?
「も、もうお金はないんだよ!本当にもう許してよ!やめてよ!!」
「うるせえんだよ!久川如きが舐めてんじゃねえよ!」
俺‥?いや、違う。『元』の久川か。つまりこれは中学生の頃か?
殴られ、蹴られ、無理やり財布を取られて金を取られている。
「やめてよ!返してよ!それは卒業記念にお母さんがくれた…帰りに好きなゲームを買うための…」
「へー金持ってんな〜。」
「久川って優しいよねー!そのお金はあたしらが貰うから!」
「なに買おうかな〜!」
「返し…ぐぇ…!」
腹を蹴られる。明らかに悶絶して涙を流している。睨みつけると無理やり立たされて殴られている。大事な金を取られ、無力で情けなくて泣いている。
家に帰ると親が心配しているが久川は無理矢理笑みを作って部屋に入っていく。
「…もう嫌だなぁ。」
涙をポロポロと流す。
「どこか遠くへ行けたらいいのになぁ。」
いじめというのは悲惨だ。やり返したら負けと言われ、やり返さなかったらさらに虐められる。俺も元の世界で虐められたからな。けど久川、お前は羨ましいよ。親に心配してもらえて。俺なんて親に心配なんてしてもらえなかったよ。
だがそれでも久川は限界を迎えていた。机の上の薬を衝動のまま口に運ぶ。正しい判断ができているとは思えなかった。それでも衝動は止まらない。親に心配させたくないから隠してしまう。だが本当は助けて欲しい。この矛盾は俺にもわかる。視界が滲み、世界が遠のいていく。
ああ、確か俺、この時仕事から帰ってきて久々に酒買って好きなアニメ見ながら飲んで寝たな。この時に久川に憑依したのか。だがなぜだ?現実に近いが…ラノベのような異世界のこの世界と俺の世界は全然別だろうに。なぜ繋がったんだ?
そしてお前は‥お前の魂はどこにいるんだ?
バカみたいにうるさい音楽が流れる。アラーム設定しているからな。寝癖のひどい頭を掻きながら起きる。酷い夢だ。まさか本当の久川もいじめられていたとは思わなかったからな。
「クソッタレ…」
苛つきながら洗面所に向かう。バシャバシャと水で顔を洗い、用意されている朝飯を食べる。
トーストとスクランブルエッグ。普通なら最高の朝食だ。
「亮介、どうしたの?」
「お兄ちゃん?何かあったの?」
「いや…なんでもない…。」
夢のせいで気落ちしていたせいだろう。お袋と妹に心配される。
気を取りなおすために一気に食って部屋に戻り制服に着替えて家を出る。
まぁ文化祭を楽しむとしよう。気晴らしになるからな。
「はよざーっす。」
「おはよう、どうした?」
「元気ないわね?貴方らしくもない。」
部室に入ると平本先輩と清水先輩が先にいて準備していた。
昨日は1年生が担当だったから今日は先輩方が担当。2年生の2人は売るもののチェックを、瀬戸口先輩と園山先輩は棚に並べている。
ただ俺は気晴らしも兼ねて早く来ただけだ。
「まぁ悪夢を見ましてね。俺も手伝うっすよ。」
「悪夢?」
清水先輩がキョトンとする。
「嫌なことがあったら俺たちに相談しろよ?」
「ありがとうございます。まぁ大丈夫っすよ。」
苦笑いしながら作業を手伝う。さて、今日も売りますか。
今日は一般公開だからかなりの人が来る。昨日は5分の1、300個あるとしたら60個を売ったが今日は全部を売る。園芸部が育てた花、溶接部が作った台座の全てを売るつもりだ。
「さー買ってちょうだい見てちょうだい!綺麗な花と台座が売ってるよ!どんどん買ってちょうだいよ!」
「またバカやってるわね貴方。」
平本先輩のいつものため息を聞きながら販売する。丸めた新聞紙をバンバンと台に叩きつけ、威勢よく客を呼び寄せる。
「あら、去年とは違って面白い子がいるじゃない!」
「あらそこの美人な奥様、コスモスなんてどうでしょうどうでしょう!花言葉は乙女の真心!似合いまっせー!」
