11 閑話
寝起きの悪い良樹を叩き起こし、朝飯を喰わせる。
出勤しようとする良樹にゴミ出しとけと言いつけ、朝のニュースをチェック。どこかの殺人事件などで朝から少し気分を悪くしつつ、コーヒーを啜る。そしてそのあと朝の連続テレビ小説を見ながら「今年のは当たりだな」とか考える。ついでにアサイチも見る。
食器の片付けを終えて、洗濯機を回している間に部屋の掃除を済ませる。
するともう午前中の仕事は大体終わりだ。ペースよく進むと気分がいい。
洗濯物を干しながら、爽やかな風と暖かな陽射しを感じる。今日は天気がいい。散歩に行こう。思い立ったらすぐ行動。
先日「さすがにその外見でステテコと腹巻は止めてくれ」と良樹に渡された洋服を着込み、意気揚々と外に出た。
近所の商店街を歩いた。駅ビルの大きな商業施設は商店街の客を吸いとってしまうらしく、人は疎らでシャッターで閉じられた店も目立つ。しかし開いている店もちゃんとある。
いつも商店街で買い物をする鴇は、まだこっちに来て数週間しか経っていないが、既に『やけにイケメンで人懐っこい兄ちゃんが出没する』と近所では有名になりつつある。
「あら鴇ちゃんじゃないのー」
「お、ちーちゃん。」
ちーちゃんと呼ばれた中年の女性は、魚屋の奥さんだ。
袴田千鶴だから、ちーちゃん。今年還暦になる。この商店街の婦人会会長を勤める彼女は、先日まで若い男性アイドルに夢中だったが、今ではその関心は鴇に向けられている。
「今日良い鯵が入ったのよー!持っていって!
南蛮漬けにでもしたら美味しいわよー」
「おー美味そうだなそりゃ。帰りにまた寄るからそん時くれよ」
「はいよ!鴇ちゃんちの分はちゃんととっとくわ!」
またちょっと歩くとすぐ声をかけられた。
「あ!鴇くん!」
「ん?どうした、おたまちゃん。」
八百屋の女将、林珠江である。
30代と、この商店街ではかなり若い方ではあるが、4児の母で、ヘタレな亭主を引っ張る肝っ玉母ちゃんだ。
ヘタレの亭主と違い、サバサバと気持ちのいい鴇に、彼女も夢中だ。比べるのも失礼とは珠江の談である。婦人会の中ではかなり若いため、商店街の中ではマドンナと言われている。彼女はそれを利用して鴇に猛アタックしてくる。一応浮気ではないらしい。
「これ、鴇くんの好物のミカン。
今年のはうんと甘くて美味しいから!サービスね!」
「お、ありがとな、おたまちゃん。」
「ふふふ」
そしてまたちょっと歩く。するとドラッグストアが見えて来た。店先には白衣を着た中年男性が立っている。
「お、来たな!男の敵!」
チビでハゲでデブの三拍子揃えたこの男性は少し自虐的な所が目立つが、話してみると、とても面白い。特技は手品。道夫は何かにつけて鴇に絡んでくるが、帰りにはいつもレジ横に置いてあるのど飴を渡してくる。
「くははっ今貰ったミカンやるよ」
「敵の施しは、うけん!」
「ま、そう言うなよ。」
「ありがとう。」
そのあとは商店街を抜け、近くの大きな公園の芝生の上で寝っ転がる。
たまに近くで遊んでいた3、4歳の子供や、鴇の容姿に惹かれた女性に話しかけられたりする。それにそこそこに応えつつ、ボーッと過ごす。
帰り道、また商店街に寄った。そこで、婦人会の集団に絡まれる。
鴇は気付いていないが、これは婦人会の最近の活動内容の一つである。婦人会の人間が鴇に出会ったら速やかに他の婦人会のメンバーに連絡を入れる。そして皆で目の保養をし、明日も一日頑張ろうと誓い合うのだ。婦人会は鴇の非公式ファンクラブになりつつある。
「鴇ちゃんってちょっとミステリアスよねー」
「そうかィ?」
「そうよねー」
「そうねーちょっと浮世離れしてる所あるわね。」
「実はお偉いさんなの?」
「俺ァただの『旗本の三男坊』だよ。」
「やだ、お侍様なのね!」
「っていうか上様よね!」
冗談を言い合いつつ、鴇は買い物を済ませ帰宅する。
先ほど貰ったミカンに舌鼓をうちながら、夕方の再放送の時代劇を見る。
続けて夕方のワイドショーを流し見し、そろそろいい時刻だと、晩ご飯を作り始めた。商店街でオマケをしてもらいまくったお陰で今日の晩飯は量が多い。
テーブルに豪勢に並んだオカズを見て良樹はため息をついた。
「親父…商店街の人たち誑し込んで来たな?」
「ま、俺ァ男前だからな。」




