第29話 話したいこととある少女の思い part2
昨日、山口は告白してあまりにも酷く振られた。
「そ、そんな…」
「それにさ、花の絵ばっか描いてて気持ち悪いんだよね。花が好きな私可愛いと思ってんの?」
優しい人だと思った。かっこよくて、クラスの人気者で、頭も良い。女子からすごく人気があった。
絵を褒めてくれて、課題も手伝ってくれて、その時に惚れて…こんな人だとは思わなかった。悔しくて涙が出てしまう。
ニヤケ面でバカにした笑みをして、本性を表す。その時だった。勢いよくドアが開いて、1人の男子が入ってくる。あれ…あの人って…
翌日、教室で友達に慰められる。
「山口さん、大丈夫?」
「話聞いたよ。あんな奴だったなんて…」
「うん、大丈夫だよ。別のクラスの人が怒ってくれたんだ。」
クラスメイト達がキョトンとする。なんで別のクラスの生徒が?
「ほら、例のあの人…。園芸部の人が友達とこっそり見にきてて、それで石川君の態度に怒って入ってきたんだ。」
「覗いてたんかい。」
「謝ってきたけどね。けどなんだろ‥すごかったよ。」
「何が?」
「動画で見て覚えたとかなんとかって言ってたけど…胸ぐら掴まれてたのに、冷静に対処してたんだ。技をかけてて…」
胸ぐらを掴まれていたのに冷静に対処していた。普通の高校生なら大抵は驚くかびっくりするだろう。
「ちょっと変な人だけど…興味持ってきちゃったよ。」
「久川君…どんな人生送ってきてるの?」
何かがおかしい。作業着を着るのが慣れてたり、やったことのないはずの金属加工を平然とできて、しかも喧嘩を売られても冷静に対処する…。本当に同級生なのか疑問に思ってきていた。
「ねえ、中村君、私も園芸部に入部していいかな?あの人…ちょっと面白そうだし。」
そして山口は園芸部に入ることにした。久川に興味を持ち、会いに行くために。
俺と早坂の2人はチャリを押しながら駅に向かう。
「なぁ…早坂さんは文化祭楽しみなのか?」
「はい…楽しみです。友達と一緒に歩くのが初めてでして…。中学生の頃まで友達…いませんでしたから。」
「…ごめん。」
思い出したくなさそうに呟き、俯く姿に申し訳なく思ってしまう。
俺も余り友達いなかったからな。いや、いるにはいたが、高校卒業後は会わなくなったからな。友達ってなんだろうな。とふいに思う。
この世界でも、高校卒業して離れたら誰とも会わなくなるのだろうか。地元を離れる者、親の後を継いで店を経営する者、隣県どころか他地方にまで行く者、どうなるのか考えてしまう。
「なあ、話題変わるけどさ、早坂さんは進路とか考えてるのか?」
「え…?そうですね…大学に行こうと思ってますけど‥」
大学か、だよなぁ。早坂さんは間違いなく進学するとは思っていたが。
「…久川くんは?」
「就職かな。近場の工場で働くか、猛勉強して大手行くか、まーもう勉強なんてしたくねえしよ。」
就職か進学か、大半の者は高校で決めるだろう。中卒だと就職が難しい今、いじめに耐えてでも中学を卒業し、高校も卒業しなくてはならない。
社会というシステムはそう回っている。高校を卒業するのは社会に出るための第一段階なのだ。大学か、専門学校か、就職か、学生でありながら社会に出ることも考えなければならない。高一だと実感は湧かないが、実際はもう社会に出る道は始まっている。社会人を経験したからこそ身に染みている。3年間というのはあっという間だからだ。
「…考えてるんですね。私はただ大学に行こうかなって思ってるくらいです。」
「まぁそうだよなー。進学するとしたら専門かねー。大学行けば大手企業狙いやすいけどさ。」
「な、成程…だけどもう少し…ゆっくり考えていろんな道を考えても…」
ゆっくり考えてもいい、そうかも知れない。『まだ学生だったら』その考えでもいいかも知れない。だが違う。
人生とは何か?子供の頃は普通の生活を送っているからこそこう思うかもしれない。
アニメみたいに楽しい学校生活を送り、良き伴侶に恵まれ、汗水流しながら働いて、一軒家を買い、車に乗って週末は家族と出かける。連休はキャンプや旅行に行く…まさに理想のプランだろう。
だが現実だとなんだ?学校ではいじめと嘲笑、保身を考え何もしない教師、無視すればいいとしか言わない親、必死に耐えても意味なんてない。いじめっ子達は好きな学校に進学できるが、いじめられっ子は落ちて私立に行く者もいる。そして就職活動。多くの道はあれど、安月給、パワハラ、理不尽などが待ち受けている。社会の歯車として生きていく。前世の俺もそうだが、いや、今もだが彼女なんてできない。一人暮らしか実家暮らし、もし彼女ができて結婚したとしても関係が悪化して離婚したり完璧に冷え切った友人達の話…それが社会というものだ。それから逃れるには?今から資格を取れるようにして、良い大手かホワイトな中小に行くしかない。
「ゆっくり考えてもいい…ね。」
「私は‥そう思います。」
「大学に行くと確かに大手に行きやすくなるけど金かかるしなぁ‥」
大学ね、まぁある意味二度目の人生だ。もう少し、焦らずに考えてもいいのかも知れない。車の走る音が聞こえ、夕陽を背景に鳥の鳴き声を聞きながら俺と早坂は帰路についていた。