「あらやだ乙女だなんて!そこまで言われたら二つ買うわ!」
生徒の親らしき奥さんが買っていく。俺の啖呵が注目を集めてどんどん人が来る。みんな大忙しだ。
「お母さん、あたしも欲しい!」
「よし、そこの嬢ちゃんにはパンジーが似合うよー!お父さんも買ってってちょうだい!」
「よし!台座も買ってくか!」
「私はマリーゴールドを!」
「俺は台座買ってくよ!」
「毎度あり!」
飛ぶように売れていく。部員達が忙しそうにお金を受け取り商品を袋に入れて渡す。
「久川君のおかげで大忙しだよ〜!」
「本当に大変だよ!」
「知りませんな!」
列が途絶えないからこりゃ凄い。午前中に全部売れてしまうと思う勢いだ。
「はいはい商売繁盛商売繁盛!みんな買っていってちょうだいよー!」
「あいつほんと面白えな!」
「買おう買おう!」
客がどんどん集まり、わずか2時間で全てが売れた。札束と小銭がいっぱいだ。うへへ、こりゃ凄い。部室に戻り全員で喜ぶ。
「完売だね!いやーよかったよ!」
「説明書も好評だったしね〜。過去最高の売り上げだよ〜。」
「では先輩、最高の功労者の俺にボーナスを!」
「そうね、瀬戸口先輩、打ち上げで久川君にだけいいの食べさせましょ?」
「いや、食べ放題に行こう。あと久川君には五千円あげるよ。」
「あざっす!」
瀬戸口先輩が五千円をくれる。緑川先生と藤岡先生もは笑みを浮かべて納得して、売上の計算をする。溶接部と園芸部別々に放課後に打ち上げだ。
「やること無くなったから午後は自由行動でいいぞ。楽しんでこい!」
部員達全員が遊びにいく。さて、今日は何処を見てこようかな。
「昨日と同じようにいくか。」
「…はい!」
約束通り早坂さんと行動を共にしようとすると山口さんが俺の肩を叩いてくる。
「ねぇ、私と中村君もいいかな?」
「おう、いいぜ。」
「……はい。」
早坂さんが面白くなさそうな表情をする。許してくれ、山口さん笑顔だけど圧が凄いのよ。
けど拗ねてる早坂さん可愛い。
まだ10時半だからかなり自由だ。扉を開けようとした時、通知が来る。一ノ瀬からだ。
『もしよければ一緒に行動しない?柊君やいつものメンバーでいるんだけど。』
「一ノ瀬からだがどうする?」
「‥私はいいですよ。」
早坂さんはもちろんいいと言う。だが山口と中村は誰か知らないため首を傾げたから教える。
勿論一ノ瀬にも伝えて少しだけ待つとOKと返信されたので待ち合わせ場所に向かう。
先に到着した俺たちは自販機で飲み物を買い、談笑しながら待っているといつものメンバーがやってくる。
「ごめんなさい、少し遅れたわね。」
「………え?」
山口さんが一ノ瀬を見ると目が丸くなる。そりゃそうよ、一ノ瀬は美人だもんな。そして柊を見てなんかうっとりしてる。可愛いもんな柊。
「は、初めまして。山口綾乃って言います。よろしくお願いします!」
「な、中村悠馬です。よろしくお願いします!」
山口さんと中村が自己紹介と挨拶をする。一ノ瀬や平賀達も同じく自己紹介する。さて、移動するか。
「射的やりませんかー!全部に当てたら景品一等賞!」
「お、1等は欲しいプラモじゃん。」
とある教室では射的ゲームだ。結構いろんな景品があるからやることにする。
「久川君、頑張ってね!」
「1等とってよ!」
「任せとけ!」
山口さんと中村が応援してきて俺はサムズアップで返す。
さて、やりますか。まずは1発目を撃つと命中し、2発、3発…。的確に当てていく。
「おおっ!あいつすげぇ!」
「やばっ、1等取られる…」
どや?元の世界じゃわしサバゲーマーだったもの。射撃得意よ?とは言っても安ーいおもちゃの鉄砲だから弾道が逸れるのよなぁ。飛距離ないし。
最後の一つも倒して1等ゲット!
「あぁ〜!はい1等おめでとう」
「サンキュー、欲しかったプラモなのよん。」
プラモデルを受け乗りいつもの仲間達とハイタッチをする。
いやーやはりプラモデルはいいねぇ。ロボット、戦車、戦闘機、車、戦艦、色々あるもんなぁ。どれも組み立て甲斐がある。まぁロボット物のプラモしか買わんけど。
次はどこに行こう?と話すと隣の教室が喫茶店をやってきたから入る。少し休憩だ。
「中村君どんな漫画読んでるの?」
「僕は恋愛とか推理ものだよ。柊君は?」
「僕も恋愛物が好きなんだ。ラブコメ系とかも好きでさ。」
ふむ。男の娘と中性的男子の会話とは素晴らしいな。女子達がうっとりしながら見てるぜおい。
「み、見て、あそこの2人可愛くない?」
「うん、あれで本当に男子なのかな?すごく可愛い…」
小動物草食系男子ここに極まれり。男子ですら惚れる可愛さだ。素晴らしい。
「ところで、平賀君と島村さんって何処かで見たことある気がするんだけど‥」
「あ、うん。ほら、あの時…な?」
「う、うん。」
「あー!やっぱり!」
「ごめんなさい!ちょっと気になっちゃって!」
「いやいやいいよいいよ!気にしないでね!」
山口さんが平賀と島村のことを思い出して質問する。あの時一緒にいたもんな。2人は謝ると笑顔で許している。
「見た時に何処かで見たことあるよね?って思ってたんだ〜。まさか文化祭で会えるなんて!」
「それは俺もだよ。まさかあの時の子に会えるとは思わなかったからさ。そういやあいつは園芸部だとどうなの?」
「真面目だよ。先輩達からも頼られてるしね。」
たまにアホ扱いされてるけどな。
「あいつ変なところは真面目だからな。」
「なんか経験豊富だし」
やかましい!元おっさん舐めんな!
「ところで一ノ瀬さんって美人だね…びっくりしちゃった。」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない。山口さんだって美人よ?」
「一ノ瀬さん人気あるもんねー。」
女子達が盛り上がるが早坂さんだけ拗ねてるような、すこしふくれっ面になっている。まー山口さんとあまり会話しないもんな。悪い仲じゃないんだけど。
「どうしたの?」
「‥なんでもありません。」
「ほんと?」
「…本当ですよ。」
「あははっ。本当に可愛いね!」
ちょっと揶揄うような、だが拗ねた妹を可愛がる感じで山口さんは早坂さんのほっぺをつつく。早坂さんの顔が少し赤くなるがちょっとだけ睨みつける。
「…やめてください。苦手なんですそれ。」
「あ、ごめん。柔らかくて。」
「….昔それで揶揄われたので」
「えっ!?本当にごめん!」
「…いえいえ。」
申し訳なさそうに謝ると早坂さんは頷き、山口さんに耳打ちする。
「‥久川君は渡しませんよ。好きですから。」
「…私もだよ。だけど…ね?」
「…それでも…です。」
ちょっとだけバチバチした空気が流れて一ノ瀬と島村の表情が固くなる。
「ま、まぁ落ち着こうよ?」
「そうね。早坂さんは部活だとどうなの?」
「すごく真面目!頭もいいから羨ましいんだ。」
一ノ瀬が上手くフォローする。こう言う時のまとめ役として優秀なんだよな。
堅物だがよくアニメにいる細かいことまで厳しいやつじゃない。だからこそ皆んなに好かれているし反発なんて招いたこともない。
さて、そろそろ出るか。
次は校庭に行こう。みんなが賛成して外に出る。だがこれがまずかった。他校の生徒も来てるのだが、早坂さんと俺のことでトラブルになるとはこの時誰も思わなかったからだ。
食べ物を買って座って食べてると5人ぐらいのグループが前に立つ。見た事のない制服だから他校の生徒だろう。なんだ?と思いそいつらを見ると俺と早坂さんを指を刺して笑いながら見てくる。
「あれ?お前久川じゃん。何やってんのお前?」
「あれー?早坂〜私達のこと覚えてる〜?」
「……っ。」
「早坂は相変わらず静かだね〜?久川だっけ?平田からきいたよ?いじめられてたって?」
「知らん、誰だお前ら?」
平田という不良の1人が愕然とし、ギャルも目を丸くする。堂々と言い放ったからな。だって知らんし。お前のこと知らねえし。
「お前‥喧嘩売ってんのか?」
「いや本当に知らねえんだけど誰だお前?」
「て、てめぇ…」
不良のデコに青筋が立っているが気にしない。なんせこっちはビビるどころか真顔で言い放ったからだ。
「ねぇ早坂さん、この人たち知り合い?」
「……私を揶揄ってきた人ともう1人の女子は中学校の同級生です…。」
「覚えててくれたんだ!いやーよかった。早坂はさ、ガリ勉女ってみんなで揶揄ってたんだよね。静かだし何も言い返してこないし、いい子だよね〜。」
「そうそう!今でも勉強しかしてないの?それとも担任におべっかしはじめた?」
「…やめてください…」
ほっぺをつつき、別の女子が肩を組もうとすると早坂さんは怯えてビクッとする。昔のトラウマなのだろうか、震えている。
「いい加減にしなさい。不愉快だわ」
「うざいから消えてくんない?ムカつくんだけど。」
一ノ瀬と島村が明確に態度を出す。当然だ。友人をコケにされて黙って見過ごすなど出来るはずがないだろう。
「おい久川ぁ!てめえ舐めてんじゃねえぞ虐められてたくせによぉ!」
「ていうかお前性格変わってね?高校デビュー?」
久々に聞いたぞその単語。バレると恥ずかしいやつじゃねえか。
「何も言わねえからいじめ放題だったからな。な〜また金くれよ。バイトとかしてるだろ?」
「いい小遣い稼ぎになってたんだよな〜。昔みてえに教科書破られてもやり返してこねえんだろ?」
「うるせえなぁ…腹減ってんだから黙っててくんねえか?」
イライラが止まらない。何が悲しくて友人達とのランチタイムを邪魔されなきゃいけんのだ。だいたい怖くねえんだよお前ら。職人の爺さんの方が怖えっての。他の学生や一般人も見てきてざわついてるし。これ先生呼ばれるしお前ら停学になるぞ?
「舐めてんのか?ちょっと不良になったからって粋がってるんじゃねえぞ!」
「うるせえなぁ。…いっ!?」
しつけえなこいつら。知らねえものは知らねえっつうの!
イライラして立ちあがろうとすると頭痛が起きる。かなり痛く、右手で押さえてしまう。
その時だが一瞬記憶が流れてきた。いや、外からすると一瞬なのだろう。だが俺の心の中ではまるで時間が止まってるような感じだ。まるで深層空間のような場所だ。
暗闇の中で映像見たいのが流れている。これは‥久川の過去か?指を顎に当てて考え込む。
「ひでえなこれ…暴力だけじゃねえ。精神的な苦痛までやられてるな。ガキの頃の俺もこんなんだったな。クソ担任とクソ親め…」
昔のことを思い出しながら舌打ちする。不愉快極まりない。まるで昔の俺じゃないか。だがこれは‥間違いない。
「今見えてるのはやはり久川の過去か…?」
俺がつぶやくと1人の少年が現れた。
「うん、僕の過去だよ。」
「……本当の久川か。」
「初めまして…かな?中本亮平さん。」
見た目は久川そのまんまだが穏やかそうな少年だ。よく見ると俺は31歳の、元の世界の工場勤務のおっさんになっていた。
そして…俺の本名を知っている。誰も知らないはずの、『この世界では確実に知られていない俺の本名』を。
「うわ、久々に聞いたわその名前。まぁいいや、初めましてだな。」
「うん。ごめんね、いきなりこんなことになっちゃって…。今まで心の奥底で眠りについてたんだ。」
「なるほどな。今日見た夢はお前の過去だな?本当にあった事の。」
「そうだよ。文化祭で…あいつらが来るって勘が働いたんだ。予知夢を見れたとも言えるかな?だから伝えようと思って。」
「夢以外はなかったのか?語りかけるとかさ。あと頭痛はやめて、いてえから!」
まさか夢とは思わないだろ。語りかけてくるだろ普通!?
「あはは、ごめんごめん。それしかなかったんだ。僕も…ほぼついさっき起きたようなものだから。それでやっと外を見れたんだ。だから僕の過去を全て教えたかったんだ。」
「気にすんな。あんなカスはぶっ飛ばしてやるよ。そういや元の俺は?」
未だに疑問。そして知りたかったことだ。元の世界の俺はどうなったのかと?
「あ、うん。亡くなったんだよ、過労で。あとその、不健康な生活でかな?」
「察してたがなんか虚しいなおい。まーあんなブラック企業に勤めてたからなぁ…。80万かけたサバゲー装備どうなるんだろ?」
「そ、それはわからないけど‥」
オドオドしてるな。まぁそれは仕方ないさ。
「ま、もう前のこと気にしてもしょうがねえよ。お前の身体返してやろうか?なんか憑依したようなもんだろこれ。」
「う、う〜ん。戻れるのかな?というより互いに変われるのかな?今まで眠りについてたし、いきなり代わったらみんな驚くと思うよ?」
「それもそうか。明日休みだから試そうぜ?それで…あいつらをどうして欲しい?」
まぁ今はそんなことよりあのバカ共だ。正直言って不愉快極まりない。
本物の久川が涙を流す。長い間耐えてたのがわかる。それだけ辛かったのだろう。
「お願い…あいつらを…」
「任せろ、黙らせてやるよ。」
痛みがなくなりクソガキ共を睨みつける。いつものメンバー…早坂さん、中村、柊は怯えているが他のメンバーは徹底的に言い返している。
「本当に面白いことを言うわね?早坂さんをバカにするなんて‥貴方達みたいな人とは比べ物にならないくらい立派よ?」
「どうせ集団でいないと何もできない連中でしょ?」
「いじめを自慢げに言うなんて情けないと思わないのかな?いや、思わなかったらこんなことしないよね。」
痛烈な反撃にいじめてたバカどもがイラついている。
頭痛になったことも、俺が『本当』の久川と話していたのも誰も知らない。俺が久川と30分近く話してたような、そんな気がするのに一瞬の出来事だったのだろう。
「さっきからうるせえんだよ。他校の生徒なら迷惑かけんな!とっとと帰れよ!」
「ああ!?てめえ舐めてんのか!」
「だったら相手してやるよ!ふざけんなよお前!」
平賀ですら口が悪くなるほど激怒している。相手は男2人、女3人。こちらは逆だが平賀は1人でもやる気だ。
「こ、この…」
「あれ?口喧嘩で勝てないからって手を出そうとするんだ。早坂さんは耐えてきたのに?」
「アンタねえ!」
山口さんの痛烈な皮肉に顔が真っ赤になる。だがビビるどころか明確に、侮蔑の目で見下す。本気で怒っている。
「あ〜目が覚めた。」
こっちに戻ってきた俺は本気で我慢の限界を迎える。こいつらやりすぎてるからな。
「さっきからふざけてんじゃねえぞコラァ!」
平田とか言うバカが殴りかかってくる。不良達は囃し立て、いつもの友人達は心配そうな顔になる。
「てめえ!」
「他校でやる気なんて!」
平賀と一ノ瀬が驚く。安心しろ。こんなのに負ける気はしねえよ。
「ほいよ。」
パンチを軽く左手の手のひらで払いのける。
「なっ!?」
「遅いんだよボケが!」
バカが驚くが気にせずに素早く背後に周り、押し倒して拘束するような体制を取り、手を捻る。
「ぐあぁぁぁぁぁ!?痛え!痛えよ!」
「喚いてんじゃねえぞクソが!久川が受けてきた痛みはこんなものじゃねえだろうがよ!」
さらに手を捻るとタップしてくるが無視する。舐めてんのかこのバカは。
「てめえコラァ!」
仲間の1人が殴りかかってくる。俺は即座に反応して捻ってた手を離して立ち上がる。
「うるせえんだよこのボケが!」
パンチを躱して腹に1発叩き込む。
「俺はてめえらみてえのにやられてきたから社会人になった後鍛えたんだ!この中本亮平を甘く見んじゃねえぞこの馬鹿野郎が!!かかってきやがれ!!」
「え…?」
「誰…?久川君どうしたの…?」
みんなが俺の本名に驚いてるが気にしない。本物の久川の、あいつの苦しみを知ったら我慢できないからな。楽しい文化祭を台無しにしやがって!
うずくまる2人を睨みつける。手を出してしまったが仕方ない。だって先に手を出してきたのはそっちだもの。周りも見てるしね。
「どうした、まだやるか!?」
「や、やめてくれ!悪かった!俺たちが悪かった!」
2人が謝ってくるが、周りは不良達を白い目で見て、2人の女子も怯えている。
「お前達何をやってるんだ!」
「大丈夫か!?何があったんだ!」
学年主任を含めた先生達がくると不良達をとっ捕まえて連れて行く。
「すいません、殴りかかってきたのでやり返してしまいました。」
「本当か!?」
「待ってください、久川君は身を守るためにやったのです。先に手を出したのはあちらで、さらに早坂さんと久川君を馬鹿にしてきました。周りに言いふらすように。」
「周りの皆んなも見てます!」
「見てました!あの生徒はあそこの生徒達をを守るためにやったんです!」
他の生徒達が証言する。一ノ瀬と山口さんも必死に証言して、柊と中村、早坂さんも俺を停学にさせないように必死に説明して頼み込む。他の生徒達も同様だ。
「わかった、事情が事情だし周りも見てるからな。先に手を出したのも向こうだしまぁ仕方ないだろう。だが反省文は書いてもらうぞ?」
「すんません。」
「まぁ先生を呼ぶべきだったがな。とはいえ、仕方ない部分もある。それでいいさ。草刈りの礼もあるしな。」
肩をポンっと叩かれてお終いだ。あの馬鹿どもは職員室で体育教師達に囲まれ、そして30分後にそいつらの学校の先生がやってくる。他校で問題を起こしたから良くて停学、最悪退学だろうよ。先に手を出したし。ざまあみろ。
「…帰るわ。」
「久川君!?」
「迷惑かけたからな。打ち上げには参加するけど、こんな空気作っちまったからよ。」
「ちょっ、落ち着いて!」
「貴方は悪くないわよ!」
周りが止める中俺は校門に向かおうとする。その時、早坂さんが俺の手を握る。
「‥帰らないでください。それでは久川君が悪いみたいじゃないですか。」
「事実だろうよ。揉め事や喧嘩しちゃいけないのによ。」
「…悪いのはあの人たちです。久川君は、山口さんも、皆んなも守ろうとしたんですよ。帰る必要なんてありません。」
涙を流しながら引き止めてくる。
「…楽しみにしてたんです。お願いです久川君…。」
「わかった…。帰らねえよ。」
安堵した表情になり、2人でみんなの元に戻る。
「よかった…。久川君、早坂さんを悲しませないでよ。」
「そうそう、責任感じすぎ!久川らしくないよ!」
「そうよ、ほら、みんなでお店を見ましょ?まだ時間があるんだから。」
一ノ瀬が笑みを浮かべて提案する。全員が頷き、店を回ろうとすると早坂が立ち止まる。
「どうしたの?」
山口さんが穏やかな笑みを浮かべて近づくと驚く。涙をポロポロと流していたからだ。
「…皆さん、本当にありがとうございます。怖くて…本当に怖くて何もできなくて…」
「ふふっ、お礼なんていいのよ。友達のために言い返すなんて当たり前じゃない。」
「そうそう!アタシもあいつら気に入らなかったし、それに…あー言うの本音を言うと引っ叩きたかったからさ、久川に感謝してるんだよ!」
2人が慰め、山口さんも頭を撫でる。早坂さんは嗚咽を漏らす。よほど怖かったのだろう。
一ノ瀬が抱きしめる。
「本当に怖かったのね、もう心配することはないわ。もしあの人達が仕返しに来たら私に伝えて。絶対に手出しはさせないわ。私のお父さん弁護士だから。私も法律に自信あるのよ?教えてもらってるからね。」
「…はい。」
「私も手を貸すよ!怖くないしね!」
「私にも伝えて?力になれることあるかもしれないから。」
「怖え。」
女子達がやる気満々だ。まぁ俺もあの馬鹿どもが来たらやり返すが。
「ったく、よくやるよお前。」
「うん、だけどかっこよかった!さすが久川君だよ!」
「本当だよ!格闘技やってる人みたいだったもん!」
中村と柊が目を輝かせ、平賀も笑いながら肩を叩いてくる。
まぁこう言うのも悪くないか。
「ねえ久川君、その…さっき言ってた中本亮平って誰なの?」
柊の鋭い質問に固まる。勿論全員が俺を見てくる。
「……後で話す。今日は勘弁してくれ。」
それだけしか言えない。流石に疑惑の視線を向けられるが仕方ないのだ。
とは言え、最後の数時間を楽しもう。俺たちは笑い合い、出店を周る。くだらないトラブルがあったが、それでも最高の1日だった。
別れて園芸部に向かう。さて、打ち上げが待ってるぞ!
「……すっきりしたよ。」
「はっ、あんなの怖くもなんともねえよ。眠りにつくのか?」
「うん、久々に起きたから疲れちゃってね。打ち上げ楽しんでね。…それじゃまた明日。」
暗闇の中で久川が眠りにつく。ゆっくり休んでくれ。




